『鎌倉殿の13人』源頼朝を待ち受ける未来
「大泉洋の死」を私はこう予想する
片岡愛之助を忘れない
奥州藤原氏を滅亡させ、征夷大将軍を授かり武家の頂点に立った頼朝は、相模川の橋供養の帰路、体調を崩し、急死する。
「死因は供養の帰りの落馬事故、あるいは『飲水の病』=糖尿病など、さまざまに言われています。しかし確かなことはわかっていません。史実としてほぼ確実視されているのは、建久9年の12月27日に体調を崩し、翌年1月13日に死んだということだけです」(歴史学者・細川重男氏)
落馬説や糖尿病説のほか、頼朝は義経や平家一門、安徳天皇といった自分のせいで死んだ者たちの亡霊に遭遇し、恐怖のあまり馬から落ちた、という説まであるという。
実は三谷氏が今回の原作と思っている、と口にしている『吾妻鏡』は、頼朝の最晩年3年間の記述がごっそり抜けている。
江戸時代には『吾妻鏡』の愛読者だった徳川家康が、英雄・頼朝の死の真相をはばかって記述を脱落させたという噂もあったほどだ。ここで三谷氏が想像の翼を広げないわけがない。
三谷ドラマの世界で、頼朝の死に、義時が関係ないということなど、ありえるのだろうか?
『執権義時に消された13人』の著者である作家兼文芸評論家の榎本秋氏はこう推理する。
「源平モノ、鎌倉モノのドラマはこれまで平家をメインにした悲劇でまとめるか、源氏(特に源義経)をメインにしたヒーロー活劇でまとめるのが定番でした。そのベースになったのは軍記物の『平家物語』で、ここには頼朝の死は記述されていませんから、頼朝の死についてはあまり触れられてこなかったのです。
しかし三谷さんは、今回の主人公として頼朝でも義経でもなく北条義時を選んだ。ドラマ的な盛り上がりを考えたら、義時があずかり知らないところで頼朝が死ぬとはちょっと考えられません。
かといって義時が手を下すかというと……その時点では心境は変化しつつも、まだそこまでではないと私は思うのです。
たとえば―ですが、次期将軍として頼朝の嫡男・源頼家を擁する比企一族らと次男・源実朝を擁する北条の双方にとって頼朝が邪魔になり、暗黙の了解で排除することになる。義時もそれをあえて止めない……という展開は面白そうだなと。
頼朝はドラマの最初と同じ一人ぼっちに戻り、孤独のうちに死ぬ。三谷さんが好きそうな筋書きと思うのですが、どうでしょうか」
熱烈な三谷ファンで、氏が手がけた大河『新選組!』『真田丸』もずっと視聴していたという時代小説作家・矢野隆氏はさらに一歩踏み込んだ推理を展開する。
「私は、義時が頼朝にどう仕えていくかという序盤の時点で、すでに伏線が張られているとみます。それは第5回で、兄の北条宗時(片岡愛之助)が死ぬ前、義時に明かした言葉です。『俺はな、実は平家とか源氏とかそんなこと、どうでもいいんだ。坂東武者だけの世を作る。そして、そのてっぺんに北条が立つ』義時の中には、宗時のこの最後の言葉が常にあると思います」
ここには“源氏は、坂東武者ではない”という重大な前提が秘められている。コメディタッチをまぶしながら後白河法皇(西田敏行)を何度も頼朝の夢枕に立たせたことも、源氏が都の貴族に仕える身分であったことを示していた。
「北条が権力を掌握するまでに、義時が激変する時が来るのでは。八重に対してひたすら誠実に接する、わかりやすいお人好しぶりを演出しているのも、その布石じゃないでしょうか」
最後の表情が見もの
こう語る矢野氏は『鎌倉殿の13人』のポスターも未来を暗示しているのではと考えている。
小栗旬演じる義時が不敵な笑みを湛えて両手を広げ、そこから布が押し寄せてくるデザインは、幕府の執権として御家人たちを“束ねる”象徴。それは、坂東武者として目覚めた小栗旬が独裁者・大泉洋を超えていくということを示しているのではないかと言うのだ。
「私が歴史小説を書くときもそうですが、大きな結末は決まっている。今回で言うと鎌倉幕府において源氏将軍は3代で滅びるということ。執権・義時らは『承久の乱』で、後鳥羽上皇ら京都の朝廷を打ち破ること。そして北条得宗家は義時→泰時→その子孫と、9代にわたって続き鎌倉時代を作るということ。これは動かせないストーリーです。三谷幸喜という人は、最高のドラマを作る名手なので、物語をどう盛り上げるかを入念に考えている。とすると源氏が途絶える原因となる頼朝の死は、ドラマチックに展開させるはず。だからドラマ上で義時が頼朝を殺すことは十分あると思います」(矢野氏)
また頼朝の死には刺客・善児が関わってくるのではという声も聞かれた。
「善児を使って人為的に落馬させ、頼朝を起き上がれなくする。その背後に義時がいると思います」(メディア文化評論家の碓井広義氏)
矢野氏が言う。
「頼朝臨終のシーンで、頼朝と義時の最後の会話があったらゾクッとしませんか。義時が起き上がれない頼朝に対してドライに『それでは、お大事に』と言うだけでも十二分に怖い。小栗さんに騙されて利用されて殺される最後の瞬間の、大泉さんのラストアクトは鳥肌ものでしょう。死の間際に(俺は利用されていた……)と、どんな表情をするのか。三谷さんは大泉さんという役者の使い方が上手い。頼朝の最期の勘所は押さえていると思います」
NHKがあらすじを発表しているのは、4月22日時点で平泉での義経滅亡まで。頼朝の最期はまだ明らかにされていない。
(『週刊現代』2022年4月30日・5月7日号より)