週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
決闘はラブシーン? 時代劇を楽しむ“コツ”
春日太一 『時代劇入門』
角川新書 990円
演出家の源孝志が、文化庁主催「芸術選奨」の放送部門で文部科学大臣賞を受賞した。代表作は内野聖陽主演『スローな武士にしてくれ』(NHK)である。
斜陽と言われて久しい時代劇を守り続けるスタッフや俳優たち。狂気と紙一重のような彼らの情熱、そして矜持と哀歓を描いた秀作だ。このドラマの最後に、登場人物である映画監督、国重五郎(石橋蓮司)の言葉が表示される。「二人の男と二本の刀さえあれば映画は撮れる」と。
春日太一『時代劇入門』は、時代劇という桃源郷を世に再認識させる「触れ太鼓」であり、迷宮へといざなう「招待状」だ。
では、そもそも時代劇とは何なのか。著者が挙げる成立要件は、新しい表現手段と現代の空気を取り込むこと。過去の舞台設定に現代的な問題意識を盛り込み、そこにチャンバラを加えたのが時代劇だという。
本書は時代劇の歴史にはじまり、基礎知識、重要テーマ、さらにチャンバラの愉しみと続くが、随所で展開される著者の持論が刺激的だ。
例えば、「どれだけ荒唐無稽でめちゃくちゃなことをやっても、そこに説得力があれば、面白くてエンターテイメントとして成り立っていれば、それでOKなのが時代劇です」。
またチャンバラの魅力をリアルファイト以上に迫力のある映像に求め、「決闘はラブシーンだ!」と言い切る。この思い入れこそが著者の真骨頂であり、本書は時代劇への熱烈な「ラブレター」となっている。
(週刊新潮 2020年4月16日号)