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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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小説『運命の人』の事実とフィクション

2009年06月08日 | 本・新聞・雑誌・活字
山崎豊子さんの新刊『運命の人』第3巻を読み終わった。

1巻、2巻は4月に同時発売されており、これで残りは最終巻のみとなった。

この物語は、山崎さんの他の作品、『華麗なる一族』や『不毛地帯』、10年前の『沈まぬ太陽』などと同様、実際の出来事、実在の人物がモチーフになっている。

それは、1971年の沖縄返還交渉をめぐり、当時、毎日新聞の西山記者が政府機密文書を国会議員に流したとして、国家公務員法違反で有罪とされた、いわゆる「外務省機密漏洩事件」である。

小説の主人公は、毎朝新聞記者の弓成亮太となっている。沖縄返還に関する日米間の「密約」の存在を追っていた。そして、彼に機密文書を渡したのが外務省事務官・三木昭子だ。

現実の西山記者と女性事務官も、単なる取材者と被取材者だっただけでなく、男女関係にあったため、当時、「情を通じて」という表現でスキャンダラスに報じられた。

二人は起訴され、裁判になったが、最新刊の第3巻も、多くのページが法廷場面に割かれている。

「知る権利」「報道の自由」を主張する記者と新聞側。

しかし、一方では男女関係のことを含む取材方法や、またニュースソースを秘匿出来なかった点などが問題となる。

いや、それよりも、互いに家庭があった弓成と三木。家族を苦しめたことで、生身の人間としての苦悩も大きい。

この巻は、1審で無罪だった弓成が2審で有罪となり、最高裁に控訴するが、棄却されるところで終わっている。

現実の出来事を徹底的に取材し、全体をフィクションとして構成。

その上で、登場人物たちの心情にまで踏み込んだ重層的な人間ドラマを作り出す山崎豊子さんの手法は、この作品でも存分に生かされている。

運命の人(三)
山崎 豊子
文藝春秋

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