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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

やさしい悪魔はキャンディーズ、優しい悪魔は紫煙の彼方

2008年06月22日 | 本・新聞・雑誌・活字
ついに登場した。新ジャンルの文学である。いわば<禁煙小説>。垣谷美雨さんの『優しい悪魔』(実業之日本社)のことだ。うーん、いつかはこういうのが出てくるとは思ったが、ほんとに出てきちゃったのね。

ヘビーというほどではないが、十分に愛煙家で、しかもこれまで何度も禁煙に挑戦しては敗北し続けている岩崎佐和子(40歳)が主人公。絵本作家の夫と高校生の娘がいる。収入の不安定な夫に代わり、佐和子が一家の大黒柱だ。一般企業の一般職としてずっと働いている。タバコは佐和子の必需品だ。この小説には、タバコの害についても、いくつかの禁煙法についても、ストーリーにからめて説明が登場する。しかし、佐和子は一日たりとも禁煙できない。

面白いのは、佐和子の目を通して見た、現代の「禁煙社会」ぶりだ。会社の中にあった喫煙コーナーが”お取り潰し”となり、屋外の吹きさらしへと追いやられる。喫煙仲間が減っていく。タバコを吸うために立ち寄っていたドーナツショップが店内全面禁煙になる。分煙の店の入り口で、店員から「タバコはお吸いですか」と聞かれ、「吸います」と答えたときの店員の目つきが気になる。いや、そんなことより、佐和子は自分を「禁煙もできない意志の弱い人間」として意識させられること自体、とても不愉快なのだ。

読んでいて「うーん、分かる分かる」と苦笑いする私も喫煙者である。ルールもマナーも守り、タバコを通じて過分な税金も献上していながら、最近の、喫煙者が病人どころか、まるで犯罪者扱いされる風潮に対して、結構憤っている。迫害と弾圧。「禁煙ファシズム」という言葉も思い浮かぶ。

なんなんだ、あのカード「タスポ」。言いづらい名前だ。未成年が自動販売機でタバコを買えないようにという名目ではあるが、あれも喫煙者にとって不便な状況を生み出す、一種の弾圧政策に違いない。そして、「タバコ1箱1000円」構想。高くすれば買わなく(買えなく)なって、世の中から”悪の化身”喫煙者が減るという目論見である。いっそ1箱1万円にしたらいい。いや、かつてのアメリカのごとく、禁酒法ならぬ「禁煙法」でも制定しますか?

禁煙法が出来れば、きっと喫煙者は地下に潜るね。どこかのビルの地下に「もぐりの喫煙バー」があって、ドアをノックすると小窓が開いて誰何されるのだ。持っているだけで罪に問われる「ライター」を取り出し、相手に見せる。するとドアが開くのだが、もちろん室内は紫煙の渦だ・・。

いや、つい興奮して妄想に走ってしまった。『優しい悪魔』の佐和子の話だった。佐和子は、偶然知り合った女医が「禁煙外来」の専門家だったことから、この女医のいる病院の門をくぐる。これが最後の戦いと自分に言い聞かせる佐和子。果たして、彼女は本当にタバコをやめられるのか?


昨日(土)から今日にかけて、信州・上諏訪の温泉旅館「朱白」で行われた、中学校の同窓会に出かけてきた。参加者は50人以上。久しぶりで見る顔も多く、記憶の中にある40年前の顔を探し出す。

泊りがけだから、夕方からの宴会(?)の後も、いくつかの部屋に分散して2次会、3次会。結局5時近くまで、わいわいと飲み、語り続ける。朝、最上階にある展望露天風呂に一人でつかりながら、目の前にひろがる諏訪湖をのんびりと眺めた。風呂上り、ゆっくりと吸い込む1本の美味かったことは言うまでもない。

優しい悪魔
垣谷 美雨
実業之日本社

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禁煙ファシズムと戦う (ベスト新書)
小谷野 敦,斎藤 貴男,栗原 裕一郎
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