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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

名古屋の焼きそばと、ミステリートレイン型エッセイ

2008年06月08日 | 本・新聞・雑誌・活字
名古屋の中京大学でマスコミ学会春季研究発表大会。新横浜から名古屋までって、「のぞみ」ならわずか1時間20分だ。すごいねえ、って今ごろ感動してるのもヘンだが、とにかく速い。名古屋駅から地下鉄東山線で伏見まで行き、鶴舞線に乗り換えて八事駅下車。地下鉄の駅から地上に出ると、まんま中京大の校舎だった。

車中では、ひたすら丸谷才一さんの新刊エッセイ集『月とメロン』を読み続ける。

前から思っていたんだけど、丸谷さんのエッセイの楽しさって、ミステリートレインに似てるんじゃないかな。行き先を伏せたまま出発する、あのお楽しみ列車だ。乗客は、見知らぬ風景の中をわくわくしながら走り、気がつけば思いもせぬ場所にまで到達している。この本の中のエッセイでも、バンドネオンと「新宿鮫」と巌流島がいつの間にかつながってしまう。あちらと思えば、またこちら。知的遊戯にノセられて味わう知的快楽。ちょっとした”精神のゼイタク”でもある。やはり名人芸なんだよなあ。

月とメロン
丸谷 才一
文藝春秋

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中京大に着いて、まずは腹ごしらえと思い、近くの喫茶店に入る。この店を36年やってる(と後で分かった)オカミサンは、テーブル席についた私に、いきなり聞いたね。

「お客さん、日本人?」
「え? はい、そうです」(どういう意味?)
「そ、ならいい」
「・・・・」(何がよかったんだ?)
「で、何? コーヒー?」
「いえ、昼飯を」
「焼きソバでいい?」
「はい」(そうえば、隣のテーブルの客も焼きソバだ)
「ソース? それとも醤油?」
「じゃあ、ソースで。後でコーヒーもください」
「はいよ。コーヒーはホット? アイス?」
「ホットでお願いします」
「うん、コーヒーはホットじゃなきゃね」
「・・・・」(そうなのか?)
「アイスはコーヒーじゃないでしょ」
「そうなんですか」
「そ、コーヒーはホットよ」
「はい」(ホット注文してよかった)

てな会話があり、まるで昔から知ってる親戚のウチで食べるような昼飯になった。オカミサンによれば、中京大は、週末になると、学会やらシンポジウムやらの催し物が多いんだそうな。「ほら、ここ交通の便がいいしね」だそうだ。36年やってると、覚えている大学の先生の名前も膨大なんだって。確かに、私も中京大にいたら毎日来ちゃうかもしれない、と思った。

さて、お目当てのシンポジウムだ。タイトルは「『あるある大事典Ⅱ』をめぐる諸問題とテレビの質的向上」。司会は同志社大・渡辺武達さん、パネラーには、上智大の音好宏さん、TBSの金平茂紀さん、関西テレビの大場英幸さん、そして立教大の服部孝章さんだ。

このシンポジウムを聞きに来たのは、あれから1年以上が過ぎて、「あるある」で露呈した問題が、今どうなっているのか、が知りたかったからだ。

全体で3時間半の長丁場。分かったこと、腑に落ちないこと、それぞれあった。「現場」という言葉は出たが、制作会社についての話はほとんど出なかった。今やバラエティや情報番組だけじゃなく、報道番組にも派遣の形で制作会社のスタッフが入っている。放送について語る際に、放送局のことだけを問題にしていてもダメなんだけどな、と思ったりしながら聞いていた。

パネラーの中では、特にTBSの金平さんの発言が面白く、刺激的だった。「質問」の形で問題提起をしていたのだ。金平さん、いわく・・

1 「あるある」は関西テレビだけの問題か?
2 学者・研究者にテレビを批判する資格はあるのか?
3 送り手だけの問題なのか?
4 テレビ側の自主規制でいいのか?

シンポジウムが、これらの課題を展開するようならば、きっと、より深い議論になったと思うのだが、実際には、そういうふうにはならなかった。惜しい。でも、自分なりに、いくつか収穫はあったので、行ってよかった。焼きソバも食べたし。

帰りの車中でも、ひたすら『月とメロン』を楽しむ。