信州にある故郷の町から、いつも穂高岳が見えた。真夏以外は白い雪で覆われた頂上が美しかった。子どもの頃、そんなアルプスは下界から眺めるものであり、県外から来た登山客が登ったり、ときに遭難したりする場所だった。決して自分が登るところではなかった。しかし、山には、そこへ自らの意思と身体で登った者にしか分からない”何か”がある、ということだけは想像できた。
笹本稜平さんの新作『還るべき場所』(文藝春秋)がいい。山岳小説の傑作のひとつに数えていいんじゃないか、と思うくらいだ。物語の背景としての山ではなく、山そのものが、もうひとりの主人公であるかのような存在感をもっている。
舞台となるのは、カラコルム山脈にあるK2。標高は8611mで、世界第2位の高さを誇る。1位はおなじみのエベレストだが、傾斜や天候は非常に厳しく、難しさでは世界一といわれている。
高校時代から山に魅せられ、登り続けてきた矢代翔平。4年前、翔平は恋人の聖美とともにK2に挑み、事故で聖美を失った。半ば死んだように暮らしていたが、昔からの仲間の誘いで、再度K2に向かうことになる。
今度は登山ツアー(かなり豪華)のガイド役を務めるのだが、これに参加している心臓ペースメーカーの創業者・神津邦正の存在がまた面白い。自身の会社から追われるかもしれないような企業内抗争の最中、神津は命がけで山に登ろうとしているのだ。
彼らを待つのは、人間が生きること、いや、そこに居ること自体が困難だというような場所。極限の地。あまりに過酷な自然だ。そんな“魔の山”で、翔平や神津たちが見たものとは・・・。
笹本さんが、エベレストを舞台にした山岳冒険小説『天空への回廊』や、南極を飛ぶ極地パイロットを主人公にした『極点飛行』などで鍛えた、自然と人間を描く力が遺憾なく発揮されている。
神津の言葉:
「人間は夢を食って生きる動物だ。夢を見る力を失った人生は地獄だ。夢はこの
世界の不条理を忘れさせてくれる。夢はこの世界が生きるに値するものだと信
じさせてくれる」
神津の部下・竹原の言葉:
「人生とはやり直しのできない一筆書きのようなものだと思う。一度描いてしま
った線は修正がきかない。できるのはその先をさらに描き続けることだけだ」
翔平の父・道輝の言葉:
「砂漠のような人生に、大輪の花を咲かせることのできる人間こそ一流だ」
笹本稜平さんの新作『還るべき場所』(文藝春秋)がいい。山岳小説の傑作のひとつに数えていいんじゃないか、と思うくらいだ。物語の背景としての山ではなく、山そのものが、もうひとりの主人公であるかのような存在感をもっている。
舞台となるのは、カラコルム山脈にあるK2。標高は8611mで、世界第2位の高さを誇る。1位はおなじみのエベレストだが、傾斜や天候は非常に厳しく、難しさでは世界一といわれている。
高校時代から山に魅せられ、登り続けてきた矢代翔平。4年前、翔平は恋人の聖美とともにK2に挑み、事故で聖美を失った。半ば死んだように暮らしていたが、昔からの仲間の誘いで、再度K2に向かうことになる。
今度は登山ツアー(かなり豪華)のガイド役を務めるのだが、これに参加している心臓ペースメーカーの創業者・神津邦正の存在がまた面白い。自身の会社から追われるかもしれないような企業内抗争の最中、神津は命がけで山に登ろうとしているのだ。
彼らを待つのは、人間が生きること、いや、そこに居ること自体が困難だというような場所。極限の地。あまりに過酷な自然だ。そんな“魔の山”で、翔平や神津たちが見たものとは・・・。
笹本さんが、エベレストを舞台にした山岳冒険小説『天空への回廊』や、南極を飛ぶ極地パイロットを主人公にした『極点飛行』などで鍛えた、自然と人間を描く力が遺憾なく発揮されている。
神津の言葉:
「人間は夢を食って生きる動物だ。夢を見る力を失った人生は地獄だ。夢はこの
世界の不条理を忘れさせてくれる。夢はこの世界が生きるに値するものだと信
じさせてくれる」
神津の部下・竹原の言葉:
「人生とはやり直しのできない一筆書きのようなものだと思う。一度描いてしま
った線は修正がきかない。できるのはその先をさらに描き続けることだけだ」
翔平の父・道輝の言葉:
「砂漠のような人生に、大輪の花を咲かせることのできる人間こそ一流だ」
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