明日元気になれ。―part2

毎日いろいろあるけれど、とりあえずご飯と酒がおいしけりゃ、
明日もなんとかなるんじゃないか?

『静かな爆弾』 吉田修一

2008-03-25 23:12:09 | 
今年に入ってから、月に1、2冊しか本を読んでいない……。
通勤がなくなったので、家で本を読むという習慣をなかなか作れないでいる。
ただ、これではいけないと、なるべく寝る前の1時半~2時までの30分でも読書に充てようと決めた。

久しぶりに、吉田修一作品を読んだ。

吉田修一といえば、「パーク・ライフ」を読んだのが初めで、中野が「吉田修一なら『パレード』が好き」というので、次は「パレード」を読んで、そこからハマッて8~9割程度の作品は読んでいる。

読むたびに思うのは、私なんかと並べること自体が申し訳ないが、あくまでも書き手視点で「この人って、才能豊かだなぁ」ということだ。
好き嫌いはもちろんあると思うし、読者としてみればまた違うのだろうが。

例えば、石田衣良は好きだけど、彼の女性視点の作品ってどこまでいっても男性が書いているという感じがして仕方がない。
でも、吉田修一は違う。
『7月24日通り』などで見せた女性視点の作品は、その違和感のなさが見事としか言いようがない。
かと思えば、ギラギラで、ねっとりとした、男臭さが漂ってくるようなハードボイルドな作品も書ける。
そして、『東京湾景』のような純文学の薫り高い作品も生み出せる。

また、新作を発表するスピードが速い。
本屋に行くと「え、もう新しいの出たの?」という感じだ。
だけど、作品の質が落ちない。
いろんなタイプの作品を書く作家だから、好みはあるだろうが、それでも年々マンネリになるとか、もう枯渇してるんじゃないかとか、そういった印象もなく、商業作家的なつまらなさもない。
どれもがまるで処女作のような初々しい輝きがある(ように私には見える)。
そして、しっかりと「文学的」だ。
エンターテイメント的な要素もあるのだけれど。

今回読んだのは、おそらく最新作の『静かな爆弾』。
1行で言えば、「テレビ局に勤める男性と、耳の聴こえない女性の恋愛ストーリー」だ。

「耳が聴こえない」というフレーズを出してしまうことをためらうほど、不自由なことを主張した物語ではなくて。
確かに全編を通してそれはキーワードになってはいるのだが、なんといったらいいのか……、それはその女性の「個性」でしかないのだ。
そのことが物語を引っ張ってはいない。

引っ張っているのは、むしろ何かもやもやとしている男性の気持ちのほうで。
そして、結末もその気持ちの終結をもって締め括られる。

この作品は、一度読んだだけではここにレヴューを書くのがためらわれる。
学生の頃、文学を学問として勉強していた私としては、研究対象にしたら面白い作品だなぁという感じ。
「爆弾犯」を追う彼と「耳が聴こえない」彼女の対比。
物語に出てくる「神様」の意味。
彼の両親との関係。
……様々な視点でもう少しじっくり検証したい。

単純に「面白かった!」というわけではなく、
もう一度読んで、考えてみたいことがいろいろある、そういう作品だった。

★印象に残ったセリフ

   子供って、誰かに伝えたいと思って、木に登るわけじゃ
   ないんだよ。木に登ったらどんな景色が見えるのか、
   ただ、それが知りたくて登るだけなんだよ。
   でもさ、年取ってくると、木に登らなくなる。
   万が一、登ったとしても、それを誰かに伝えたいって
   気持ちが先に立つ。