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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

勝つためにすべきこと

2022-03-05 18:26:11 | 読んだ本

藤澤和雄 2008年 宝島社新書
これは、今週べつの本を探していたら、たまたま見つけたもの、長くしまったままだった。
そういえば2月末で藤澤先生も定年になったんだった、とか思うと感慨深いものがある。
それにしても読んだ記憶ないな、これ、みると2008年12月の出版だ(このブログ始めたころだ)。
もうひとつの『競走馬私論』のほうは、何度も読み返してるんだけどね。
出版時期のせいか、その2008年に北米遠征したカジノドライヴの話がボリューム的に多い、全240ページくらいのうちの3分の1くらいを占めてる。
その2008年春のピーターパンS勝ったときの話のなかで、現地アメリカでの調教について、
>(略)私の方からは常に「なるべく軽めにするように」という指示を出しました。(略)サラブレッドにとって最も怖いのはオーバーワークになってしまうこと。コップからあふれてしまった水は、もう戻すことはできないのです。(p.32)
ってあるんだけど、これこそが勝つためにすべきこと、なんだろうなと思った。
おそらく、基本的に藤澤先生は鍛えて馬を強くすることができるとは考えてなくて、馬の持ってる能力を出せるようにしてあげることに主眼をおいてるんぢゃないかと。
(これに対して、長くて勾配のきつい坂路を速く駆け上がることを求めるひとたちは、鍛えりゃパワーアップする派でね、まあ元がおんなじような力の馬同士ならトレーニングしたほうが強くなるってのはあるが。)
時計的に速い調教をしないことによる副産物的効果について、べつのとこでは、
>速い時計で追わないことにより故障が少なくなるとか、その分、普段の運動をしっかりやらないと仕上がらないということがそうですが、そのひとつに、「ストレスをかける」ということもあります。
>ストレスを発散させるのではありません。かけるのです。つまり、来る日も来る日も馬なりでしか追わないことにより、お馬さんに「もっと全力で走りたい!」というストレスをかけるわけです。これがうまくいけば、レースの時に思う存分ストレスを発散しようと全力で走ってくれるというわけです。(p.147)
というように紹介してて、このへんのことは普通は「フレッシュな状態でレースに出走させる」みたいに言うもんなんだろうけど、調教が時計的には軽く見えることの説明として「ストレスをかける」というのは面白い表現だと思った。
馬場での追切は速い時計ぢゃないかもしれないけど、調教へ向かうときなんかに、しっかり乗れる人を乗せて馬を歩かせてるのは大事なことで、
>もっと言えば、馬を正しく歩かせることも事故の防止につながります。(略)
>入厩したばかりの若駒は古馬のスピードについていくだけで大変ですが、競馬となればスローだろうがハイペースだろうが周囲の皆に合わせて走れるようにならなければいけません。一番簡単な常歩で皆と一緒に歩けないようではキャンターやギャロップではなおさら無理です。だから皆と同じスピードで歩けるように仕向けるのは、自然と事故の防止にもつながるわけです。(略)(p.190-191)
ということで、縦列になって、各馬が踏み込んだちゃんとした常歩でふだんから歩いてる、これは簡単そうにみえて、けっこう難しいこと。
おもしろいのは、レースへの出走を判断するのに、調教をやってみてから決めるって考え方には否定的で、
>(略)「調教をやってみないと出走させられるかどうか分からない状態」が“良い状態”だとは思えないのです。(略)つまり、少なくとも私は、調教をやってみなければ出走させられるかどうか分からない状態なら、レースに出そうとするべきではないと考えているのです。
>調教師の仕事は“良い状態で競馬に出走させてあげること”であり、そういう状態かどうかは調教をしてみないと分からないというのでは、仕事ができていないのも同じだと思うわけです。(p.108-109)
ということで、その良い状態ってのはやっぱオーバーワークになってない状態なんだという。
どうでもいいけど、厩舎の制度が独特なことについて、
>とくに開業直後はどの調教師も大変です。定年や勇退などの理由で直前に解散したあちこちの厩舎からスタッフが集まってくるわけです。技術も経験も足りない若い子が来る分にはまだマシで、中には自分のやり方に根拠のないプライドを持ったベテランが来ることも多々あります。えてしてそういう人に限ってよく分かっているのは手の抜き方だけだったりするのです。(p.94)
なんて言ってますけど、きっと藤澤厩舎のスタッフを(←管理馬を、ぢゃなくて)引き継いだひとはトクするんだろうなー、って気はする。


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