うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

Peeping Tom(後編)

2019年06月16日 18時01分45秒 | ノベルズ
既に昇降口は斜陽が差し込み、細長い影を映し出す。
その影の先にいる人物に気がつき、靴を履き替えながらカガリは声をかけた。
「アスラン!今帰りか?」
「あ、あぁ・・・丁度帰るところだ。」
―――無論違う。キラから「今日は僕は外すから、カガリと一緒に帰るんだよ。あ、さっきの取説は間違えないようにやってね。」と発破をかけられた故。
ともすれば「もう直ぐ日が暮れる暗い中を、カガリ一人で歩かせるなんて危険だから」と言えばいいのに、この期に及んで妙な緊張が先走り、口が上手く回らない。
だがクリンとした大きな金眼は疑うことを知らない。たちまち笑顔でこう言った。
「そうか。私も部活の県大会が近くって、居残り練習していたらこんな時間になっちゃったんだ。同じ方向だし、たまには二人で帰ろうか。」
「あぁ。」
自分が何年がかりでも言えないことをサラリと言ってのける。彼女の性格が羨ましくあり、そこが惹かれるポイントの一つでもある。

伸びた二つの影が、いつの間にか身長を越えている、夕やみ迫る駅までの帰り道。
カガリは屈託なく、今日の出来事を報告する。
それでいて決してアスランを聞き役に徹しさせるわけではない。
ふとした時、彼の奥ゆかしい性格を自然と受け入れ、彼が困らないような話を投げかける。
口下手な彼がカガリ(とキラ)の前だけでは、素直に自分をさらけ出し、思ったことを自然と口にできるのは、まさしく彼女のおかげだ。
幼い頃からずっと、カガリ以外、こうして自分を引き出してくれる人と出会ったことはない。きっとこれからもいない、運命の相手だという確信がある。
だからこそ、カガリに認められる恋人になりたいのだが―――いざ彼女を目の前に、少しでも触れようとすると、緊張が走ってそれどころではなくなる。
足元に伸びる二つの影でさえも重ならない。せめて影でも触れることはないのだろうか。
少しの勇気―――並んで歩いている間にも、そっと手を伸ばそうとする―――のだが、
「そういえばさ―――」
金眼がこちらを見た瞬間、伸ばしかけた、触れかけた指が、スッと引き戻されてしまう。
「ん?どうした?」
「いや、何でもない///」
「ふ~ん・・・ま、いいや!それでさ!」
たわいもない、少しハスキーな声のBGM。耳をくすぐられるだけで、心がさざ波のように穏やかに沸き立って行く・・・

「お!今日は空いてる。好きな席に座り放題だ!」
最寄り駅は各駅停車しか止まらない。そのせいか、急ぎ帰宅する者たちは急行に乗り換えるため、鈍行への乗車が少なく、7人掛けの長い椅子は3割程度しか埋まっていなかった。
「よっと。アスランもこっち!」
カガリが隣の席をポンポンと叩く。
促されるままに座ろうとした―――が、キラの言葉を思い出す。
(―――「進行方向にカガリを坐らせて」)
「あれ?そっちでいいのか?」
カガリの視線が進行方向から、アスランを追って後方に移る。
「今日はこっちで。」
「うん。」
カタンと発車の振動が伝わる。
暫くして、アスランはおもむろに英単語帳を取り出す。キラやカガリと3人で帰るときは、車内で勉強はほとんどしないが、今日はしなければならない理由がある。
(―――「3分待って。」)
何のための3分かは未だに分からない。だが黙する理由づけに単語帳を取り出したアスランに、邪魔はいけないとすぐ理解して、カガリも現代文の教科書を取り出した。

<カタン、カタン>

電車の振動音だけが二人を包む。
一駅停車し、再び動き出す。
その時だった

<・・・コツン。>

アスランの左肩に、ふと重みがかかった。そして、ふわりと柔らかい金糸がアスランの頬を撫ぜる。
(え?)
何が起きたかと、アスランが左を振り向いたその瞬間だった。

<チュ>

「っ!?!?」
振り向いた瞬間、唇に何かが当たった。
「何か」ではない。
そこにあったのは、転寝して自分にもたれ掛かっている想い人の額。
「―――っ!!//////」
(今・・・俺は、カガリの額に―――「キス」・・・)
気づいた瞬間から、唇がじんじんと熱くなって仕方がない。
それだけではなく

鼻をくすぐる彼女の・・・デオドラントに混じる微かな彼女の甘い香り
少し首を傾げれば、肩と頬に伝わってくる体温
安らかな寝息が耳に届いて

自分でもわかるくらい頬が熱くなっている。
そして、唇がまた熱を帯びて痺れてくる
彼女の肌に触れたくて

(そうか・・・だから3分)

カガリは難しい本を読めば寝落ちする。しかも部活に熱を入れる夏の大会前、疲れと心地よい電車の揺れに、あっという間に誘われたのだろう。
キラは其れを見越していったのだ。
電車の加速で、アスランの方にカガリが自然と凭れ、触れることができるタイミングを。
しかも周りの乗客は至って「自然の成り行き」で生じたこの様子に気を止める者はいない。
(アイツ・・・)
思い返す友人の自信ありげな表情

(―――「いい?アスラン。カガリってね―――」)

キラは言い切った。

(―――「ああ見えて、心を許している人の前でしか、眠ったりしないから。」)


アスランから自然と笑みが零れる。
心地よく眠る姫君に気づかれないように。

そして…もう一度、揺れたふりして、その額に口づけを落とした。



・・・Fin.




***




無駄なことに時間を割きました。
えぇ、無論「皆さんの貴重な時間を使わせ、ここまで読ませてしまい、無駄にしてしまいました」ということです。はい。重ねてお詫びいたします<(_ _)>

Peeping Tom―――こっそり覗き魔ですが、実は先週、通勤帰りの電車の中で、小学校高学年くらいの男の子と女の子が並んで座っていたんですよ。(多分私立の小学校。同じ制服だった)
で、女の子が寝落ちしちゃって、電車が揺れた時に男の子の方に肩もたれかかってしまい、驚いた男の子のほうが女の子を見た瞬間、<ブチュ!>って女の子の額に・・・
その後、男の子がどうにも(やっちゃった~~~)って唇押さえながら慌ててキョロキョロしていた様子を見て、心優しい他の乗客の皆さん(ありがたいことに、大人しかいなかった)は、みんなそっぽを向いて「見てないよ~♪」って振りしてたという実話がここにw
多分見ちゃった乗客の50%は「可愛い~v」で、49%の人が「やっちゃったね~vファーストキスかな??」で、のこり1%の人(誰とは言わない)は「ネタ、いただきましたっ!(*´Д`)ハァハァ」

ということで、Peeping Tomしていたのは私だよ(笑)
いいなぁ~小学生。
まだまだ青春しろよっ!