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立禅天国

2012-10-05 17:26:00 | 格闘技、武道
佐藤聖二先生の講習会で、立禅の目的は構造能力の構築と強化であると教えられた。

構造能力とは、人体に備わった骨格を支持するだけの力であるが、それを能力として変換する必要がある。

わかりやすく言えば、ウェイトトレーニングのベンチプレス等で、バーベルを胸元に下ろして持ち上げるのにはかなりの力が必要となる。
しかし、バーベルを持ち上げきった腕を伸ばした状態で、それも一瞬であれば、かなりの重量でも支えることが出来ると考えられるが、そのような能力であると考えている。

人体の骨格と筋肉の複雑な構造を、武術としての能力として構築して、さらにそれを強化するとされる。

初心者は何分間か立ち続けていると、腕の中に膨張する感覚が現れてくるが、不思議なものではなく、立禅の形で骨格を支えている筋肉の配分がアウターマッスルの大筋肉からインナーマッスルに移行した状態になっていると考えられる。

この様な立禅の形状が骨格や筋肉の構造上、肢体を支えるのに理想的であると言われる。

立禅に入ると、前回のブログでも書いたようなイメージを利用して、意識には及びにくいほどのレベルでの関節の位置の微調整を行なうが、インナーマッスルが収縮、活動状態となるので長時間となるとこれが結構つらい。

肩周りでは、そのほとんどが大胸筋や広背筋に隠れていて目にすることができない前鋸筋が収縮して肩甲骨はやや前側にスライドするように移動して、肩関節を強力に安定させる。
胸元はややへこんで背中はやや広がった感じとなる。

さらに、前腕に外旋、上腕に内旋といった螺旋がかかることで、大円筋や棘上筋、棘下筋と云ったいわゆるローテーターカフ筋も収縮して肩関節に対して上腕骨を強力につなげる。
肘はやや横に張り、下に降ろそうとしている感じでもある。

脊柱は深部の起立筋も動員され、強力に安定される。
その際、首の前後の筋肉群によって頭頂は引き上げられ、腸腰筋、ハムストリングによって仙骨は地面に引っ張られるような感じとなって脊柱の支持力が強化されたものとなる。
肋椎と腸骨をつなぐ腰方形筋は、片側の収縮が起きれば体幹を捻る動作になるが、両側が均等に収縮すれば、脊椎を介して肋椎と腸骨を強力にジョイントする役割を果たす。
講習会で指導される様に脊柱は生理湾曲を無くして真っ直ぐに、さらに進めて釣り針状の形状となる。

股関節周りは臀部の中で小臀筋、中臀筋、梨状筋が共同して球蓋に対して大腿骨を安定させる。

骨盤はやや後傾となり、初動負荷理論で提唱されている骨盤前傾とは異った状態になるのは意外であるが、脊柱の構造力が強化されつつ、ハムストリングの伸張反射、つまり下半身のバネはより効率的に機能する。
跳躍したり、走ったりするのとは明らかに異なる武術的な身体運用のひとつと考えられる。

これらが自然と連携して、全身に強い構造力を形成すると考えられる。

ところが、重い物をかついだりすると、途端に大筋肉が収縮して反応してしまい、骨格を支える力ではなく、可動させる力が優先的に機能し始める。
それが、自身の骨格の重みのみであれば、アウターである大筋肉の活動を抑制してインナーである深部筋の活動を優先的に引き出し、骨格を支持する力のみを効果的に強化することが可能となる。

意拳や太氣拳の上級者となると、これらを自由自在に使いこなしているのだと思う。

バーベル等の負荷を用いると大筋肉が優先的に収縮して深層部筋は共同筋、補助筋として機能するので、結果、大筋肉の強化と共に深部筋も強化されているとも考えられるが、大筋肉が常に優先的に収縮するために動作としての自由度を獲得することは出来なくってしまう。

例えば、腕全体に力を込めて固めても一定方向からの圧力に対しては結構な強さにはなるが、それ以外のあらゆる方向の圧力やその変化には対応出来ないし、自身の変化も出来ない。

立禅状態の場合、肩関節を強力に固定させても肘から先は自由に動くので、あらゆる方向への対応が可能となるし、変化も容易である。

つまり、ただ力を込めて身体を固めるのではなく、表在の筋肉は弛緩、リラックスした状態で、深層筋のみが活動状態となることで、構造的には強い状態でありながら、しかし、身体の縦横な動きを妨げないばかりか、脊柱を基軸に肩関節と股関節が有機的につながったかの様な状態となるので、ハムストリングの伸張反射、すなわち全身の伸筋が有効に機能し始め、ネコ科の動物の様な独特の動きを引き出すものと思われる。

アウター主動の状態から、インナー主動にしてアウターを補助的に機能させる状態を獲得する。
これが脱力のみの状態ではなく、緊張と弛緩が混在した状態、力を内に込めるのでなく、常に外に放出されようとしている様な状態であると考えられる。

一説によると、体内の深層筋は速筋繊維ではなく、遅筋繊維であるとされる。

そのような観点からも、パワフルに可動させるためではなく、深部筋を使って骨格を正確に支えるための密度を引き上げるためには自重以上の負荷はかけないで、時間をかけることで深層筋の収縮を継続させることでしか効率的な強化を得ることはできないのかも知れない。

意拳、太氣拳の上級者は、機能解剖における理論的な知識を持ち合わせていなくても、体験的に自重のみで長時間立つことが有効であることを確信しているのではないだろうか?

間違った立禅を長時間組んでも無意味で、正しい立禅をほんの数分でも組んだ方が有効である、とするならば、正しい立禅を長時間組んだならばどうなるのだろうか?

意拳の先生方によって立禅に対する意見がそれぞれ異なるとしても、仮に対立していようとも、それはどちらも正しく間違いはないものとして、自身の中で経験を繰り返して答えを出してみたい。

先日、自身の立禅記録(?)を2時間に更新した。

前回のブログでは最後の数分は地獄であると書いたが、面白いことに2時間も立っていると、きつさ辛さがあるものの、一方で何とも言えない心地よさが感じられ、地獄が天国に変わった。
マラソン選手がよく言うランナーズハイというのが、こんな状態なのかと思われるほどの気持ちよさである。
立禅の初期段階で現れる気持ちよさとは格段に違ったものであった。

佐藤先生が言われていた「30分なら30分後、1時間なら1時間後にしかその時の状態は知ることができない」という意味が少しわかった気がする。

会員各位には、立禅地獄を乗り越え、立禅天国を味わって見られることをお勧めするところである。


太氣拳成道会
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