前方出力がなされると、それは前側からの負荷を強靭に支えようとする支撑(ししょう)能力であることが理解できる。
肘は落として広げた肩甲骨によってやや前に押し出されて続けている状態となる。
次の段階ではこの支撑能力を下半身、つまり脚に求めていく。
形体運動のひとつに座ろうとしたり立ち上がろうとしたりする運動があるが、膝を上に引き抜こうとすることによって股関節は折りたたまれ座りこもうとする力が働き、反対に座りこもうとすることによって、膝を上に引っこ抜こうとする力が発生するとも言える。
上に行こうとする力と下に向かおうとする力が同時に発生することにより、この動きが成立する。
上下の力であり、その作用として結果としてこのような動きを形成する。
このような動きを筋肉の大きな収縮力にのみに頼ることなく、骨格の相互作用によって繰り広げていく。
私はこれを勝手に「膝の上抜き」と呼んでいる。
この動きの中に存在する膝と股関節の作用と反作用のような力を立禅の中に落とし込んでいく。
立禅の状態は動きが外に出ている状態ではないので、この膝の上抜きも静止している状態で、外見上はほとんどわからないような微妙な動きとして、しかし、自身の身体の中では存在するものである。
客観的には動きとして確認することはできないとしても、その作用、働きは自身の身体の中でのみ確認できると言ってよいものである。
この「膝の上抜き」の状態で立つ。
すると、膝は常に引き抜かれているような、引き抜かれていくような感じがあり、同時に股関節は常に後ろの高いイスに座り込もうとしているような感じがあり、骨格を上下に引き合う力はより強靭になる。
次に、形体運動のひとつに中腰の姿勢で膝を前に突き出してひざまずくような動きがある。
以前はこの動きを自身の骨格を相手に対してぶつけていく際に物理的な力積を生み出すために、安定と不安定の変換を体認するようなものだと解釈していたが、本当の内容はもっと重要なものだった。
膝を前側に突き出していく時に股関節を使って膝を前に押し出していく。
股関節で膝を押し出してくために上体は後方に動いていく。上体を後に動かすことによって股関節は前に動き、結果として股関節で膝を前側に押し出していくような動作になる。
さきほどの上下の動きに対して前後の動きと言える。
さきほどの膝の上抜きに対して「膝の前抜き」と勝手に呼んでいる。
立禅の際に「膝の上抜き」で立つことができたなら、次にこの状態を維持したままで「膝の前抜き」が作用している状態で立ってみる。
これもその動きは外に出ているものではないので、自身の身体の中でのみ確認できるようなものであるが、しかし、間違いなく存在する。
膝を前に押し出そうとする力が働くことによって足裏の重心はやや前側に置かれるようになり、その部分で地面を軽く踏んでいるような状態になり、踵の方はその皮をつぶさない程度に軽く浮いた状態で立つようになる。
これが、踵の下に小蟻をはさんで殺さないようにそれでいて逃がさないようにして立っている状態である。
このようにして、膝を前に押し出そうとする力が常に働くようにして立てるようにしていく。
すると、「膝の上抜き」と「膝の前抜き」とが同時に作用している言葉では表現しようのない独特の状態になる。
実際には実に微妙な感覚なので、そのような力が働いているかどうかをとらえること自体が難しいのだが、これができるようになってくると、動きの中で体軸や股関節のブレを最小に抑えることが可能となってくる。
そして次の能力の獲得に移行する準備が整ったことになる。
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