膝の上抜きと前抜きを同時に行なうことで、ブレのない強靭な下半身の軸を作ることができるようになる。
関節の動きは全て円運動である。
指の曲げ伸ばし、膝の曲げ伸ばし、背骨の動きなど、全身の動きは全て円運動の組み合わせであり、武術や格闘技においては、これらの円運動のつながりによって打つ、蹴るといった動きが成立する。
円運動においてはその動きには必ず中心があり、より効率的に円運動から威力を発揮するためには、動きの中でこの中心の位置がより固定されていることが望ましい。つまり、ブレのない状態、あるいはブレの少ない状態である。
人体の骨格の中で最大の大きさを持つ骨盤を力の発生源とすることはどの運動でも追及されていることであり、腰を動かすことの重要性はどの種目でも要求されていることである。
そのような重要なユニットである骨盤はあらゆる動きにおいて力の源泉たる役割を持つ。
その骨盤の動きを横方向に回転させるとして、中心部に軸がある場合、左の股関節に軸がある場合、右に軸がある場合に分類してとらえてみる。
例えば右のパンチを繰り出していく場合、骨盤を反時計回りに回転させていくことになるが、この時、中心の軸に対して右の股関節は前に、左の股関節は後に動く。
拳が目標にヒットした瞬間に左の股関節が後側に動き続けていたら、パンチの衝撃が左側から後方に逃げることになり、目標とする対象に与えるべき衝撃は相殺されてしまう。
これに対して左の股関節が軸となってそこを中心に骨盤が回転して、右拳が目標にヒットした場合、左の股関節の位置がずれることなく骨盤が回転しつづけるとすれば、その威力は前方にのみ働き、衝撃を余すことなく対象に伝えていく。
骨盤の回転する動力はその力を余すことなく対象にぶつけていくことになる。
このように円運動の威力を漏れなく対象に伝えるためにその中心を固定するというのは、物理的に重要な要件となる。
動きの中では中心がグラグラ動いてブレてしまう要素を少なくする必要があり、この中心を定める状態を「定中」と呼んでいる。
武術や格闘技の動きにおいては、骨盤の横方向の回転はあらゆる場面で機能するものであり、その中心は骨盤の間にあるが、左右の股関節にあることでより大きな力を発生させられるものと考えられる。
動きの中で左右の股関節での定中を確立するためには「膝の上抜き」と「膝の前抜き」を作用させることによって、前後にブレることのない軸を作り出すことが可能となる。
これができてくると股関節を中心として回転するような働きが常に確認できるようになる。
実際に動いてみた場合、股関節が後ろ側に動いて軸がブレてしまい相殺的な効果を生み出してしまうが、その動きを抑制させるための下半身の状態を訓練することができるようになってくる。
しかし、その状態が微妙であって確認することすらも難しい。
立禅においてはこのような微妙な感覚をひとつひとつモノにしていく必要があり、段階が進むにしたがって、より微妙となってくる。
それは通常の運動では全くと言っていいほど気が付くことの無いようなものであり、だからこそ、立禅のような静止した状態でのみでしか得られないのかも知れないし、段階を踏んでひとつひとつ進めていけば獲得できる可能性があると思うので、門下生にとっては自身がどのあたりにいるのかを判断してもらうためにも、立禅の段階を示しておきたくてこのような記事を書いてみた。
筆舌に尽くしがたい部分が多いので限界があることを感じながらも書いてみたが、門下生各位は参考にしていただきたい。