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立禅筋⑤ ~腸腰筋~

2014-02-13 18:47:00 | 格闘技、武道
前回、動物の立ち姿にからめて脊柱の強さについて考察してみた。

4足歩行であった動物として元々備わっている骨格構造の強さを打撃や防御に利用すると書いたが、骨格の支持能力、つまり骨格を支えるという点では背骨つまり脊柱をその根元から支えるという意味で、人間が立ちあがって行動する際に重要な筋肉が腰から股関節にかけてある。

大腰筋という筋肉で、骨盤の内側から股関節に流れている腸骨筋と合流するので腸腰筋とも呼ばれている。
言ってみれば背骨と太腿骨をつないでいる筋肉である。

歩いたり、走ったりする時に太腿を身体に引き付ける役割があるが、立っている時に脊柱、つまり背骨を前側で安定させる、つまり姿勢を保つ役割もある。

この筋肉は別名を達人筋とも呼ばれ、スポーツや武術、格闘技では特に重要とされる筋肉である。

この筋肉の収縮によって、背骨を腰の位置から安定させることになるので、あらゆる動作パフォーマンスにおいて、この大腰筋が使いこなせているか、又、鍛錬されているかが重要な要素になると言われる。

前回のブログで書いた様に、先ず、太氣拳では立禅によって人間の骨格から動物への骨格への変遷を試みる。

その際に、大腰筋による脊柱の位置確定が基盤になるものと考える。

通常のスポーツでは、骨盤を前傾させることで太腿の後ろ側にあるハムストリングスの伸張反射を引き起こし、動作の際に強靭なバネ、すなわち足腰のスプリングシステムを機能させる。

これが、太氣拳の場合、前回のブログでコメントした様に骨盤を前傾させない。
後傾とまではいかないが、少なくとも前傾ではない。

脊柱全体を構造的により強い状態にするならば、生理湾曲を有した本来の状態から脊柱全体が弓の如く、むしろ、全体にごく軽い湾曲を形成させた様な状態に近付ける。
上下方向において細かい衝撃を吸収、緩和させる従来の形状から、前方向においてあらゆる衝撃をはね返すかのような強靭な形状への変化である。

この状態では骨盤がややもすると後に傾きがちであるが、経験上、ハムストリングスのバネ、伸張反射によるスプリング機能が無くなってしまうということはない。

水泳の飛び込み、短距離走によるクラウチングスタートも、その姿勢は脊柱に対して骨盤が前傾してはいない。その状態から瞬間的な身体全体の爆発を得る。
その後、短距離走であれば、10メートルくらい走った後に上体は完全に起き上がり、骨盤は前傾位となる。

太氣拳では、加速させた状態でのスプリング機能ではなく、短距離走のスタート時の瞬間的なハムストリングスの伸張反射のみを用いることで、脊柱や肩周辺の骨格構造を強い状態のままで、全身が細かいバネでつながっているかのような、弾力のある動きを可能としているものと考えられる。

その際に骨盤の位置を確定しているのが大腰筋であると考えられる。

通常は骨盤を前傾させることで、大腰筋は活性化するとされる。
骨盤が後に傾くと、大腰筋、腸骨筋はたるんだ状態となり、拮抗筋であるハムストリングスの伸張反射機能も引き出されない。
背中が丸くなっていては運動時のパフォーマンスが発揮できないことなど、容易に想像できる。

太氣拳の場合はどうか?
立禅の際に頭頂を上に押し上げる様にして立つが、その様な状態で骨盤を下からすくい上げる様にイメージして立つと、骨盤はやや後傾しようとも大腰筋は収縮して腰椎の前側に対して骨盤を近付けようとするかのような状態になる。

頭頂を上に押し上げる力を保ちながら、仙骨を下に刺し続ける、骨盤をすくう様にすることで、脊柱は上下に引き伸ばされているかのような状態となって、大腰筋はたるまずに適度な収縮を保つので、脊柱の構造上の強さを維持しながら、拮抗筋であるハムストリングスのスプリング機能も活性化するものと考えられる。

太氣拳の立禅による能力獲得の重要な要素になる思われるが、経験上、頭頂を上に押し上げる力、肩甲骨で腕を少しずつ押し出す力が備わってからでないと、この部位の鍛錬は難しいと思われる。

先述の上方向と横方向の支持能力をある程度身に付けてからでないと、この段階での脊柱下側の支持能力は理解できないばかりか、形だけを真似してしまうと反対に本来あるべき能力獲得とは異なる方向に行ってしまうかもしれないので、充分に注意が必要と考える。

その様な観点から、立禅などの太氣拳の基盤とも言える訓練の方向性が間違っていないかどうかは、推手の打輪などの構造能力の確認ができる対人練習によって、その内容を点検、検証を繰り返しておくことは必要であると考える。


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