賢治は法華経を熱心に信仰していました。法華経の理解なしに賢治の文学をほんとうに理解することはできないと思います。
毎日法華経を読んでいる者の視点から、「永訣の朝」を読んで、気づいたことを書いてみたいと思います。その4回目です。
永訣の朝の最後は、
どうかこれが天上のアイスクリームになって
おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに
わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ
という句で終わっています。
日蓮宗の僧侶は経を読んだ最後に、必ず次の言葉をとなえます。
「願わくは此の功徳を以て 普く一切に及ぼし 我等と衆生と 皆共に仏道を成ぜん 」(妙法蓮華経化城喩品第七)
「どうかこの功徳がすべての人々に広がって、わたしたちとすべての命あるものと、みんな一緒に幸せになれますように。」という願いです。
両者は共通しているところがあるように思えます。
もうひとつ。
トシは、はげしい熱にあえいでいます。賢治は冷たく透きとおったみぞれを急いで取りにゆき、トシに与えようとします。
そして「どうかこれが天上のアイスクリームになって」と祈ります。
法華経には
甘露を以て灑ぐに 熱を除いて清涼を得るが如くならん (妙法蓮華経授記品第六)
という言葉があります。
「冷たく甘くおいしい飲み物をそそぎ、熱を冷まし、清らかさと涼しさを得る。」という意味です。
特にこの言葉は、施餓鬼という行事の際にとなえます。
餓鬼道に落ちて熱や渇きに苦しんでいるいのちに飲み物や食べ物を施して供養する行事です。
賢治は、熱に苦しんでいるトシの苦しみを救いたいと思うと同時に、賢治の行為がすべてのひとの幸いにつながってほしいと願い、「永訣の朝」という詩を結んでいます。
続きます。