付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

★“なろう”じゃない“なろう系”小説

2018-03-29 | 雑談・覚え書き
 「最近はなろう系ばかりだ」「小説家になろうに掲載されている小説なんてワンパターンだ」なんて言われることもありますが、1)注目される作品に流行り廃りがあるだけで「小説家になろう」とかに掲載されている小説とかエッセーとかにはいろいろ種類があるよ? 2)そもそも物語の基本パターンってそんなに多くないよ?……ということかと思います。

 そんなわけで「小説家になろう」とかのウェブ掲載小説ではないけれど、そこでよく見るパターンの話をいろいろ掘り起こしましょうというのが今回の主旨で、最初にジャンルをがばっと大きく広く「主人公がいきなり異世界を体験する異世界体験談」と定義してみました。
 「いきなり」というのは、今まで暮らしていたのとは別の世界に心の準備なく放り出されるという意味で、日本に住んでいる主人公が外国旅行しようと旅に出てニューヨークにたどり着けば普通の旅小説で、旅行なんか考えていなかったのに竜巻に巻き込まれてニューヨークまで飛ばされたら異世界体験……くらいの感覚です。なろう系小説でいう「異世界召喚」とか「戦国時代転生」あたりが代表ですが、異世界転生と一口に言ってもバリエーションは無数で、なにも「小説家になろう」を中心に広まったわけでもなんでもないのです。

 古くは伊弉諾やオルフェウスが黄泉の国に向かうくだりも入りそうですが、典型的なのは『ガリバー旅行記』。
 正式なタイトルの『船医から始まり後に複数の船の船長となったレミュエル・ガリヴァーによる、世界の諸僻地への旅行記四篇』(1726)というあたりから、最近では普通になった長すぎるタイトルの原点っぽいですね。さえない医者が船医となって航海中に難破。自分は何も変わっていないのに漂着した住人が皆豆粒大なので、相対的に無敵の巨人となってしまうリリパット篇。放り出された国が巨人の国で逆に相対的に小人となり、火薬兵器の知識とか披露して疎まれるブロブディンナグ篇。高度な科学力を持つ浮遊島を訪問し、日本を経由して帰国するラピュタ篇。知的な馬が支配するフウイヌム国を訪問し、そこで粗暴で野蛮な人族と出会って絶望するヤフー篇。転生とか召喚ではないけれど、異世界転生ものの基本パターンを押さえています。18世紀の人々にとって海外への渡航は異世界転生並みの冒険だったということでしょう。

○過去の世界に転移して、現代知識で無双
『アーサー王宮廷のヤンキー』 マーク・トゥエイン(1889)
 アメリカ人技師が部下に殴られた弾みでタイム・スリップ。アーサー王の宮廷に紛れ込み、国民の教育や科学技術の導入を試みるも、近代化の反動が起こって振り出しに戻る。
 騎士の突撃を鉄条網で食い止めたり、電信網を整備したりとか、技術チートものの原点です。 

○異世界に転移して、現代知識で無双
「異世界の帝王」 H・ビーム・パイパー(1965)
 アメリカ人警官が並行世界の事故で剣と銃レベルの異世界に転移。現代の科学知識と大学や兵役で学んだ戦略戦術で無双して下克上。お姫さまを手に入れ、周辺諸王を従える大王となって、めでたしめでたし。
 知ってるかい? 大砲って砲耳をつけるかつけないかで、扱いの難易度が全然違うんだよ。

○異世界に転移して、人外生活
「ドラゴンになった青年」 ゴードン・R・ディクスン(1976)
 学者が機械の実験で異世界に転移したら、意識がドラゴンに乗り移って、ドラゴンの本能と人間の理性の間で右往左往するも、ドラゴンの肉体と人間の機知で苦難を乗り切り、婚約者を取り戻してめでたしめでたし。表紙イラストは少女マンガ界の巨匠、萩尾望都。1982年にトップクラフト製作でアニメ化もされてますが、中身はほぼ別物でした。 

○異世界に転移して、身体チートで無双
「火星のプリンセス」 エドガー・ライス・バローズ(1917)
 金鉱探索中の元南軍騎兵大尉が洞窟で死にかけてたら、幽体離脱して火星に転生。地球より重力の軽い世界で超人的な運動能力を手に入れて無双。お姫さまを手に入れてめでたしめでたし。ヒロインのデジャー・ソリスは今も根強いファンの多い、SF界のヒロイン筆頭。武部本一郎やフランク・フラゼッタ、山本貴嗣などいろんな人が表紙イラストを描いてます。 

○助けたい人を助けるために、過去に戻って何度でもやり直し
「クロノスジョウンターの伝説」 梶尾真治(1994)
 タイムトリップもののSFロマンス小説。一種のタイムマシンともいえる物質過去放出機「クロノス・ジョウンター」には重大な欠点があった。それは物質を過去に飛ばす事が出来ても長時間留まらせる事ができず、しかも戻ってくるときは元の時間より未来にはじき飛ばされてしまうのだ。恋する少女が事故で死んだとき、和彦はクロノス・ジョウンターで過去へ飛ぶが、彼女を救うことはできない。何度も試行錯誤するが、その都度、彼は遙か未来へと飛ばされていく……。 

○超科学を携えて、過去に転移
「天のさだめを誰が知る」 D・R・ベンセン(1978)
 異星人の宇宙船が20世紀初頭の地球に漂着。宇宙船修理のために地球の科学技術を底上げしようと、助けられた宇宙人たちは各国を回って戦争を起こす必要性について説いて回る……。目の前でぎしぎしと音を立てるように歴史が改編されていくSFで、読後感はひたすらポジティブ。
 イラストから連想するように、『宇宙大作戦』のタイムトラベル話にも似通ってます。

○ゲームをしてたら、ゲームのキャラのまま異世界転生
「眠れる龍」 J・ローゼンバーグ(1983)
 テーブルトークRPGをしていたら、なぜかキャラシートのデータや容姿そのままに異世界に転移。決して楽しいばかりの世界ではなく、命の危機の連続になんとかして元の世界に戻ろうとするけれど、プレイヤーの1人はもともと身体が不自由だったので今の方がマシと言いだし……たあたりで1巻終わり。ゲーム世界に転移したというパターンの原点みたいな話で、刊行当時のゲーム誌で紹介されていた期待の作品。でも続編は未訳。 

○ゲームの世界でなりきりプレイ
「ドリームパーク」 ニーヴン&バーンズ(1981)
 ホログラフ技術や特殊メイクを駆使してファンタジーやクトゥルフの世界を体験できるドリームパークを舞台にした殺人事件の捜査劇……のふりをしたカーゴ信仰をテーマにした南洋ファンタジーRPGのリプレイ小説。昨今のVRMMORPGものの原点ともいうべき1冊。当時はそんなダイブして仮想現実なんて発想はないから、コンピュータで判定処理して投げたナイフがあたるかどうか決めたらホログラフで表現するくらいしかできないのだけれど、その分、NPC役の楽屋裏みたいな部分も見えて楽しいですね。 


 いずれも王道パターンの先行例として、今でも一読に値する作品だと思います。(2017/08/31投稿 2018/03/29改稿)
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« らのべヒロイン列伝「結城美... | トップ | らのべヒロイン列伝「シェー... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

雑談・覚え書き」カテゴリの最新記事