時間のしずく time drops 

たいせつなもの。すきなこと。

蜘蛛

2011-06-13 | essay





遠い雨の日。
電車の中で。
つり革につかまって立っている初老の男性の背広に蜘蛛を見つけた。

背広に同化してしまいそうな、同系色の 足だけ少し長い小さな蜘蛛。

ほんのちょっとだけ動いたあとは、そのひとの肩にじっと止まって
同じ目線で 車窓の外を流れる街を眺めているように見えた。

いったい いつから そのひとの背中にいたのだろう。

「蜘蛛が・・・。」と、
そっと払い落としてあげる気持ちにはとてもならないほどの
そのひとと 蜘蛛の奇妙な一体感。。。

わたしには、その蜘蛛が 誰かたいせつなひとの化身なのかもしれないような気がして、
なんだか 蜘蛛から目が離せずにいた。

そんなふうに
わたしが勝手な妄想を膨らませている間に、
ブレーキが軋り、ドアが開いて
蜘蛛はそのひとと一緒に 電車を降りて 行ってしまった。


雨の電車の記憶のひとしずく。

 

 


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