時間のしずく time drops 

たいせつなもの。すきなこと。

ゾラの「居酒屋」で酒浸り。

2015-07-10 | 本 のこと



わたしの読書タイムは、おふとんに入ってから眠りに落ちるまで。

時に、どっぷりと古典文学に潜りたくなる。
そういう時には・・・
昔から家に鎮座している赤い布張りの「世界文学全集」(1967年河出書房発行)
若しくは、青い布張りの「日本の文学」(1964年前後、中央公論社発行)の中から
一冊選び出して、夜な夜な古い時代の世界を彷徨う。

読み終わりたくない。 と思う本に出逢うと、しあわせな気分なのだけれど

「もう、早く読み終えてしまいたい!」 と思う本にもたまに出会う。

エミール・ゾラの「居酒屋」(黒田憲治訳)は、断然 後者タイプ。

それでも
じゃあ、読むのを途中で止めようか という気持ちにはならないんだなあ。
そこがやはり名作たる所以なんだろうなあ。とつくづく思う。

19世紀のパリの貧しい庶民のひとびとの生活が、克明に目の前に繰り広げられる物語。
酒に溺れ、妻や子を虐待し、下品で、怠惰なひとびとが次から次へと登場する。
酷い状況下でも懸命に働いてせっかく夢を実現する主人公も
些細な欲望をきっかけに、正に坂を転げ落ちるようにどこまでも堕落してゆく。

それにしても、ここまで においと湿度を感じさせる本はそうそうない。
洗濯屋の熱気、夥しい脂じみた食べ物と酒のにおい。場末の汚い街のすえた臭い。
実際にそこを目にして歩いてきたような気持ちになる凄まじい臨場感。

読んでいて、うんざりしたり、歯痒くなったり
貪欲なニンゲンらしさが滑稽で哀しくなったり・・・
せめて最後にはちょっとは救われるのか・・・?と期待したわたしが甘ちゃんでした~。
どん底まで落ちたら、あとは地の底に穴が開くまでです。

とはいっても、何しろ主人公のこの転落振りは、まったくの自業自得。
ニンゲンの愚かさ、危うさを物語ってはいるけれど
どこからでも巻き返しが効いたはずで、
「ワタシならそうしないよ」と距離を置いて眺めていられるところが救いかな。

誰にでも起きそうな巻き込まれ型の救いようのない物語とはまた違います。
まあ、時代背景が違うしね。
そういった救いようのないタイプの本は、
図らずも同調してしまってこころを消耗するので避けたいところです。。。

久方ぶりに、こころを掻き乱される本を読んでしまったけれど・・・。
そうかといって、不思議と 読まなきゃよかった とは思わせないところがスゴイんだな~。
ゾラ!恐るべし。

この本の中の、唯一の良心的部分は、金色の髭を持つ優しき鍛冶工、グージェの存在。
昔々の物語とはいえ・・・せめて彼のその後の幸福を勝手ながら祈りたい!

 

 

 



 


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