朝刊に完成見学会の折込チラシが入っていた。土曜はチラシの枚数が多いから、あまり目立たないだろうと思っていたが、一番外側になっていたので、真っ先に目に入ってきた。
目立たないだろうと思ったのは、S建さんのちらしはたいてい一色刷りでそんなに派手な作りではないからだ。大手ハウスメーカーの上質紙にカラー印刷したきれいなチラシなら、家を建てるつもりのない人でも、思わず目をとめたりするだろう。この会社に頼めば、同じようにすてきな家をじぶんにも建ててくれるにちがいない――きれいなチラシにはそんなふうに思わせる力がある。かつてのわたしにもそんな思い込みがないわけではなかった。
わたしが家作りを始めた頃に読んだ本に、工務店の選び方という章があって、目安とする項目がいくつかあげてあったが、その中に、チラシにお金をかけているところはやめようというのがあった。なぜなら、そういう派手な宣伝費はすべて施主が払う建築費に上乗せされるのだから、と。それを読んだときは、すでにS建さんにお願いする気持ちが固まっていたのだが、その指摘は目から鱗だった。
それに類した話になるが、現場でよく見かける「○○様邸新築工事」という看板のこと。うちの現場にもああいうのを立てるのですか?と社長さんに聞いてみたことがある。社長さんの返事は、「あれだって結構な費用がかかります。お施主さんに負担をかけたくないので、うちでは立てていません」というものだった。そうなのだ。どんなものにだって、費用がかかっている。問題は、だれがそれを負担しているか(あるいは、させらせるか)だ。