一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

A氏夫妻と飲む(後編)

2010-08-05 01:13:56 | プライベート
「顔ですよ」
私は当然のように答える。
「顔? 性格とか将棋とか、いろいろあるでしょ」
「いえ、顔です。第1期マイナビのとき、本戦入りの女流棋士が『週刊将棋』に載ったんだけど――」
「島井さんのやつ?」
「うん、あれは第3期です。船戸先生は第1期。で、そこで船戸先生の姿を見たとき、女流棋界にこんな美人がいるのかと思ったわけ。そこからですね」
「なるほど」
「だってさ、将棋ファンて、女流棋士の性格なんて分からないでしょ。話だってしないし。けっきょく形から入るしかないじゃん。だから船戸先生がLPSAに来たときは本当にうれしかった」
「うんうん」
「だからさ、オレが『将棋ペン倶楽部』に船戸先生のことを書く前から、船戸先生には注目していたのよ。それを湯川先生が――」
「大沢クンはもう船戸さんの話はいいから。ほかの女流棋士の話を書け、でしょ?」
A氏が笑いながら言う。
「そうそう、湯川さんもウルサイんだよ。オレが何を書こうが勝手じゃねーか」
「ふふふふふ」
「それから船戸先生と話す機会も増えて、話もサッパリしてていいなー、って思ったの。だからさらにね」
「なるほど」
「だけど船戸先生はさ、オレが粘着的に迫っても、軽くかわすんだよね。あのワザはスゴイと思った」
「自分から粘着的って言うひとは、本当は粘着的じゃないんだよ」
そうでもないんだが…と思いつつ、一応同意しておく。
つまみは鮭の缶詰めや、シューマイなど。冷凍食品だが、電車の中だから贅沢は言えない。奥さんはカタログ誌に釘付けだ。A氏は作家なので、お中元をもらう習慣がない。だからよけいお中元の類がほしいのだと奥さんは言う。
「だけど大沢さんの文章はおもしろいですよ」
「オレ? オレの文章なんかおもしろくないよ、全然。あのね、ボキャブラリーがない。これは致命的です」
「それを言うんならボクだってボキャブラリーはないよ。ただボクはスピードを心掛けてるんです」
「私はリズムかな」
「うん」
「文章をいかにリズムよくするか。これに尽きますね。たとえばこのセンテンスとこのセンテンスを入れ替えてみようとか。それだけでリズムがよくなることがあります。あるいはこの文章は長すぎるからふたつに分けてみようとか。この文と文の間にテンを入れてみようかとか。そういうところはけっこう神経を遣ってますね」
「分かります。ほら、野球で159キロとか160キロのボールでも、バッターは打てるわけですよ。だけどピッチャーはその中にカーブを混ぜることで、バッターは160キロが速く感じて、打てなくなる。ボクはそれを目指してるんです。だから大沢さんの言ってることも、私と同じなわけですよ」
「ああ、そうですか」
なんだかよく分からないが、作家先生のおっしゃることだから、同意しておけば間違いない。
女性スタッフは、もちろん両人とも「鉄子」だ。佐藤めぐみ似さんは、都営大江戸線に乗って、お気に入りの構内をバシャバシャ撮ったという。さすがの私もついていけない行動である。私はどちらかと言えば、「乗り鉄」に近い。
私がむかし、旅先の秋田県角館で一目ぼれした女性を追い掛けていたころ、同時期に知り合った女性がいた。その女性がある日、「東急電鉄スタンプラリー」の冊子を郵送してきて、「これに東急線全駅のスタンプを押してください」という手紙がしたためてあった。
「それで、いい大人の私が、チビッ子に混じって、スタンプを押すわけですよ。あれには参ったなあ」
というむかし話をして、ここで初めて佐藤めぐみ似さんと話ができたが、こちらはもう、2時間以上も立ちっぱなしである。「N700系のぞみ」の下りなら、新大阪へ向けて、速度を落としているころだ。
「乗客」は女性も含めてさらに増え、もうギュウギュウ詰めだ。そろそろこの辺で乗り換えたい。「2階のテーブル席へ行きたい」というA氏の希望を黙殺し、私たちはとりあえず下車した。
ちょっと座りたい、ということで、人形町駅近くのスターバックスに入る。先ほどの「立ち飲み」は初体験だったが、スタバも初めて入る。アイスコーヒーMをオーダーしたが、けっこうな料金である。ジョナサンのソフトドリンク飲み放題は安いと、あらためて思う。
3人で地下に降り、やっと一息つけた。ここでは将棋の話がメインとなった。
A氏の奥さんに、女流棋界分裂の真相を、私が知っている範囲で、正確に話す。
「エエーッ!? ちょっとそれ、信じられなーい!」
あまりの理不尽さに、奥さんがびっくり仰天する。
「でもこれ、本当のことなんですよ」
私は眉をひそめ、大仰にうなずいて見せた。
コメント (2)
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