登山を始めてから2年目で、それまであまり運動していなかった40代が単独行で前穂高岳~吊尾根~奥穂高岳の縦走をしたわけですが、この数年登山初心者の遭難が多いというニュースや山小屋関係者の苦言などを見るにつけ、ちょっと思ったことをメモ。
と言うか、このブログを見て簡単だと思って同じような中年の単独行での穂高岳挑戦とか増えると恐いので。
会社の人からも、まだ死なないで下さいとか言われて送り出されたことから分かるように、ちょっと間違うと遭難事故に陥る山域でしょう。
そこで、参考までに私の準備をメモしておこうと思った訳。
ちなみに私、性格的に無謀な登山はしません。全て単独行で、登山開始して直ぐに雪山に登ったり2年目で穂高岳に行っているので、それだけ見たたら無謀に見えますが。実際には、恐らく普通の登山者よりも準備にエネルギーかけてます。
A. 知識
・地図は読み込む。等高線の配列やコースタイム、前穂で言えば「カモシカの立場」などのチェックポイントの位置などは、出発時には頭に入っている。岳沢小屋から紀美子平までの40%くらいの位置だということなど。
・ウェブをフル活用して登山道の情報を集める。効果的なのは、「日本アルプス登山ルートガイド」というウェブサイト。主要な山のルートを写真付きで紹介しているので、事前にイメージトレーニングできる。ルートの難易度も主要な難所の攻略法も示されているので使える。これとブログやヤマレコでの皆さんのレポートを合わせれば、自分に近い年齢の登山者や、登山時期の似ている例のことも勉強できる
・遭難のケーススタディ、低体温症の仕組み、応急処置のやり方など、最低限の知識は雑誌の記事やウェブで十分勉強できるので、それくらいはやっておく。変な話、登山始めてからサバイバル知識がだいぶ上がりました。大地震などの時にも使えると思います
B. 体力
・外資系企業でそれなりのポジションにいるので、平日ジムに行くような時間に恵まれるほど暇ではない。つまり、土日に鍛えるか、平日でも寝る前15分くらい筋トレ頑張るくらいしかない。これは結構たいへんで、実際には一朝一夕には体力上がらない。しかし、できる時に少しでもやっていると、1年程度とはいっても体脂肪率も落ちるし筋肉も増える。と言うか、それまで使ってなかったところに筋肉つく。一番効果的なのは、できるだけ連続で2週に1回程度は登山またはハイキングすること。新緑の頃からやっていると、夏山のシーズンにはそれなりに体が慣れている。今年の春まで高層マンションに住んでいた時は、雪山に行く前にテント泊装備13Kg程度を背負って非常階段を上り下りして鍛えた。実際には雪山ではテント泊しないけど、雪山単独行は恐かったので体力だけはつけようとした
・で、私の意見では、問題は体力そのものよりも自分の体力についての理解と判断。例えば、奥多摩を歩いた時の感覚から何時間くらいなら全力で(早足で)歩けるのか考えたり、テント泊装備と普通の装備を背負った時の体の動きの差からテント泊にするのか小屋泊にするのか考えたり、それまでに登った山でかかった行動時間とその時の疲労度から次の対象となる山のコースでの疲労度を予想したり
・この理解と判断がないと、単独行で長距離のコースとか岩場の危険なコースとか予定組めません。穂高の時も、小屋2泊で吊尾根 & 重太郎新道登りだからGo。1泊で強行しても行けたかもしれないけど危険度が高くなると思われたし、テント泊は体力的に無理。南北アルプスで3泊とか4泊とかするコースも、その多くは単独行では体力的に危険度が高いと判断。来年はもしかしたらもっと長い縦走に挑戦するけど、それも体力的な自信がつくことが前提。やってみたら意外とできた、というのは、やってみたらダメだったというのと本質的に変わらないと思っている
・例えば、今回の穂高岳の場合、その2週間ほど前に行った甲斐駒ヶ岳と仙丈ケ岳の時の感覚が大事だった。これで自分の体力の目安がわかったし、体慣らしという意味でもこの南アの山行は大事だった。
C. 技術
・山岳会に入ったり、アウトドアショップの講習会に参加するのが本当は王道と思う。しかし、単独行をしていることから分かるように、人と交わるのが極端に苦手なので、これは難しい
・しかし、今どきウェブとYouTubeで相当勉強でき、それを比較的レベルの低いコースで試してみることで練習もできる。例えば、雪山の登り方・下り方やアイゼンの使い方は、赤城山をゆっくり登る&谷川岳の天神尾根コースで実践することで比較的簡単に身についた。雪山で汗をかかずに登るのは下手なままだけど
•岩稜も、三点支持や鎖場のコツなど、仕入れた知識を八ヶ岳や宝剣岳などで試して慣れていった。岩場と言ってもレベルがあるので、大キレットとかバリエーションルートとか無理ですが。それらは独学では5年、10年かかるような気がする
・あと、技術は基礎体力がないとどうしょうもないことが多いと思う。例えば、道ともいえないようなガレ場で落石を起こさないように & スリップしないように慎重に歩く(特に下る)というのは、足運びの技術というよりも確実に体を支えて足を運ぶ体力が大事だと思う。体力が弱かった昨年は、八ヶ岳の赤岳や阿弥陀岳を下る時に腰が引けたし落石を起こしそうで恐かった。でも今年の前穂から紀美子平とか奥穂のザイテングラートとかの下りは、コースとしては難しくなってるはずなのに相当余裕があった。感覚としては、技術より体力の問題と思う
・登山計画作成は大事な技術と思う。1日の行動時間を考えて現実的な計画を立てるとか、体調や天気の状況から計画を柔軟に変更するとか。穂高の時は最終日に雨が予想されたので、予定を変更して2日目の行動時間を多くして(体調もよかったので)涸沢まで下りた。3日目の雨の中でザイテングラートを下るよりはリスクが少なかったと思う
・このところ夏山で感じるのは、歩くペースの配分と水分補給のタイミングは大事なスキルではないかということ。例えば、キツいと感じたら無理しないようにとか言われるけど、実際には早朝とか体が動きにくいと言ってノロノロと休み休み行ってもダメで、ペースは上がらなくても亀のように着実に一定時間以上体を動かすことで体が慣れてくれる。体調を理解してペース配分できる技術は必要と思う
D. 装備
・無駄なお金はかけないが、買ったものは事前にちょっと使ってみたりして確実に性能を発揮できるようにする。間違った使い方をしないようにする
・ヘルメット(格好いいデザインや色よりも質を重視)やアイゼン(初心者でもあえて12本爪)などは、2人以上で行くならもう一段下の装備でもいいかもしれないものも、単独行であることを考えて投資を惜しまない
・食糧は重すぎても困るが、Soyjoyのような腹にたまる行動食を多めに持っていくなど工夫する。ルート的に山小屋を活用できる場合は、何を自炊して何を購入するのか計画しておく
穂高の縦走中もですね、私も初心者の域をやっと出るか出ないかのレベルなんで言いにくかったですがね、思わず注意したり注意まではしなくてもマジマジと見てしまったのはいましたよ。
・高齢の単独行者で、なんと吊尾根の南稜の頭付近でストックを使って難儀している人。急な岩場でストック使っちゃ危ないでしょ。その年でその程度のことも判断できない経験量で、穂高の縦走に挑んじゃダメでしょ。
・トレランでザイテングラート下ってたカップル。周囲にも迷惑でしょ。落石起こさなかったのはラッキーなだけでしょ。
・明らかに私よりも体力ない感じで同じルートで私に追い抜かれていた中年単独行の人が、涸沢岳から北穂高岳への上級ルートに向かっていったり。無事縦走したとしても、あの時間であのペースだと北穂高小屋に何時つくのか。さらに翌日の雨の中で下るのに不安はないのか。
一方で、涸沢ヒュッテでご一緒した高齢の方とその息子さんは、奥穂高に挑戦するのは3度目でこれまでは山頂に立っていないということで気合が入っていたのだけど、翌日は雨だったから無理しないで上高地に下山してました。素人登山者こそ、こういう判断できないとまずいでしょ。そりゃ、雨は降っていたけど風は弱かったので頑張れば登頂できた可能性もあったとは思いますけどね。でもリスク・リターンプロファイルが悪すぎるでしょ。そして報道されたように、あの週は穂高連峰で何件か遭難、死亡事故がありました。
まあ、私自身は実際には厳しいルートの登山が始まったら人の心配している余裕はないから、今年の雪山や来年の夏山に向けて自分の体力強化と現実的な登山計画作りに集中しますが。
岳沢小屋で会った山岳警察の人、かなりたいへんな仕事よね。
↓記事がおもしろかったら、投票していただけるとありがたいです
にほんブログ村
↓お勧めの本のリストを作りました。
冷たい風のような火を燃やすものたち
冷たい風のような火 by icyfire is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License
と言うか、このブログを見て簡単だと思って同じような中年の単独行での穂高岳挑戦とか増えると恐いので。
会社の人からも、まだ死なないで下さいとか言われて送り出されたことから分かるように、ちょっと間違うと遭難事故に陥る山域でしょう。
そこで、参考までに私の準備をメモしておこうと思った訳。
ちなみに私、性格的に無謀な登山はしません。全て単独行で、登山開始して直ぐに雪山に登ったり2年目で穂高岳に行っているので、それだけ見たたら無謀に見えますが。実際には、恐らく普通の登山者よりも準備にエネルギーかけてます。
A. 知識
・地図は読み込む。等高線の配列やコースタイム、前穂で言えば「カモシカの立場」などのチェックポイントの位置などは、出発時には頭に入っている。岳沢小屋から紀美子平までの40%くらいの位置だということなど。
・ウェブをフル活用して登山道の情報を集める。効果的なのは、「日本アルプス登山ルートガイド」というウェブサイト。主要な山のルートを写真付きで紹介しているので、事前にイメージトレーニングできる。ルートの難易度も主要な難所の攻略法も示されているので使える。これとブログやヤマレコでの皆さんのレポートを合わせれば、自分に近い年齢の登山者や、登山時期の似ている例のことも勉強できる
・遭難のケーススタディ、低体温症の仕組み、応急処置のやり方など、最低限の知識は雑誌の記事やウェブで十分勉強できるので、それくらいはやっておく。変な話、登山始めてからサバイバル知識がだいぶ上がりました。大地震などの時にも使えると思います
B. 体力
・外資系企業でそれなりのポジションにいるので、平日ジムに行くような時間に恵まれるほど暇ではない。つまり、土日に鍛えるか、平日でも寝る前15分くらい筋トレ頑張るくらいしかない。これは結構たいへんで、実際には一朝一夕には体力上がらない。しかし、できる時に少しでもやっていると、1年程度とはいっても体脂肪率も落ちるし筋肉も増える。と言うか、それまで使ってなかったところに筋肉つく。一番効果的なのは、できるだけ連続で2週に1回程度は登山またはハイキングすること。新緑の頃からやっていると、夏山のシーズンにはそれなりに体が慣れている。今年の春まで高層マンションに住んでいた時は、雪山に行く前にテント泊装備13Kg程度を背負って非常階段を上り下りして鍛えた。実際には雪山ではテント泊しないけど、雪山単独行は恐かったので体力だけはつけようとした
・で、私の意見では、問題は体力そのものよりも自分の体力についての理解と判断。例えば、奥多摩を歩いた時の感覚から何時間くらいなら全力で(早足で)歩けるのか考えたり、テント泊装備と普通の装備を背負った時の体の動きの差からテント泊にするのか小屋泊にするのか考えたり、それまでに登った山でかかった行動時間とその時の疲労度から次の対象となる山のコースでの疲労度を予想したり
・この理解と判断がないと、単独行で長距離のコースとか岩場の危険なコースとか予定組めません。穂高の時も、小屋2泊で吊尾根 & 重太郎新道登りだからGo。1泊で強行しても行けたかもしれないけど危険度が高くなると思われたし、テント泊は体力的に無理。南北アルプスで3泊とか4泊とかするコースも、その多くは単独行では体力的に危険度が高いと判断。来年はもしかしたらもっと長い縦走に挑戦するけど、それも体力的な自信がつくことが前提。やってみたら意外とできた、というのは、やってみたらダメだったというのと本質的に変わらないと思っている
・例えば、今回の穂高岳の場合、その2週間ほど前に行った甲斐駒ヶ岳と仙丈ケ岳の時の感覚が大事だった。これで自分の体力の目安がわかったし、体慣らしという意味でもこの南アの山行は大事だった。
C. 技術
・山岳会に入ったり、アウトドアショップの講習会に参加するのが本当は王道と思う。しかし、単独行をしていることから分かるように、人と交わるのが極端に苦手なので、これは難しい
・しかし、今どきウェブとYouTubeで相当勉強でき、それを比較的レベルの低いコースで試してみることで練習もできる。例えば、雪山の登り方・下り方やアイゼンの使い方は、赤城山をゆっくり登る&谷川岳の天神尾根コースで実践することで比較的簡単に身についた。雪山で汗をかかずに登るのは下手なままだけど
•岩稜も、三点支持や鎖場のコツなど、仕入れた知識を八ヶ岳や宝剣岳などで試して慣れていった。岩場と言ってもレベルがあるので、大キレットとかバリエーションルートとか無理ですが。それらは独学では5年、10年かかるような気がする
・あと、技術は基礎体力がないとどうしょうもないことが多いと思う。例えば、道ともいえないようなガレ場で落石を起こさないように & スリップしないように慎重に歩く(特に下る)というのは、足運びの技術というよりも確実に体を支えて足を運ぶ体力が大事だと思う。体力が弱かった昨年は、八ヶ岳の赤岳や阿弥陀岳を下る時に腰が引けたし落石を起こしそうで恐かった。でも今年の前穂から紀美子平とか奥穂のザイテングラートとかの下りは、コースとしては難しくなってるはずなのに相当余裕があった。感覚としては、技術より体力の問題と思う
・登山計画作成は大事な技術と思う。1日の行動時間を考えて現実的な計画を立てるとか、体調や天気の状況から計画を柔軟に変更するとか。穂高の時は最終日に雨が予想されたので、予定を変更して2日目の行動時間を多くして(体調もよかったので)涸沢まで下りた。3日目の雨の中でザイテングラートを下るよりはリスクが少なかったと思う
・このところ夏山で感じるのは、歩くペースの配分と水分補給のタイミングは大事なスキルではないかということ。例えば、キツいと感じたら無理しないようにとか言われるけど、実際には早朝とか体が動きにくいと言ってノロノロと休み休み行ってもダメで、ペースは上がらなくても亀のように着実に一定時間以上体を動かすことで体が慣れてくれる。体調を理解してペース配分できる技術は必要と思う
D. 装備
・無駄なお金はかけないが、買ったものは事前にちょっと使ってみたりして確実に性能を発揮できるようにする。間違った使い方をしないようにする
・ヘルメット(格好いいデザインや色よりも質を重視)やアイゼン(初心者でもあえて12本爪)などは、2人以上で行くならもう一段下の装備でもいいかもしれないものも、単独行であることを考えて投資を惜しまない
・食糧は重すぎても困るが、Soyjoyのような腹にたまる行動食を多めに持っていくなど工夫する。ルート的に山小屋を活用できる場合は、何を自炊して何を購入するのか計画しておく
穂高の縦走中もですね、私も初心者の域をやっと出るか出ないかのレベルなんで言いにくかったですがね、思わず注意したり注意まではしなくてもマジマジと見てしまったのはいましたよ。
・高齢の単独行者で、なんと吊尾根の南稜の頭付近でストックを使って難儀している人。急な岩場でストック使っちゃ危ないでしょ。その年でその程度のことも判断できない経験量で、穂高の縦走に挑んじゃダメでしょ。
・トレランでザイテングラート下ってたカップル。周囲にも迷惑でしょ。落石起こさなかったのはラッキーなだけでしょ。
・明らかに私よりも体力ない感じで同じルートで私に追い抜かれていた中年単独行の人が、涸沢岳から北穂高岳への上級ルートに向かっていったり。無事縦走したとしても、あの時間であのペースだと北穂高小屋に何時つくのか。さらに翌日の雨の中で下るのに不安はないのか。
一方で、涸沢ヒュッテでご一緒した高齢の方とその息子さんは、奥穂高に挑戦するのは3度目でこれまでは山頂に立っていないということで気合が入っていたのだけど、翌日は雨だったから無理しないで上高地に下山してました。素人登山者こそ、こういう判断できないとまずいでしょ。そりゃ、雨は降っていたけど風は弱かったので頑張れば登頂できた可能性もあったとは思いますけどね。でもリスク・リターンプロファイルが悪すぎるでしょ。そして報道されたように、あの週は穂高連峰で何件か遭難、死亡事故がありました。
まあ、私自身は実際には厳しいルートの登山が始まったら人の心配している余裕はないから、今年の雪山や来年の夏山に向けて自分の体力強化と現実的な登山計画作りに集中しますが。
岳沢小屋で会った山岳警察の人、かなりたいへんな仕事よね。
↓記事がおもしろかったら、投票していただけるとありがたいです
にほんブログ村
↓お勧めの本のリストを作りました。
冷たい風のような火を燃やすものたち
冷たい風のような火 by icyfire is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License