ICANまにらブログ~第二巻~

日本のNGOアイキャンまにら事務所の日記。

「パヤタス病」

2008年06月05日 | ひとりごと
ゆきも@まにら

ここ最近事務所の前の道路で、水道管と歩行者用舗道の設置のために大工事が行われている。もう数か月も続いているのだが、当初あったアスファルトの道路をすべて掘り起こすどころか、そこら中にセメントの山が作られ、立ち退きに遭い切り落とされた切り株などが無造作に置かれている。

道路の両側には、水道管工事のため深い穴がいくつも掘られ、特に、穴を塞いでいる訳ではないので、「落とし穴」以外の何物でもなく、危険なマニラの道路がますます危険さを増している。道路工事中の標識などもないので、すべての車両がいつもどおりひとつの道に突っ込み、大渋滞になり、埒が明かなくなっている光景をよく目にする。わたしは事務所から近距離に住んでいるが、この工事が始まってからというもの、粉塵や砂埃がいつもの排気ガスに混じり、事務所と自宅との2分の距離を歩くことがこれほどまでに苦痛だったことはない。

時にはブルドーザーを運転するお兄ちゃんとアイコンタクトを取り、「わたし、今からそこ通るから、ショベル振り回さないでね。」と眉毛を上下させて合図を送ってから、出勤していた。落とし穴だけならまだいいが、凶器を振り回されて頭にぶち当たった日にゃ、たまったもんじゃない。。

そこしか出勤路?がないので、諦めて出勤していたがそうこうしているうちに、身体が悲鳴をあげ、幼い頃の持病であった気管支疾患や発熱で、ついに入院してしまった。日々うがいや手洗いを心がけたが、今回は無理だった。退院後も、疲れるとすぐ熱が出たり身体がだるかったり、咳や涙が止まらなくなるなどの症状が続いていた。

パヤタスではCHV(コミュニティヘルスボランティア)のお母さんたちが気遣ってくれ、「ゆき2(=ゆきも@まにら)、暑いところや直射日光はだめよ。埃を吸わないようにハンカチを持ちなさい。」「パヤタスに住んでいないのに、いつもここに来てたからsakit ng payatas(パヤタス病)になっちゃったんだわ。かわいそうに、(吸入器を指さして)吸入していきなさいよ。」と口ぐちに心配してくれる。情けない。。 お母さんたちは、気管支疾患などパヤタスでもっとも頻度の多い疾患を「sakit ng payatas」という。わたしはそれにかかった、とお母さんたちは認識しているようだ。

この度日本へICAN講座第2弾(帰国報告会)のため2週間一時帰国させていただいた。
実家でも在宅勤務をしながら静養させていただいたお蔭で随分と元気になった。住み慣れた実家で食べなれた食事といつも以上の睡眠をとることは、薬漬けになるよりも断然効果があることに身をもって感じた。日本に「帰る場所」があるのはありがたいことだ。仕事で得るパワーとはまた別の活力を得て再びマニラに戻ってくることができた。

医者になるべく埃っぽいところは避けて安静に。」と言われたが、「パヤタス病」にかかったコミュニティの住民は、そんな選択肢もなく、ただ高すぎて買えない薬をどうにか購入して回復を祈るしかない。薬を飲まず栄養を取って安静にする、という贅沢な選択肢もない。

今も尚続く終わりなき道路工事を横目に、「いったいどこまで身体が持つのか。」と自分の身を身を案じながらも、更に過酷な環境で身体を酷使する同僚たちの体力と精神力の凄まじさ、そしてコミュニティのお母さんたちに励まされる今日この頃です。