かわたれどきの頁繰り

読書の時間はたいてい明け方の3時から6時頃。読んだ本の印象メモ、展覧会の記憶、など。

原発を詠む(8)――朝日歌壇・俳壇から(2013年8月11日~10月7日)

2013年10月07日 | 読書

朝日新聞への投稿短歌・俳句で「原発」に関連して詠まれたものを抜き書きした。

 

原発に土地奪われて夏三たび行くあてのない流浪の民か
             (川崎市)山根重義  (8/11 佐佐木幸綱選)

公魚(わかさぎ)は釣られ集められ焼かれたり原発事故の後の日常
             (平塚市)三井せつ子  (8/11 佐佐木幸綱選)

三十年チェルノブイリは手つかずにあと幾年か誰も知らざり
             (別府巿)河野靖朗  (8/19 佐佐木幸綱選)

反原発のデモの渦からぬっくりと国会議員が二名生まれた
             (日野市)植松恵樹  (8/19 佐佐木幸綱選)

高濃度の汚れちまった排液が海に漏れ出す泥沼原発
             (名古屋市)諏訪兼位  (8/26 佐佐木幸綱選)

原子炉を作る企業の求人票昨年よりも数枚多かり
             (伊達市)今奈奈   (8/26 佐佐木幸綱選)

天網は疎にして不漏原発は人工システム密にして可謬
             (宇部市)崎田修平   (9/2 佐佐木幸綱選)

原発がありて失業なしという老若男女村人の票
             (長岡市)佐藤正   (9/8 永田和宏選)

内に鼠外猪のはびこれる自宅(うち)に帰還を許されてもといふ
             (福島市)青木崇郎   (9/8 野公彦選)

原発の避難先にて育てゐる茄子と胡瓜のはなに安らふ
             (東京都)半杭螢子   (9/16 野公彦選)

放射能塗(まみ)れの猪豚我が町の県道奔る廃墟を奔る
             (いわき市)馬目弘平   (9/23 佐佐木幸綱選)

土足にて我が家に入るせつなさよネズミの糞に覆われし床
             (郡山市)渡辺良子   (9/23 佐佐木幸綱選)

東京ゆ二百五十キロにて汚染水タンクは増えてゆくばかりです
             (福島市)美原凍子   (9/30 野公彦、永田和宏選)

東京は安全ですと言われれば区別の助詞の「は」がひっかかる
             (枚方市)小島節子   (9/30 永田和宏選)

東京は東京にはの「は」と「には」の東京遠く遠く隔たる
             (山形市)小林武子   (9/30 永田和宏選)

ただ単に汚染水と呼ぶ原発の高濃度放射性汚染水なのに
             (東京都)吉武純   (9/30 佐佐木幸綱選)

フクシマの数値も呼び名も曖昧になるも原発の劫火は消えず
             (東かがわ市)河野久之   (9/30 佐佐木幸綱選)

プレゼンの首相の言にウソでしょ!と叫びし我はふくしま県民
             (郡山市)渡辺良子   (10/7 永田和宏選)

コントロールしておりますのその朝のフクシマのニュースは汚染水流出
             (本宮市)廣川秋男   (10/7 永田和宏選)

こころまで汚染されてくまいにちをフクシマ人は生きております
             (福島市)美原凍子   (10/7 佐佐木幸綱選)

 

今原爆七ヶ月後は原発忌
             (養父市)足立威宏   (8/19 金子兜太選)

原発の廃墟ばかりや蟻地獄
             (川崎市)池田功   (8/26 金子兜太選)

被爆地へ子らは帰らず秋深む
             (福津市)松崎佐   (9/23 金子兜太選)

原発を止め名月を愛でにけり
             (八王子市)額田浩文   (9/30 金子兜太選)

身に入むや未来を汚す汚染水
             (兵庫県猪名川町)小林恕水   (9/30 長谷川櫂選)

 

原発事故に関連した短歌、俳句のみを抜き書きしているが、下の歌と句は原爆を詠んだものでも印象深かったので、採録しておいた。

六十八光年先に今もなほエノラ・ゲイの見し街はあるらむ
             (尾道市)堀川弘   (9/2 永田和宏選)

原爆忌そは人類の忌なりけり
             (東京都)三笠比呂史   (8/26 金子兜太選)


原発事故はどう詠まれたか:朝日歌壇・俳壇から(事故後4ヶ月の頃)

2013年10月03日 | 鑑賞

 これは、朝日新聞の投稿欄「朝日歌壇・俳壇」に掲載された短歌と俳句の中から、東京電力福島第一原子力発電所の原子炉溶融事故に関連して詠まれたものを縮刷版から抜き書きしたものである。
 原発事故の発生時から2012年7月までの期間について順次抜き書きを進めていて、今回は2011年7月に掲載されたものである。
 2012年8月以降については、新聞発行をリアルタイムでフォローしながら適宜まとめてこのブログで紹介している。

 

2011年7月4日

枝折戸に鋭く爪たて猿のいて一時帰宅に身動きもせず
                   (宮城県)須藤柏 (佐佐木幸綱選)

「福島を出ます」とおさな子を連れし背が去りゆく雨の向こうに
                   (福島市)美原凍子 (佐佐木幸綱選)

放射線目に見えるならこの霧のごと迫り来るらむ月山に佇つ
                   (須賀川市)中山弧道 (佐佐木幸綱選)

疣蛙棄民を拒む面構え
                   (福島市)中村晋 (金子兜太選)

朝顔やフクシマからの転校生
                   (山形県白鷹町)紺野蘆白 (長谷川回線)

 

2011年7月12日

美しき国に生まれてあはれなり線量計を持たさるる子ら
                   (福島市)美原凍子 (馬場あき子選)

フクシマをいっ時忘れたく来たる茂吉記念館昼を鎮もる
                   (下野市)若島安子 (馬場あき子選)

大震災に健気にのこるわが家を写真にとりて一時帰宅終る
                   (東京都)半杭蛍子 (高野公彦選)

放射能の恐怖が皆のものとなり分かってもらえた被爆者我等の
                   (アメリカ)大竹幾久子 (永田和宏選)

 

2011年7月18日

海峡にくっきり浮かぶ下北は風力強し大間原発
                   (函館市)武田悟 (佐佐木幸綱選)

目に見えぬ放射能ありひたひたと黒揚羽飛ぶ生の輪郭
                   (熊谷市)内野修 (高野公彦選)

浜風がひそやかに野を山を越え太郎を眠らせセシウム降り積む
                   (福島市)青木崇郎 (高野公彦選)

地図に置く人差し指に子の任地親指の下に原子力発電所
                   (平塚市)高橋英子 (永田和宏選)

 

2011年7月25日

県の花ネモトシャクネゲ、県の鳥キビタキ、県の××ゲンパツ
                   (福島市)美原凍子 (高野公彦選)

日常の会話も悲し線量と逃げる逃げない堂々巡り
                   (郡山市)渡辺良子 (高野公彦選)

原発に明かり点滅事もなく文月一日海開きの夕べ
                   (福井県)大石静子 (高野公彦選)

みちのくの七夕の夜を翔けりゆく千羽鶴いま万羽鶴
                   (福島市)美原凍子 (馬場あき子選)

被災地の土葬を見つつ経を誦む老師は白き防護服着て
                   (八戸市)山村陽一 (馬場あき子選)

「原発は明るい未来」と静寂の人消えし町に掲げあり今も
                   (本宮市)廣川秋男 (馬場あき子選)

気がつけば被爆していたそんなことあってしまったこの国のいま
                   (福島市)美原凍子 (佐佐木幸綱選)

振れ止まぬ線量計や行々子
                   (福島市)二宮宏 (大串章選)

みちのくの放射能降る半夏雨
                   (いわき市)金成榮策 (金子兜太選)