《2015年3月6日》
デモといえば、加藤恵子さんという方がフェイスブックに書いていた投稿が面白かった。
関西電力前で抗議中、警官がデモ行進が来るから早く止めろとか、道に上がれとかうるさかったのです。どんなデモが来るかと待っていたら、全くのぼり旗はあるのだが何を主張しているデモか全く分からない。その上一言も言わない。腕章なんかつけていたので、どうも春闘がらみの組合のデモらしい。そこで私は、みなさんちょうどいい所へ来られました、関西電力前です、高浜原発再稼働反対の一言、いかがですか? と声をかけたがそれでも無言。しかしなんども呼びかけたら、最後の方でやっと再稼働反対の声が上がった。こちらも手を叩いた。しかし、あの葬式のようなデモは何だったのだろう? もう組合押しつけのデモなんか止めたらどうですか。個人個人が意思表示しようよ。
私も現役時代は組合のデモにも出ていたが、今の金デモのようにたった1人の意志だけで参加している方がたしかに気分がいい。どんな組織にも、友人、知人のしがらみにもとらわれず、流されず、私の意志だけがすべてというのはほんとうにすっきりとしている。
加藤恵子さんとは、明治公園で開かれた脱原発デモの集会で1度お会いしたことがあるだけのFB上の知人だが、その行動力にはほとほと感服している。原発、辺野古、憲法、秘密保護法がらみのデモばかりか、ホームレス支援の炊き出しまで行なっている。だから、次のようなFBの投稿も、切実に首肯できるのである。
あまりのバタバタで、本読む時間が全くない。気が変になりそうだ。私の時間を強奪しているのは安倍だ。返せ、私の時間。
加藤さんの行動力に比べたら、私のは脆弱にすぎるとしみじみ実感せざるを得ないのだ。
《2015年3月29日》
デモの列は短いので、交差点の信号をスルッと抜けられて、デモの歩みは早い。一番町を出て、青葉通りに差しかかった頃には、空は晴れ上がり陽が射していた。
デモの参加者が多いとか少ないとか、そんなことを考えてしまう自分へ、この詩の一節を…….
主義を先立て主義に浸って
なにかと呑んでは時節に怒って
あゝなんという埋没。
とうに甦ったはずの国が
今もって暗いのは私のせいだ。
遠い喊声を漫然と待っている
私の奥の夏のかげりだ。
金時鐘「夏のあと」部分 [1]
[1] 『金時鐘四時詩集 失くした季節』(藤原書店、2010年)pp. 88-89。
《2015年5月8日》
私たちのデモは毎週ほとんど同じ人間たちだが、ここに集まっているこれだけの人たちの中には同じ人はほとんどいないはずだ。私たちには見慣れた風景であっても、彼らにとっては見慣れない(なかには初めて)デモを見ているに違いないのである。
そんなことを考えたら、真面目にきちんとデモをしなくては、とつい思ってしまうが、私たちはいつだって真面目にデモをしているのだ(多少の慣れはあるにせよ)。それにしても、私(たち)は、このような眼差しの非対称性を意外と無頓着に見過ごしているのかもしれない。心しておかなければと思う。
私は断言する
見るに値するものがあったから
眼が出来たのだと
吉野弘「眼・空・恋」部分 [1]
デモの最後列を抜け出して、先頭へ急ぐ。先ほどまで熱で寝込んでいたのでいくぶん辛かったが、先頭を追い越して駆けだして、さらに先、青葉通りの交差点付近で、藤崎前の緩やかな坂を下ってくるデモの列を待っていた。
デモを待つわずかな時間に、「この坂の名前は何だろう」と一瞬思った。坂の名前などないのかもしれないのに、「こんなことも知らないのは仙台が故郷ではないからなのだ」と思いこんでしまった。生まれた田舎で16年生き、それから仙台で60年も生きてきた。執着心の強さで言えば仙台なのだが、「生れ故郷」ではない。どちらが故郷でも私の心のどこにも差し障りがあるわけでもないのだが……
故郷春深し行々(ゆきゆき)て又行々(ゆきゆく)
与謝蕪村「春風馬堤曲」(部分) [2]
デモが近づいてきて、どこでシャッターを押すかタイミングを計り始めたときから「坂の名前」のことは飛んでしまった。「坂」を下りきって、青葉通りに曲れば、通りの光量は急激に落ちてしまう。やたらにシャッターを押すのは仕上がりが心許ないせいなのである。
坂といえば「この坂をのぼらざるべからず/踊りつつ攀らざるべからず」という室生犀星の有名な「坂」という詩があるが、日々の散歩や街歩きで想うことは、次のようなことだ。
役人は四角の柱を立て由来を記し
坂という坂はすべて由緒あり気だ
幸いこの細い急な坂道には名がない
朝な夕な四季おりおりに
ぼくはこの坂に名を付して
よすがの楽しみにしている
天彦五男「名付け坂」部分 [3]
[1] 『吉野弘全詩集』(青土社、2004年)p.254。
[2] 『日本の古典 58 蕪村集 一茶集』(小学館、昭和58年)p.123。
[3] 『天彦五男詩全集』(土曜美術社出版販売、2010年)p.176。
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