かわたれどきの頁繰り

読書の時間はたいてい明け方の3時から6時頃。読んだ本の印象メモ、展覧会の記憶、など。

原発事故はどう詠まれたか:朝日歌壇・俳壇から(事故後1年の頃)

2013年10月30日 | 鑑賞

 これは、朝日新聞の投稿欄「朝日歌壇・俳壇」に掲載された短歌と俳句の中から、東京電力福島第一原子力発電所の原子炉溶融事故に関連して詠まれたものを縮刷版から抜き書きしたものである。
 原発事故の発生時から2012年7月までの期間について順次抜き書きを進めていて、今回は2012年3月に掲載されたものである。
 2012年8月以降については、新聞発行をリアルタイムでフォローしながら適宜まとめてこのブログで紹介している。

 

2012年3月5日

目に見えぬ「セシウム」思い皮を剥く今までそのまま食べていた大根
     (東京都)牛尾小夜子 (佐佐木幸綱選)

校庭はブルーシートに公園もブルーシートで地球は青い
     (福島市)伊藤緑 (佐佐木幸綱選)

錆びついた鉄棒、ブランコ引き抜かれ除染始まる十一箇月後
     (福島市)澤正宏 (佐佐木幸綱選)

原子力半島凍る下北に寒立馬立つ見れば孕みぬ
     (三沢市)遠藤知夫 (高野公彦選)

みちのくの恨みを羽根に鳥帰る
     (立川市)松尾軍治 (金子兜太選)

 

2012年3月12日

家族は皆避難させだが、この馬がお産するまではどごさもいがね
     (福島市)斎藤一郎 (高野公彦選)

削られし後の行き処もあらざれば汚染の土は地球の迷い子
     (福島市)美山凍子 (高野公彦選)

鮎の稚魚二十万匹群馬よりフクシマへ発つ二人が添いて
     (前橋市)荻原葉月 (馬場あき子選)

海峡もガレキも汚染も越え来る鵯の群れ房総に舞う
     (市川市)藤原祐樹 (馬場あき子選)

わが福島木の芽草の芽すこやかに
     (いわき市)坂本玄々 (長谷川櫂選)

 

2012年3月19日

掃除の後猫を叱って寂しかり「汚染の足で歩き回らないで」
     (郡山市)昆キミ子 (永田和宏選)

六万の人ら去りたる福島の山河さみしき春の陽炎
     (福島市)美山凍子 (馬場あき子選)

フクシマまで反原発のデモ行くと決めたる妻にわれ逡巡す
     (川崎市)山根繁義 (馬場あき子選)

フクシマの地に刻まれた諦めと怯えと怒りは除染で消せぬ
     (福島市)澤正宏 (佐佐木幸綱選)

全力で飼い主の車追ひし犬あきらめ戻る警戒区域に
     (郡山市)渡辺良子 (高野公彦選)

原発の収束宣言出ない春
                        (流山市)角田勇 (金子兜太選)

 


 

2012年3月26日

あの日から時計の停まりし友の家に被爆の花が黙し咲きおり
    (相模原市)松並善光 (馬場あき子選)

若きらが戻らぬ町へ戻り来る老いらは行く先ここしか無くて
    (本宮市)廣川秋男 (馬場あき子選)

寒さには耐えられるけど浜で見た青空恋しい避難者の言う
    (福島市)武藤恒雄 (馬場あき子選)

浜に生まれ海に育ちし小名浜の漁師が市に他県(よそ)の魚売る
    (北九州市)四宮修 (高野公彦選)

ぬいぐるみの首におもちゃの線量計下げて「私と同じ」と七歳
    (郡山市)渡辺良子 (永田和宏選)

ひん曲がる原発地続きつくしんぼ
    (延岡市)河野正 (金子兜太選)

福島忌ただならぬ世に老いにけり
    (いわき市)坂本玄々 (金子兜太選)