かわたれどきの頁繰り

読書の時間はたいてい明け方の3時から6時頃。読んだ本の印象メモ、展覧会の記憶、など。

原発事故はどう詠まれたか:朝日歌壇・俳壇から(事故後4ヶ月の頃)

2013年10月03日 | 鑑賞

 これは、朝日新聞の投稿欄「朝日歌壇・俳壇」に掲載された短歌と俳句の中から、東京電力福島第一原子力発電所の原子炉溶融事故に関連して詠まれたものを縮刷版から抜き書きしたものである。
 原発事故の発生時から2012年7月までの期間について順次抜き書きを進めていて、今回は2011年7月に掲載されたものである。
 2012年8月以降については、新聞発行をリアルタイムでフォローしながら適宜まとめてこのブログで紹介している。

 

2011年7月4日

枝折戸に鋭く爪たて猿のいて一時帰宅に身動きもせず
                   (宮城県)須藤柏 (佐佐木幸綱選)

「福島を出ます」とおさな子を連れし背が去りゆく雨の向こうに
                   (福島市)美原凍子 (佐佐木幸綱選)

放射線目に見えるならこの霧のごと迫り来るらむ月山に佇つ
                   (須賀川市)中山弧道 (佐佐木幸綱選)

疣蛙棄民を拒む面構え
                   (福島市)中村晋 (金子兜太選)

朝顔やフクシマからの転校生
                   (山形県白鷹町)紺野蘆白 (長谷川回線)

 

2011年7月12日

美しき国に生まれてあはれなり線量計を持たさるる子ら
                   (福島市)美原凍子 (馬場あき子選)

フクシマをいっ時忘れたく来たる茂吉記念館昼を鎮もる
                   (下野市)若島安子 (馬場あき子選)

大震災に健気にのこるわが家を写真にとりて一時帰宅終る
                   (東京都)半杭蛍子 (高野公彦選)

放射能の恐怖が皆のものとなり分かってもらえた被爆者我等の
                   (アメリカ)大竹幾久子 (永田和宏選)

 

2011年7月18日

海峡にくっきり浮かぶ下北は風力強し大間原発
                   (函館市)武田悟 (佐佐木幸綱選)

目に見えぬ放射能ありひたひたと黒揚羽飛ぶ生の輪郭
                   (熊谷市)内野修 (高野公彦選)

浜風がひそやかに野を山を越え太郎を眠らせセシウム降り積む
                   (福島市)青木崇郎 (高野公彦選)

地図に置く人差し指に子の任地親指の下に原子力発電所
                   (平塚市)高橋英子 (永田和宏選)

 

2011年7月25日

県の花ネモトシャクネゲ、県の鳥キビタキ、県の××ゲンパツ
                   (福島市)美原凍子 (高野公彦選)

日常の会話も悲し線量と逃げる逃げない堂々巡り
                   (郡山市)渡辺良子 (高野公彦選)

原発に明かり点滅事もなく文月一日海開きの夕べ
                   (福井県)大石静子 (高野公彦選)

みちのくの七夕の夜を翔けりゆく千羽鶴いま万羽鶴
                   (福島市)美原凍子 (馬場あき子選)

被災地の土葬を見つつ経を誦む老師は白き防護服着て
                   (八戸市)山村陽一 (馬場あき子選)

「原発は明るい未来」と静寂の人消えし町に掲げあり今も
                   (本宮市)廣川秋男 (馬場あき子選)

気がつけば被爆していたそんなことあってしまったこの国のいま
                   (福島市)美原凍子 (佐佐木幸綱選)

振れ止まぬ線量計や行々子
                   (福島市)二宮宏 (大串章選)

みちのくの放射能降る半夏雨
                   (いわき市)金成榮策 (金子兜太選)