かわたれどきの頁繰り

読書の時間はたいてい明け方の3時から6時頃。読んだ本の印象メモ、展覧会の記憶、など。

原発事故はどう詠まれたか:朝日歌壇・俳壇から(事故直後のころ)

2013年09月15日 | 鑑賞

 これは、朝日新聞の投稿欄「朝日歌壇・俳壇」に掲載された短歌と俳句の中から、東京電力福島第一原子力発電所の原子炉溶融事故に関連して詠まれたものを縮刷版から抜き書きしたものである。
 私の地元仙台では、昨年(2012年)の7月から「脱原発みやぎ金曜デモ」と称する定期的な反原発デモが開催され続けている。そのデモの当初から参加しているときに、投稿短歌や俳句の中から、原発事故に関連したものを抜き書きすることを思いついた。2012年7月16日付けの朝日新聞から始めて、このブログで紹介してきた。

  時間とともに原発事故に関連する短歌や俳句が減ってきたのは、新聞の投稿欄という性格からは当然のことである。新聞である以上、たとえそれが短歌や俳句という芸術の領域に分類されることがらであっても、そのときどきの季節やトピックにふさわしい歌や句が選ばれやすいことは想像に難くない。風化はいつでも、マスコミ・ジャーナリズムから始まるのである。

 ここでは、原発事故の発生時から抜き書きを思い立った2012年7月までの期間の「朝日歌壇・俳壇」から時間を追って順に抜き書きをしていく予定である。事故直後には多くの歌や句が詠まれているのは当然で、できるだけ早急に拾い集めるべきだったのだが、図書館の机に拘束されて縮刷版を繰る手間に尻込みして、さぼりつづけていた。事故直後からの16ヶ月分をこれからカバーする予定である。

 私は、私の住む仙台から福島までのその距離感でしか原発事故にまつわる事象を見ることができない。投稿された短歌や俳句は、日本(世界)の至る場所、そして福島のど真ん中そのものから見たフクシマを指し示しているにちがいない。そのような眼差しや感情をいくぶんかでも我が身に取り込めたら、そんな淡い期待を抱いているのである。

 

2011年3月28日

怖れゐし事故の起こりたりあれほど安全と言ひてゐたりに
          (敦賀市)上田善朗 (佐佐木幸綱選)

 原発という声きけば思わるる市井の科学者高木仁三郎
          (静岡市)篠原三郎 (佐佐木幸綱選)

絶対を想定外が覆す科学の粋の原発に事故
          (西海市)前田一揆 (佐佐木幸綱選)

原発が峡二分せし枯木灘家族葬あり如月の昼
          (和歌山市)山口雅史 (永田和宏選)

        

 2011年4月4日

原発の地に残しきし牛気づかい畜産営む農が涙す
          (三島市)朝野和子 (高野公彦選)

現実にならねばよいがと不安なりチェルノブイリの石棺のひび
          (山口県)宮田ノブ子 (佐佐木幸綱選)

 

2011年4月10日

過疎採るか原発採るかこの地にも決断迫る時勢のありき
          (新潟市)伊藤敏 (佐佐木幸綱選)

生きてゆかねばならぬから原発の爆発の日も米を研ぎおり
          (福島市)美原凍子 (佐佐木幸綱選)

放射能の不安の募る原発より二十キロ内にわが町もあり
          (西予市)大和田澄男 (佐佐木幸綱選)

薄氷を踏みいる如き幸せと思い知らさる原発の事故
          (佐野市)広瀬恭子 (佐佐木幸綱選)

ただじっと息をひそめている窓に黒い雨ふるふるさと悲し
          (福島市)美原凍子 (高野公彦選)

姿見ぬ人に二種あり原発の内部作業者、最高責任者
          (高槻市)奥本健一(高野公彦選)

        

2011年4月18日

田も畑も黙り込んでるふるさとの風が重たい原発の空
          (福島市)美原凍子 (馬場あき子選)

蟻のごとき列の車が阿武隈の山に吸わるる町民避難とは
          (我孫子市)開発廣和 (馬場あき子選)

春キャベツ七千五百株畑に残し男は自殺す核汚染苦に
          (三重県)喜多功 (馬場あき子選)

原発の空のしかかるふるさとのここにいるしかなくて水飲む
          (福島市)美原凍子 (佐佐木幸綱、永田和宏選)

簡単に想定外と記者会見きちんと想定すべきあなたが
          (東京都)大久保やそじ (佐佐木幸綱選)

原発を逃れて来たる姪の手がしっかり抱くダックスフント
          (ひたちなか市)猪狩直子 (佐佐木幸綱選)

犬つなぎ避難せし人責める人聞くもつらしや原子漏れ事故
          (福島県)北村ミヨ (佐佐木幸綱選)

原発で下請け作業者被爆すと本社社員は淡々と読む
          (高槻市)奥本健一 (佐佐木幸綱選)

時季なれば菜大根蒔かむと畑を打つ放射能汚染時にまかせむ
          (稲敷市)川村とみ (佐佐木幸綱選)

わが町はチェルノブイリとなり果てし帰るあてなき避難民となる
          (福島県)半杭蛍子 (高野公彦選)

背に肩に両手に喰い込む荷をさげて難民となる放射能避け
          (枚方市)澤正宏 (高野公彦選)

三十キロ遠くに写り危うげに蜃気楼のごとき白き原子炉
           (高松市)菰渕昭 (永田和宏選)

春光の全て放射能塗れ
          (いわき市)馬目空 (金子兜太選)

原発の業火消せぬか春のつき
          (千葉市)矢羽野睦男 (金子兜太選)

東北を逃げ来し孫と日向ぼこ
          (三鷹市)福田正 (長谷川櫂選)

 

2011年4月24日

被爆検査受けねば非難受けつけぬと雨を濡れきし親子帰さる
          (福島市)中村晋 (佐佐木幸綱、高野公彦選)

毎日のおかずのように噛んでいるベクレル数値、シーベルト数値
           (福島市)美原凍子 佐佐木幸綱選)

乳搾るナカレ、耕すナカレ、種蒔くナカレ、ふくしまの春かなし
          (福島市)美原凍子 (高野公彦選)

昭和へと戻る気配す放射能・計画停電・集団疎開
          (長野県)小林邦子 (高野公彦選)

此処もすでに危険と話す人等いて闇迫るとき次の地へ立つ
          (福島県)開発廣和 (永田和宏選)

窓辺から見ている空は福島の先週までと変わらない空
           (郡山市)畠山理恵子 (永田和宏選)

いわき駅構内鉄路赤錆びて津波・原発が街を滅ぼす
          (いわき市)松崎高明 (馬場あき子選)

乳出すなと餌を減らすわれの手元見るその眼のやはらかき乳うし
          (郡山市)横田俊幸 (馬場あき子選)

ふくしまがフクシマとなりFUKUSHIMAとなりたる訳の重すぎるわけ
          (福島市)美原凍子(馬場あき子選)

無惨なり一束残し根張りたるホウレン草をみな抜き捨てる
           (取手市)緑川智 (馬場あき子選)

原発の屋根吹き飛ぶや涅槃西風
          (横浜市)御手洗征夫(長谷川櫂選)

福島は暗黒大陸桜咲く
          (三郷市)岡崎正宏 (金子兜太選)

相馬よりいま沈黙の葱坊主
          (横浜市)高橋央尚 (金子兜太選)

東風吹けば吹くほど暗くなる山河
          (黒石市)複視謙二 (金子兜太選)

花咲けど人の戻らぬ山河かな
          (川崎市)山根繁義 (金子兜太選)

 

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
忘れないことですね。 (元お蝶夫人)
2013-09-18 16:55:29
hdyondrさん
こんにちは(*^。^*)

被害を受けた側の人間はいつまでたっても忘れるものではありませんが、それ以外の人間は忘れて行きます。
少なくとも私は忘れないようにと思っています。
ただ「去る者日々に疎し」なんですよね。
なにかしら発信していくことが大事なんでしょうね。
返信する
忘れないために (hdyondr)
2013-09-18 20:02:02
元お蝶夫人さん

そうなんですね。
私としても、いわばけっして忘れないために「抜き書き」のような作業をしていると言ってもいいくらいです。
こんな抜き書きをし、脱原発デモに参加する、そうすることで私自身の中で悲惨な原発事故を絶対に風化させないようにと願っているのです。

地震と津波については、家を流されたり、家族を亡くした友人たちとときどき会っているので、風化どころかまだまだ生々しいのです。
返信する

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