去年、10月1日、菅内閣の所信表明で突如として浮上したTPP(環太平洋経済連携協定)は、11月9日の閣議決定された基本方針で「協議開始」へと一気に踏み込んだ。最終的な“交渉参加”は、今年6月の判断ということになっているけれども、それへの地ならしは確実に進んでいる。
TPPとは、FTA(自由貿易協定)の一種で、FTAは、二国間・多国間で関税を撤廃する協定なのだけれども、TPPは「例外なき関税撤廃FTA」である(即時、あるいは10年以内の関税撤廃)ことに加え、金融・サービス・労働の自由化というさらに包括的なものを含んでいる。
一般的に、TPPを論じる際に「鎖国か開国か」というスローガンがよく使われる。けれども、農産物の関税は平均11.7%で十分に国を開いている(P.29)。それに加えて、関税の完全撤廃が起きたらどうなるか。
輸出産業による利益が、国民に還元されるのか?農業規模で太刀打ちの出来ない農産物が、どれだけ生き残れるのか?反対論の根拠として出される自給率40%→14%がどこまで正確化は分からない。自給率を国際的な基準と異なるカロリーベースで換算することにも問題はあるだろう。
ただ、これだけ劇的な変化を強いるTPPへの参加を、国民的論議もナシに強引に進めていく今の民主党政権のあり方、いや、仮にその手法を認めたとしても、その政策決定のプロセスは極めて不透明で、不連続だ(P.67)。
その上、TPP参加国は、最大の相手国であるアメリカを例に取れば、自動車の現地生産が進み、日本からの輸入を受け入れる余地のある国は殆どない。
「TPPを慎重に考える会」の勉強会の動画(2月2日)ゲスト:生活クラブ生協連合会の加藤好一会長、パルシステム連合会の食料安全政策室の高橋宏通氏、大地を守る会の藤田和芳氏
http://iwakamiyasumi.com/archives/6231
十分な政策決定がされぬまま、これだけ包括的な、交渉に参加するのは、あまりに拙速で危険であると言わざるを得ない。本書は農業問題が主で、それ以外の部分への記述は、極めて少ない。そこは残念だけれども、続編が出るとのこと。
「TPPを慎重に考える会」の勉強会の動画(2月4日)ゲスト:同志社大学大学院教授の浜矩子氏
110204TPPを慎重に考える会 from iwakamiyasumi on Vimeo.
TPPを農業問題に限定して考えるのは、むしろ問題の本質から目を逸らすことになると僕は思ってる。続編では、それ以外の問題に力点を置いた記述になるそうなので、そこに期待したいと思う。
★補論:この問題に関する生活協同組合の動き
本来自給率問題や、食の安全問題をテーマに掲げてきた生協陣営の動きは正直鈍い。このブックレットに寄稿したのは、生活クラブ連合会とパルシステム連合会のみ。
あと、調べたところでは、県連レベルで学習会や抗議行動などに参加しているのは、岩手、宮城、栃木に留まる。ナショナルセンターである日本生協連は1月13、14日の全国政策討論集会を行い、「全体討論ではいくつかの生協、事業連合が「協定に反対の姿勢を明確に打ち出せ」と迫った。これに対して日本生協連・統括責任者の矢野和博専務は「執行部の判断を会員生協に押し付けるわけにはいかないし、(TPPの貿易ルールなど詳しい)データが明らかになっていない中では判断そのものができない」と答えた」(日本農業新聞)という。
で、「近々、論点整理のための討議資料をつくり、組合員に提示したい。3月上旬ごろまでには間に合わせたい」(芳賀唯史・専務理事)という。
おそらく、論点は整理するものの、意思表示はしないつもりなのだろう。3月に論点を整理して、国が判断するのは6月。論議しているうちに“時”は来てしまう。
リンク先にもあるように、パルシステム連合会では、一早く組合員向けに連合会としての見解を打ち出している。人材が遥かにいるであろう日本生協連が1月の時点で、反対でなくても、慎重論くらいは、やる気があれば、出来たろう。
むろん、反対論を打ち上げている生協の論点も、自給率や食の安全に留まっていて、TPP全体に踏み込んだものではないという限界はある。
ただ、ナショナルセンターとして、見解はおろか、論点の整理すらできない現状は、消費者団体としてのありようとして、あまりに情けなくはないか。それだけは、元職員の老婆心として申し上げておきたい。
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※参考リンク
・岩垂 弘「日本生協連が組合員向けの討議資料作成へ」(リベラル21)
・「TPPと生協連/賛否先送りの真意何か」(日本農業新聞)
・岩手県生協連主催「TPP(環太平洋経済連携協定)を考える緊急学習会」報告~TPPで日本の未来と私たちのくらしはどうなるの?~(岩手県生協連)
・「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)」に対する取組みについて(宮城県生協連)
・TPP交渉への日本の参加に反対する、いわて生協理事会声明(いわて生活協同組合)
・TPP(環太平洋連携協定)参加交渉に対する当会の見解について(パルシステム連合会)
・高橋義正「日本生協連11年政策討論集会・2020年ビジョン第2次案に関して」(コラボ・コープOB)
(800円+税、農文協 2010.10)