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おはようヘミングウェイ

インターネット時代の暗夜行路。一灯の前に道はない。足音の後に道ができる。

Plaisir de choisir.

2015-01-05 | Weblog
わが家にあって日々溜まっていく新聞紙、チラシは必ず古紙回収業者に提供するようにしている。「捨てればゴミ、活かせば資源」。こんな合言葉を掲げる自治体に賛同し協力を惜しまない生活を送っている。そんな善良にして協調性ある市民のために、古紙回収業者は古紙を入れるビニール製包装袋を配布し、回収量に応じてトイレットペーバー数個をお駄賃として協力市民に手渡してくれる。この業界にも名刺大の紙製ポイントカードがあり、古紙を持ち込む度に赤色の丸印を押していく。丸印の数がある程度溜まるとプレゼントがある旨がカードに書いてある。前口上が長くなったが、話はここからである。古紙を業者に持ち込もうと車を運転し、赤信号で停車中になにげにポイントカードを眺めていた。丸印がけっこう溜まってきたなと思いながら、カードをひっくり返して表面を見た。カードの上段に大きく印字された文章が目に飛び込んできた。

Plaisir de choisir.

フランス語! 歓び……? 半分分かって、残り半分が分からない。deは英語でのofになるが、choisirはなんだっけ?

2行目にも小さな文字が羅列してある。これも、どうやらフランス語のようだ。


je voudrais voir votre visage ravi…


部分的に単語の意味は分かるが、全体としては分からない。


この文章の下に空きスペースがあり、古紙回収業者の所在地と会社名、電話番号の黒いスタンプ印がぺたんと押されていた。

社名の入ったスタンプ印の下に再びフランス語が印字されている。


Soyez plus chic avec un cadeau.


なんだ、こりゃ? 


古紙回収業者のビジネスモットーをフランス語で綴っているのか? 過去、何度も古紙をこの業者の事務所敷地に持ち込んだが、名刺にあるようなフランスモードの雰囲気を思わせるものは何もなかった。高速道路沿いの工業団地内に業者の広大な敷地がある。社員の女性たちは全員日本人だし、巨大な倉庫には古紙の山がいくつも聳えている。中国に日本の古紙を輸出している話は聞いたことがあるが、フランスに輸出しているなんて話は聞いたことがない。事務所に着いたら社員に尋ねてみよう。

新聞紙やチラシ2カ月分を事務所に持ち込んだ。女性社員が毎度にこやかに応対してトイレットペーバーを手渡してくれた。差し出したポイントカードに丸印を押してもらい返してもらったところで、ワンポイントクエスチョンである。カードにフランス語が印字されているけれども、これは社長の発案なの? 応対した中年女性は「えっ~」と、こちらが驚くような声を上げた。「それって英語じゃないんですか~」。事務所にいた他の女性たちも付和雷同して驚いた表情で声を上げた。その反応にまずはわたしも驚く。「えっ~」と声を上げた女性がワンポイントクエスチョンをわたしに繰り出した。「それって、なんて書いてあるんですか~?」。なんて書いてあるって? えっ~、それを知らずにカードを配ってたんですかあ~? そんな心中である。応対中の女性にワンポイントプロミスを告げる。「次に来るときまでに調べておきますから~」。他の女性たちも顔をそろえて、ぜひぜひお願いしま~すの表情をわたしに向けている。

相手が驚く姿や声に、こちらが驚くという経験を久々に味わった。痛快でも不快でもない不思議なひと時だ。ひと仕事を終えて自宅に夜戻り、フランス語が印字されたポイントカードを机の上に置いて、ネット学習の時間に入る。アナログ時代には想像もできないようなスピード感でもって語学学習での疑問を即決回答してくれるのがデジタル時代の良さである。カードに印字されていたフランス語の全訳が解明された。


Plaisir de choisir. 選択する歓び

je voudrais voir votre visage ravi… あなたの喜ぶ顔が見たくて

Soyez plus chic avec un cadeau.  贈り物をより品よく

どうも古紙回収にかかわる言葉とは違うようだ。贈り物と包装にかかわる意味合いで使う表現? ポイントカードの中にヒントがないものか。表、裏をじっくりと見回す。カードの隅にもの凄く小さな文字で何かが印字してある。拡大鏡で見てみる。著作権表示のCマークがある。その後にHEADSの文字と製品の種類らしきアルファベットと数字の組み合わせが列記されている。その下にはRECYCLED PAPERの印字。だんだんとフランス語の謎が解けてきたようだ。Cマークの後ろにあるHEADS、おそらくこれは会社名で、この会社が名刺大のポイントカードをデザインしたに違いない。HEADSをネットで検索する。ホームページが見つかり、業務用資材やラッピング用品、ギフト用品などを扱う日本の会社だった。この会社が扱う製品の中のメンバーズカードに、古紙回収業者がポイントカードとして使っているものと同じ物が掲載されていた。BINGO! 回収業者はHEADSの製品を仕入れスタンプ印を押して活用していた! 

フランス語が印字されたポイントカードの謎が解けた。次回、古紙を回収業者に持ち込むときに女性社員たちに説明してあげよう。そして、このメンバーズカードを採用した経営者の判断を経過はともかく誉めることを伝えたい。さらに検索して分かったことだが、古紙回収業者は個人で立ち上げ、志を遂げて回収業を大きく成長させた人物でもあった。女性社員たちの応対ぶりの良さにはいつも感心させられていた。持ち込んだ客に対して事務所前に立ってお見送りを笑顔でし、きちんと礼をした後、客が去っていくのを見守留る姿に、なぜ、ここまでと思っていたが、経営者の教育だったのかと合点がいった。たった1枚の、フランス語が印字されたポイントカードの謎解きから教えられることがこんなにもあるなんて! まさに「えっ~」である。
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