パソコンに「ハギスはスコットランド名物か?」の件名でメールが届いていた。差出人はシャーロック・ホームズ! 食聖を訪ねて7を読んだ人からの辛言かと思って開いてみる。ロンドンはベーカー街221番地Bをわざわざ東アジアの小国から訪ねて来たことへのお礼とともに、ハギスについての理解を今一度深めてもらいたいとして19世紀後半のイギリスからメールを送信した旨が冒頭に綴られている。日本語は皆目分からないため、相棒のワトスン医師に依頼して英語の原文を日本語に訳したとのことだ。インターネットを通じてホームズの世界に入ったものの、IPアドレスという痕跡を残していったみたいだ。そのアドレスを基にプロバイダーに何らかの交渉をしたか、あるいはワトスン医師がホワイトハッカーとなって、わたしのメールアドレスを探知したらしい。ホームズ、畏るべしである。
ホームズはメールの中でハギスについて詳述している。話の流れを分かりやすくするためにわたしとの問答形式に置き換えてみた。
ホームズ:最初に言っておくけれども、ハギスはスコットランド生まれではないよ。
わたし:えっ? スコットランドじゃないの?
ホームズ:イタリア生まれだよ。
わたし:イタリア? イタリア料理でハギスみたいなのはあったかな。
ホームズ:古代ローマの美食家、アピキウスのお気入り料理だったんだ。
わたし:アピキウス? 初めて聞く名前ですね。どんな人物でしょうか?
ホームズ:その質問は本題から外れるから自分で調べるべし。本題に入ろう。美食の起源は西欧ではイタリアなんだよ。それがフランスに伝わって偉大なるフランス料理となり、その一部がイギリスにも伝わった。もっとも、大部分はフランス止まりだ。イタリア料理やフランス料理というジャンルはあっても、イギリス料理と言えるものは無いに等しい。フィッシュ・アンド・チップスを晩餐会では出せないだろう。
わたし:なるほど。
ホームズ:イタリアではハギスは豚の胃袋を使ってつくっていた臓物料理だったんだ。豚の臓物と脳味噌、生卵、ドロドロに潰したパイナップルを詰めて香辛料を加え、さらにリクウェイメンというもので香りをつけるんだ。
わたし:材料が並んだ光景だけでゲテモノ料理っぽいですね。リクウェイメンって何ですか?
ホームズ:説明したくない。説明すると吐き気を催してくるから。
わたし:そう言われると、ますます聞きたくなりますよ。教えて。
ホームズ:ワトスンに説明してもらおう。頼むよ、相棒!
ワトスン:ほいきた、がってん! リクウェイメンとはねえ、大小さまざまな魚の腸、エラ、血液にすこしばかりの塩を入れてかき混ぜ、蓋のない大桶に入れてイタリアの太陽の下で腐敗を十分進ませる。そこにローマ産のワインと香辛料を加えたものだよ。元来はギリシャでつくり出されたものだ。
わたし:魚料理に長けたイタリア人ならではだ。腐った魚の臓腑にワインを注ぐんですね。塩と香辛料で味付けねえ。グッジョブな隠し味だ!
ワトスン:シャーロック、この日本人、びびってないぜ。
わたし:日本にも似たようなものがある。多分、魚醤みたいなもんですね。ワインは使わないけども。
ホームズ:日本人は魚を食べる民族だったな。リクウェイメンと似たような調味料があったのか。イタリアと日本と地域は相当離れていても、魚という食材を徹底的に活かすということでは同じような発想をしたわけだ。日本人ってのは、思っている以上に舌が肥えているみたいだな、ワトスン。
ワトスン:模倣が上手い民族だと思っていたが、独創性もありそうだ。
わたし:イタリアでは豚を使ったハギスが、イギリスではなぜ羊に?
ホームズ:ハギスが渡来した当時、イギリス人は豚肉が好きではなかったということさ。ハギスはイタリアからフランスに伝わり、フランスのノルマンジーを経由してイギリスに伝わったんだ。ノルマンジーではフランチェモイルと呼ばれていた。
わたし:渡来料理の食材を手近な羊に置き換えたわけなんですね。
ホームズ:そうとも言える。ハギスの付き合わせにジャガイモをみんな使うけど、わたしは薄切りの黒パンにバターを塗ってほしいね。個人的な思いを言えば、めったに食べることのない、イタリア生まれのスコットランド名物だね。
わたし:いやー、ホームズさんのお陰でハギスのうんちくをたっぷり仕込んだなあ。
ホームズ:これで日本でハギスうんちくの第1人者になれるな。たぶん、君以外にこんなにハギスに深入りする人はいないからね。
わたし:文字通り1人しかいないんですね。誇らしくもあり、寂しくもある第1人者かあ。ハギスのうんちく、日本で役立ちますかね?
ホームズ:役立たんだろう。うんちくとは孤高なもんだよ。
ホームズはメールの中でハギスについて詳述している。話の流れを分かりやすくするためにわたしとの問答形式に置き換えてみた。
ホームズ:最初に言っておくけれども、ハギスはスコットランド生まれではないよ。
わたし:えっ? スコットランドじゃないの?
ホームズ:イタリア生まれだよ。
わたし:イタリア? イタリア料理でハギスみたいなのはあったかな。
ホームズ:古代ローマの美食家、アピキウスのお気入り料理だったんだ。
わたし:アピキウス? 初めて聞く名前ですね。どんな人物でしょうか?
ホームズ:その質問は本題から外れるから自分で調べるべし。本題に入ろう。美食の起源は西欧ではイタリアなんだよ。それがフランスに伝わって偉大なるフランス料理となり、その一部がイギリスにも伝わった。もっとも、大部分はフランス止まりだ。イタリア料理やフランス料理というジャンルはあっても、イギリス料理と言えるものは無いに等しい。フィッシュ・アンド・チップスを晩餐会では出せないだろう。
わたし:なるほど。
ホームズ:イタリアではハギスは豚の胃袋を使ってつくっていた臓物料理だったんだ。豚の臓物と脳味噌、生卵、ドロドロに潰したパイナップルを詰めて香辛料を加え、さらにリクウェイメンというもので香りをつけるんだ。
わたし:材料が並んだ光景だけでゲテモノ料理っぽいですね。リクウェイメンって何ですか?
ホームズ:説明したくない。説明すると吐き気を催してくるから。
わたし:そう言われると、ますます聞きたくなりますよ。教えて。
ホームズ:ワトスンに説明してもらおう。頼むよ、相棒!
ワトスン:ほいきた、がってん! リクウェイメンとはねえ、大小さまざまな魚の腸、エラ、血液にすこしばかりの塩を入れてかき混ぜ、蓋のない大桶に入れてイタリアの太陽の下で腐敗を十分進ませる。そこにローマ産のワインと香辛料を加えたものだよ。元来はギリシャでつくり出されたものだ。
わたし:魚料理に長けたイタリア人ならではだ。腐った魚の臓腑にワインを注ぐんですね。塩と香辛料で味付けねえ。グッジョブな隠し味だ!
ワトスン:シャーロック、この日本人、びびってないぜ。
わたし:日本にも似たようなものがある。多分、魚醤みたいなもんですね。ワインは使わないけども。
ホームズ:日本人は魚を食べる民族だったな。リクウェイメンと似たような調味料があったのか。イタリアと日本と地域は相当離れていても、魚という食材を徹底的に活かすということでは同じような発想をしたわけだ。日本人ってのは、思っている以上に舌が肥えているみたいだな、ワトスン。
ワトスン:模倣が上手い民族だと思っていたが、独創性もありそうだ。
わたし:イタリアでは豚を使ったハギスが、イギリスではなぜ羊に?
ホームズ:ハギスが渡来した当時、イギリス人は豚肉が好きではなかったということさ。ハギスはイタリアからフランスに伝わり、フランスのノルマンジーを経由してイギリスに伝わったんだ。ノルマンジーではフランチェモイルと呼ばれていた。
わたし:渡来料理の食材を手近な羊に置き換えたわけなんですね。
ホームズ:そうとも言える。ハギスの付き合わせにジャガイモをみんな使うけど、わたしは薄切りの黒パンにバターを塗ってほしいね。個人的な思いを言えば、めったに食べることのない、イタリア生まれのスコットランド名物だね。
わたし:いやー、ホームズさんのお陰でハギスのうんちくをたっぷり仕込んだなあ。
ホームズ:これで日本でハギスうんちくの第1人者になれるな。たぶん、君以外にこんなにハギスに深入りする人はいないからね。
わたし:文字通り1人しかいないんですね。誇らしくもあり、寂しくもある第1人者かあ。ハギスのうんちく、日本で役立ちますかね?
ホームズ:役立たんだろう。うんちくとは孤高なもんだよ。
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