上善如水

ホークの観察日記

『誰も知らない』

2007-04-02 21:41:28 | 映画

是枝裕和監督の映画、『誰も知らない』のDVDを観ました。

主演は柳楽優弥くん。2004年の第57回カンヌ映画祭では、この映画で彼は最優秀男優賞を受賞しています。

とってもキレイな男の子です☆

物語は1988年に実際にあった「巣鴨子供置き去り事件」をモチーフにしたフィクションで、親の育児放棄により置き去りにされた子供たちが破綻に向かってすすんで行く…とっても胸がしめつけられるストーリー。

父親のそれぞれ違う4人の子供を抱える母親役をYOU(ゆー)、そして母親に代わり妹や弟の世話をする長男役を柳楽優弥くんが好演しています。

出生届けも出されないまま、学校にも通っていない子ども達。母親は父親は海外出張で家を空けており、息子との二人暮らしだとアパートの住人には言っていますが、実際はその他に長女、次男、次女の三人が隠れるように暮しています。次男と次女は、引越しの際スーツケースに入れて運び込めるくらいまだ小さい。

実際の事件でも、下の二人(実際は一男三女でした)はまだ3歳と2歳でした。

台本なんてないんじゃないかと思えるほど子ども達と母親とのやり取りがとっても自然で、特に年下の子供たちの演技がイイ♪

最初は仲良く暮らす母子の生活が描かれ、母親は今付き合っている男性と結婚できれば、籍にも入れてもらえて、学校にも通えるようになると長男に話ます。

帰りの遅い母親に代わり、長男は買い物に行き、長女は洗濯。声をひそめながらも、じゃれて遊ぶ幼い次男と次女。母親は長男に頼りきり、それでもなんとか5人の生活は成り立っていました。

でもどんなにしっかりしてるとはいえ、長男は本当ならまだ小学校6年生。

そして、やがて母親は新しい男のもとへと…

「わたしは幸せになっちゃいけないの!」

長男に「だいたいお母さん、勝手なんだよ!」と責められて言う母親のセリフが印象的です。

決して子ども達を愛していないわけじゃない(と思う)、でも、自分でも自分のだらしなさを止められない。お金だけはなんとか送ってくるものの、それもやがて…

帰って来ない母親。子供だけの生活。健気に妹たちの世話をするお兄ちゃん。お金を節約し、お母さんに会いたがる妹をなだめる姿にジワジワくるものがあります。ホント、演技がとっても自然なんです!

でもそのうち、外に出る機会の多い長男は自然と友達ができ、自転車、コンビニ、ゲームセンター、そして万引き…やがてその悪友たちがアパートにたむろするようになり…

長男の遊びたい気持、すごくわかる! この年代って妹や弟なんかより、友達と遊んでいたいものだもの。でも幼い妹たちにはお兄ちゃんがすべて。小学校6年生にここまで背負わせるのは酷だとはわかっているけれど、大人達がいないこの状況じゃどうしたって…

もういつ破綻がくるのか、ハラハラしながら見ていました。

実際の事件では、この悪友たちが引き金になり、ささいなことで三女が暴行を受け、死亡するという痛ましいことになりました(当時2歳)。不良の溜まり場になっているというので、事実が発覚し、ニュースでそのことを知った母親が出てきて、子供が一人足りないことに気付いたといいます。

もちろん映画は、あくまでフィクションなので、実際の事件とはかなり違います。

しかし、やがてお金がなくなり、電気も水道も止められ、困窮してくる兄妹。ゴミのたまった部屋。公園での水くみ。一人追い詰められていく長男。警察や相談所に行くと、兄妹がバラバラになってしまう…

そしてとうとう、とうとう悲劇が………

子ども達だけでこんな問題に直面させるのは辛い。だけど、実際にも育児放棄としか思えない事件が多く起きているのが現実なんですよね。周りにたくさん大人が登場するのに、誰もこの子たちを助けられないのが口惜しいです。

「いい映画」とはとても言えませんが、観ておいてよかったと思える映画でした。