上善如水

ホークの観察日記

葉室麟 『秋月記』

2012-02-29 22:29:53 | 日記・エッセイ・コラム

秋月記 (角川文庫) 秋月記 (角川文庫)
価格:¥ 700(税込)
発売日:2011-12-22

 

 図書館で借りた本を読まなくちゃいけないのに、生来の移り気が頭をもたげて、またまた他の本を先に読んでしまいました。

 

『蜩ノ記』で第146回直木賞を受賞された葉室麟さんの作品。

 

『秋月記』 (角川文庫)

 

です。

 

 九州の小藩「秋月藩」を舞台にした時代小説。

 

 秋月藩は豊臣秀吉の家臣として有名な黒田長政の子孫が治める藩ですが、本家である福岡藩というのが別にあって、支藩と呼ばれるいわば分家のあつかい。

 

 その福岡藩が何かにつけてちょっかいを出してきて、主人公である秋月藩の家臣たちは、本家から秋月藩を守り抜こうとそれぞれのやり方で侍(さむらい)としての生き様を読者に見せてくれます。

 

 力なき者が、いかにして力ある者に立ち向かうのか…

 

 理不尽な要求。力にまかせた妨害。金と流言が飛び交う中、命を落とす者も現れ、ついに秋月藩は本家の支配下に置かれてしまいます。

 

 前半から中盤までのあらすじはざっとこんなものですが、確かに直木賞を受賞した『蜩ノ記』に比べ、強引なところがないわけではありません(十七人対一人の対決とか、いきなり大風が吹くとか♪)、ラストも静かな中にドラマチックなものがあった『蜩ノ記』に比べると、スッキリしない感じ。

 

 でもでも、選考委員はちょっと突き抜けた感じの仙人みたいな『蜩ノ記』が好みかも知れませんが、私は個人的に泥くさいこの『秋月記』もとっても面白かった!!

 

 ちょっと生意気なことを書くと、忍者みたいなのが出てきたり、戦いのシーンがけっこう細かく描写されていて、葉室麟さんの筆が「時代小説の売り」に突っ走っているのはよくわかるのですが、葉室麟さんの「売り」は薄幸の女性「いと」や彼女を助ける久助、主人公を慕う男装の女性漢詩人、猷(みち)といった、人々の”想い”を表現した描写なんですよね。

 

『蜩ノ記』ではそこがちゃんとメインになっていました☆

 

 でも、作者のそんな気負いも嫌いじゃない!

 

 今回、運命に翻弄されながらも健気に生きた「いと」には一番泣かされました。

 

 ちょっと強引な「十七人対一人」の対決シーンだって、男の友情に熱いものがこみあげてきて思わずジーンときましたし♪

 

 悪人をあまり描写しないのは葉室麟さんの作風なのかな?

 老かいな古狸、家老の宮崎織部とか、柔術の達人とか、魅力的なキャラクターもたくさん出てきます。

 

 己を捨てて他者のために生きる…

「正しいことだけをすればいいというのは怠け心だ」

というセリフが印象的。

 

 これはあくまで小説の話ですが、自分が悪役になってまで守るべきものを守るために、静かに身を引くことのできる大人がどれだけいることか…

 

 残念ながら、小説の設定を現代にもってくると、とたんにウソくさくなってしまうのでは、と思ってしまいました。

 自分が損をしたくない。自分が傷つきたくない。自分の身を第一に考えるのが当たり前でしょ、と何の臆面もなく口に出してしまう。そんな薄っぺらな考えが「常識」になりつつあるような…

 テレビで言い訳しかしない政治家や役人、企業のお偉いさんたちをみているとそう思ってしまうんです。

 

 ちょっと飛躍しすぎですね(苦笑)

 

 誰も見ていなくとも、誰一人評価してくれなくとも、自分だけがわかっていればいい。

 本人が望むと望まざるとに関わらず、美しく咲いた花の匂いは風に運ばれそれとわかるもの。

 そんな言葉がピッタリの本でした。

 

 フゥ。

 

 いい読書ができました☆

 


石田衣良『スイングアウト・ブラザース』

2012-02-29 02:30:52 | 本と雑誌

 確定申告も無事に済ませたので、ちょっと病院に行っていつも飲んでいる薬を出してもらいました(たいした病気じゃありません☆)

 昨年の年末に受けた検査の結果がちょっと悪くて、お医者さんから摂生するようにいわれていたのですが、私が毎日の食事内容とそのカロリーを記録する「レコーディングダイエット」で少し痩せたので、医者の先生と看護婦さんがホメるホメる。

 

 婦長さんに「痩せてカッコよくなったんじゃない?」と笑顔でいわれましたが、私はその時マスクをしていて顔の半分が隠れた状態だったので、なんだか素直に喜べませんでした(苦笑)

 

 きっとホメて伸ばす方針の病院なんでしょうね~

 

 帰りに本屋さんでちょっと休憩。

 読んだのは、石田衣良さんの、

 

 『スイングアウト・ブラザース』 (光文社)

 

 親友として付き合うには「いい奴」なんだけれど、女性に対してはなかなか積極的になれない、いい歳の男3人が、モテ男になるために次々と出される課題に挑戦していきます。

 

「スイング・アウト」というのは野球でいう空振り三振のことなので、女性に振られる(モテない)男たち、という意味かな?
 課題のひとつとして手当たりしだいナンパするというのは面白かった♪

 

 顔や経済力はすぐには改善できないけれど、教養は身につけることができるといって、本屋さんで自由に3冊の本を買ってくる、なんて課題もあります。

 

 少子化や晩婚化、30代前半の男性や女性の約半数が交際相手がいないという現代の実情を踏まえながら、一歩踏み出したら案外誰でもモテ男(女)になれるよ、と石田衣良さんは言っているようです。
 ま、小説というよりも、肩の力を抜いて読める自己啓発本といったところかな?

 

 男性に求めるコミニュケーショ能力として、「女性の話を聞く能力」というのは納得でした。

 

 さあ、次回も摂生につとめて、せいぜい婦長さんにからかわれてこようかなぁ~

 

スイングアウト・ブラザース スイングアウト・ブラザース
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2012-01-17


OCNカフェ終了によせて

2012-02-27 00:56:55 | ブログ

 8年前、パソコンを初めて買って始めたインターネット。

 その時から続けていた「OCNカフェ」が今月をもってサービス終了。

 「私的図書館」と名付けて本の紹介をして来ましたが、先程最後の更新をしました。

 過去の日記はすべてgooブログの方に移行させてありますが、コメントは消えてしまいます。

 さすがに寂しい…

 様々なひとたちとの出会いをとりもってくれた場所でした。

 最後の日記をこちらにもアップしたいと思います。

 記念として。

 

―「OCNカフェ」より―

 

 閉館のお知らせ~長年のご利用ありがとうございました~

 

 始まりがあれば終わりがあるもの。

 サービス終了にともない、この「私的図書館」も閉館する時がやって来ました。

 わたしがOCNカフェで日記を始めたのが2003年の4月から。
 自分でも飽きっぽい性格だと思っていたのに、カフェ友とのコメントのやりとりや、お互いの日記を読むことが楽しくて、8年と10ヶ月、続けてくることができました。

 ネット初心者のわたしに付き合っていただき、本当に感謝しています。
 ありがとうございました☆

 好きな本、読んだ本を思いつくままに紹介してきたので、ずいぶん読みにくい文章だったと思います。
 グチや弱音も多かった(苦笑)

 たくさんの人にご訪問いただき、また多くのコメントをいただきました。
 どれもわたしの宝物です。

 別れはいつも苦手なので、あまりくどくどと書かずにこのくらいで最後のカフェ日記を終了したいと思います。

 最後に、わたしのお気に入りの詩を☆





  我々の親しいものたちは

  あちこちにやしろを築いた、

  そこで我々の知っている神々に祈り、

  そしてささやかな美しい家に住む






    ―イギリスの詩人 ルーパート・ブルーク―






 私にとって自分と同じ感性を持つ人々は、例えネットの中の世界だったとしても、親しい友です。
 そしてその人々が書き残した作品は、彼らのやしろであり、そうした作品に出会うたびに、私は喜びを感じます。
 そうした人々の作品が、私にとっての美しい家であり、再び訪れたいささやかな場所であり、わたしの歩む路の光です。




 長年のご利用ありがとうございました。
 皆さまの歩む未来に、いつも誰かの照らす光があることをお祈り申し上げます。

                  ―ホーク―
      
                          2012.02.27. 

 追記

 カフェ最後の日記で引用したルーパート・ブルークの詩は、赤毛のアン、『アンの夢の家』 (村岡花子訳・新潮文庫)でモンゴメリが冒頭に掲げている詩です。 

   


『東京日記3 ナマズの幸運』

2012-02-22 22:01:02 | 日記・エッセイ・コラム

東京日記3 ナマズの幸運。 東京日記3 ナマズの幸運。
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2011-01-26
 先日本屋さんで注文した本を受け取って来ました。

 川上弘美 著

 『東京日記3 ナマズの幸運』(平凡社)

 芥川賞作家、川上弘美さんの書く、ウソとホントのまざったおとぼけ日記。赤いパンツをはいて気力をみなぎらせたり、奈良ホテルの池で捕獲され、秋篠宮家に献上された四匹のナマズの幸運を祈ったり、友だちと絹の腹巻の話で盛り上った後、「そういえばこのところあたしたち、恋愛の話とか、ぜんぜんしないね」と言われて放心してしまったりします(笑)

 もう一冊、久木綾子さんの『見残しの塔』も注文していたのですが、こちらは品薄で在庫を確保できなかったとのこと。しかたがないので、十数年ぶりに地元の図書館に行って借りて来ました。

 久しぶりに行きましたが、いい体験になりました。

 今はipadなんかも貸し出しているんですね。

 前から読みたかった、三山喬さんの『ホームレス歌人のいた冬』(東海教育研究所)もついでに借りて来ました♪

 一時期、朝日新聞の短歌コーナーに採用されて話題になった、ホームレス歌人、公田耕一(おそらくペンネーム)を取り上げたルポタージュ。

 公田耕一の痕跡を探して、作者が横浜、寿町界隈のドヤ街の人々にインタヴューして回ります。このドヤ街の人々の話がすごく胸に迫りました。

 田舎の小さな図書館なので、蔵書は少ないのですが、こじんまりとした中にも本と触れ合う様々な工夫がこらしてありました。今度はゆっくり見てこようと思います。

 とりあえず、返却期限までに読んでしまわないと。

ホームレス歌人のいた冬 ホームレス歌人のいた冬
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2011-03


レファレンス、調べもの、探しもの、お手伝いします

2012-02-19 21:14:18 | 日記・エッセイ・コラム

 先日本屋さんで探してもらって見つけられなかったマンガ、埜納タオさんの『夜明けの図書館』(双葉社)がどうしても読みたかったので、隣町の本屋を3軒回りましたがそこでも見つかりませんでした。

 しかたがないので、最初の本屋さんに戻って改めて取り寄せてもらおうと注文窓口へ。

 対応してくれたのはこの間の若い女の子じゃなくて、ちょっと頼りなさそうな男性。先日在庫はあるはずなのに見つからなかった事情を説明し、注文したいと告げると、パパッとパソコンを操作して、「一応探してきます」と、小さな声で言って売り場の方へ探しに行きました。

 5分くらいは待たされたでしょうか。

 頼りなさそうだし、二度手間だなぁ、と思っていると、なんとその男性はちゃんと一冊のマンガを持って戻って来るじゃありませんか!

 埜納タオさんの『夜明けの図書館』(双葉社)

夜明けの図書館 (ジュールコミックス) 夜明けの図書館 (ジュールコミックス)
価格:¥ 650(税込)
発売日:2011-10-17

 「そう、これです。あぁよかった♪」

 この間は三人で探しても見つけられなったのに、やる~

 私が20代後半の独身女性だったらホレていたかも!

 お互いむさくるしい男同士というのが残念(苦笑)

 その場で購入して、ようやく手に入れることができました!!

 その日は他に、川上弘美さんの『東京日記3 ナマズの幸運』(平凡社)と、89歳で小説家デビューした久木綾子さんの『見残しの塔』(文春文庫)を注文。

 急いで帰って『夜明けの図書館』を読みました。

 図書館で働く新人司書が、様々な利用者からのレファレンス(「調べもの、探しもの、お手伝いします」)の要望に、悪戦苦闘しながら答えようと奮闘する物語。

 あこがれの職業に就けて、はりきりすぎてカラ回りしたり、同僚とのエピソードがあったり、それぞれのレファレンスにそれぞれの物語があったりして、絵柄はいわゆる少女マンガしていますが、楽しく読むことができました♪

 欲をいうと、探している本が実在の著名な本だったりしたらもっと面白かったかな?

 図書館ってあまり利用しないので、レファレンスがこんなに大変だとは思いませんでした。自分の好きなジャンルならまだしも、郷土史とか社交ダンスのマニュアルとか、いろんな要望に答えるなんて、自分だったらとっても無理。

 だからマンガを探してくれた本屋のお兄さんには感謝しています。頼りなさそうなんて、見た目で判断してゴメンナサイ(苦笑)