北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

欧州地中海難民危機への我が国が執り得る協力策(2):可能な支援策と不可能な支援

2015-09-21 21:44:41 | 国際・政治
■日本への過剰期待への懸念
安全保障法制が整備され海外で大きく伝えられたことでわが国へ過度な期待が寄せられる可能性がありますが、可能な事と不可能なことを成立したからこそ世界へ発信すべきでしょう。

しかし実際問題、現状は深刻です、EU域内では経済格差が大きく難民負担を受け入れる余裕のない諸国や、東欧諸国には保守的宗教地域が多く、回教徒が既に受入国で生じた摩擦へ対応できるかについての国内合意が未成となっている状況があるほか、難民としても社会保障の低い諸国よりも手厚い国を希望するため、需要ともみ合っていません。負担が大きすぎ、需要ともみ合っていない為、結論が出にくい問題ですが、一転無制限うけいれ政策を放棄したドイツへの不信感等は大きく、難民が通過するハンガリーやオーストリアにマケドニアでは大きな混乱も発生しています。

こうした中で、難民との単語を使えば人道上受け入れ義務が生じるという事で戦災難民を戦災移民と言い換える等、一種神学論争的な議論まで生じてしまい、欧州連合の団結に危機が生じつつあるところ。こうした中で、難民の遭難事案が多発し、その犠牲者は計測不能な規模となっています。欧州には冷戦期と比較し非常に限られた哨戒機しか残っておらず、場合によっては我が国へ支援の要求が寄せられる可能性があるでしょう。

一方、NATOはシリア空爆の方向でフランスとイギリスが調整を進めています、シリア政府をロシア政府が支援の方針を示していて、一部にはロシア軍軍事顧問のシリア展開が進められているようですので、あくまでシリアの独裁政権であるアサド政権を欧州は支援する選択肢はありませんので、可能な限りISILを識別し空爆、これによりシリア内戦を早い時期に抑える事で難民の発生の原因であるシリア内戦を早期終結させ、難民発生を抑止しようとしています。

当然ながら我が国が有志連合へ参加する選択肢はありません、イラク域内でもISILが活性化しイラク政府軍が幾つかの地域で押されている為大規模な地上軍を投入する他対処はないのですが、いくら欧州が我が国機甲部隊へ羨望の眼差しを向けても、空中機動部隊の空輸支援を切望しても絶対に参加すべきではありませんが、地中海へ補給艦を派遣し、形式的でも支援の姿勢を示す選択肢は考えられるかもしれない。

勿論、日本が難民受け入れを積極的に行う、という選択肢は無いでもありません、元々難民をほとんど受け入れていない国で毎年難民申請に対し認定は数十名のみですので、例えば二倍に増やしたとしても海外へ大きな影響を与える事は出来るかもしれません、しかし、迫害事実が立証できなければ難民として受け入れず、難民受け入れの土壌が無い点に加え、国際法上は災害避難民が難民定義に含まれるものですから、見方次第では当事者たちが申請する場合に難民定義を満たす国内問題もあります。

また日本が受入数を倍増させたとして、中東紛争地の難民はシリアだけでその2万倍おり、そもそも物理的に対応できないところです、それよりは難民発生抑止や難民発生周辺地域への難民支援策、既にシリア難民支援に2億ドルを投じ、これがISILによる邦人殺害事件の要因ともなったことは記憶に新しいところですが、受け身の立場では難民問題を解決できないところまで問題は深刻化しました。そういうのも、シリアだけで内戦ぼっ発以降人口の二割が国外脱出しており、イラクやアフガニスタンに北アフリカ地域からの難民で欧州渡航希望者を集計すれば、恐らく一千万ちかい規模になるでしょうから、物理的に受け入れられないのです。

他方、注意しなければならないのは、我が国の安全保障協力法成立が欧州へ大きな誤解を持たせる可能性がある事です、積極的に国際平和に参画しようとの我が国方針が、例えば師団規模の戦闘部隊を、我が国は陸上防衛力として9個師団6個旅団5個工兵旅団2個防空砲兵旅団1個砲兵旅団1個航空旅団1個緊急展開旅団を装備していますので、装備が専守防衛用に特化しているという部分を考えず、1個師団程度の部隊を派遣するよう人道上国際貢献などを掲げ求めてくるかもしれませんが、不可能ですしすべきではありません。しかし、後方支援部隊派遣や将来的にISILとシリア政府との間で停戦協定が結ばれた場合の人道支援任務における後方支援や、哨戒機派遣による海洋監視支援や補給艦支援などは求められる可能性があると、留意すべきでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (4)
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