沖縄県知事選挙について/海鳴りの島から

2010-11-30 00:55:51 | 沖縄
28日に投開票が行われた沖縄県知事選挙は、現職の仲井真弘多氏が新人の伊波洋一氏に38,626票の差をつけて再選を果たした。伊波氏を支持した者としては残念な結果になったが、まずはここまで奮闘されてきた伊波氏とその家族、スタッフの皆さんの労をねぎらいたい。
 伊波氏の政治家としての力量は多くの人が認めている。同日選挙として行われた宜野湾市長選挙では、伊波氏の後継者であり、普天間基地の「県内移設」に明確に反対する前副市長の安里猛氏が勝利した。これは宜野湾市民の安里氏への評価であると同時に、伊波氏の2期7年半の市政運営に対する評価でもあるだろう。今回、県政をつかさどることはできなかったが、伊波氏にはこれからも沖縄の政治状況をより良く変えるために力をふるってほしい。

 今回の県知事選挙は投票率が60.88%と過去2番目の低さに終わった。昨年1月に米国でオバマ大統領が誕生し、日本では8月の衆議院選挙で民主党が圧勝して自公政権が倒れた。「チェンジ」「政権交代」という言葉に多くの人が惹きつけられ、新しい政治をつくり出そう、という思いを抱かせた。しかし、鳩山・菅政権の公約破りや政権運営のまずさ、つたなさ、だらしなさによって、熱気もすっかり冷めてしまった。
 結局、日本の政治は変わらない、誰がやっても一緒、というシラケた雰囲気が日本全体を覆っている。沖縄も例外ではない。今回の県知事選挙で、仲井真陣営はそのような有権者の意識を巧く利用した。私は北部の状況しか見ていないのでその限りでの判断だが、選挙前になって普天間基地の「県外移設」を打ち出すことによって争点ぼかしを行い、同時に、現職の知名度を生かしてポスターやチラシ配布を控え、無党派層、浮動票をできるだけ動かさずに基礎票、組織票で勝ち抜く戦術を採っているように見えた。
 4年前の県知事選挙で仲井真氏が取った票が347,303票、対立候補の糸数慶子氏が取った票が309,985票、その差は37,318票だった。そして、仲井真氏は自民党、公明党が推薦し、糸数氏は社民党、社大党、共産党、民主党、自由連合、国民新党、新党日本が推薦、そうぞうが支持していた。
 今回の選挙では、前回糸数氏を推薦していた民主党が自主投票となった。国民新党やそうぞうも第三極の候補者の擁立を目ざして失敗、伊波氏を推薦、支持したのは告示後だった。民主党の票が割れ、国民新党、そうぞうの集票も前回を下回ること、自民党支持が復調していることなどを考えれば、基礎票、組織票で伊波陣営は前回以上に不利な状況にあり、逆転するためには無党派層の浮動票を大量に獲得する必要があった。当然、投票率も前回を大きく上回らなければならなかった。
 逆に仲井真陣営からすれば、無党派層の浮動票が動かないようにし、投票率が前回並みかそれ以下になれば、基礎票、特に公明党=創価学会の組織票がものをいって勝ち抜くことができる。こういうことは選挙運動を中心に担っている人たちにはとっくに分かっていたことだろうし、伊波陣営も無党派層、浮動票の掘り起こしに力を入れ、若者向けにインターネットを活用したり座談会、討論会なども活発に行ってはいた。
 しかし、投票率は60.88%と前回を上回るどころか、3.66ポイント低下してしまった。仲井真陣営からすればまさに狙い通りの選挙であっただろう。これから伊波陣営では敗因の分析や議論が行われるだろうが、政党や労組、市民団体の幹部だけでなく、選挙運動に関わった多くの市民が参加できる場を設けて、無党派層を動かせずに投票率の低下を招いたことを含め、敗因の分析、検証、議論をていねいに行ってほしい。

 今回の県知事選挙で仲井真氏は、普天間基地の「県内移設」容認の姿勢を変え、「県外移設」を打ち出した。そのように転換しなければ仲井真氏が勝てなかったことは明白である。それだけ沖縄県民の「県内移設」反対の民意は強固だということだ。その民意を作り出したのは、辺野古や名護をはじめ県内各地で粘り強くとりくまれてきた「県内移設」=たらい回し反対の運動である。
 選挙前になってにわかに仕立てた仲井真氏の「県外移設」という主張を言葉通りに信じることはできない。自公政権下で主張していた辺野古V型滑走路の「微修正」要求という主張を、仲井真氏は自ら誤りだったと否定したわけではない。選挙に勝ち抜くための政治判断としてホンネとタテマエを使い分けているのではないか。仲井真氏の言動からそういう見方が成り立つからこそ、政府も話し合いの余地があると見ている。
 しかし、仲井真氏が仮に公約をタテマエとして投げ捨てようとしても、沖縄県民がそれを許さない。これから菅政権は仲井真氏と話し合いを持ち、日米共同声明に基づいて辺野古崎への「移設」受け入れを求めてくるだろう。だが、仲井真氏がそれを受け入れようとすれば、県民が黙ってはいない。鳩山首相を退陣に追い込んだ県民の怒りが、今度は仲井真氏に向けられる。同じ裏切りに対する怒りでも、知事に対するそれはいっそう激しくなるだろう。菅首相をはじめ菅政権の閣僚、官僚たちは、自分たちが向かい合っているのが、仲井真氏だけでなく、沖縄県民であるということを自覚しなければならない。
 仲井真氏にとっても、これからの2期目の4年間は1期目の4年間とまったく違った状況に置かれる。普天間基地の「県外移設」を公約として打ち出した以上、その実現のために全力を尽くさなければならない。1期目は途中で政権が変わったので、政府の出方を見る、という待ちの姿勢が許されたかもしれない。しかし、2期目ではそれは許されない。「県外移設」という公約を積極的に実現する努力をしなければ、やはりタテマエにすぎないのか、と県民に見られるだろう。
 
 昨日は夜から辺野古に行って、新基地問題を考える辺野古有志の会の皆さんと一緒にラジオやテレビの開票速報を視聴した。伊波氏を当選させることができず、新基地問題に終止符を打てなかったことに皆、悔しさをかみしめていた。しかし、辺野古に新たな基地を造らせない、という思いは揺るがない。日本政府及び日本人はその思いに目を向け、65年間も沖縄に基地を集中的に押しつけていることに、恥を知らなければならない。
http://blog.goo.ne.jp/awamori777/e/03ba127a33693bdf23843a04e4d0ade5

海鳴りの島から沖縄・ヤンバルより…目取真俊

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