中野区保育士解雇事件東京地裁判決に対する労働組合の声明

2006-06-18 11:36:30 | 労働運動
中野区の保育園民営化にともなう非常勤保育士解雇事件での東京地裁判決に対する東京公務公共一般労働組合と中野区保育争議支援共闘会議の声明を転送します。

中野区保育士解雇事件東京地裁判決に対する声明
                                             
         2006年6月14日 
                              中野区保育争議支援共闘会議
                              東京公務公共一般労働組合
1. はじめに
 中野区立保育園に勤務していた非常勤保育士28名が、2004年3月末をもって解雇され、うち4名が解
雇無効による地位確認、及び賃金と慰謝料の支払いを求めていた事件について、平成18年6月8日、東
京地方裁判所民事第19部は、原告らの訴えを一部認め、被告中野区に対して、雇用継続の期待権を侵
害したことは法の保護に値するとして、原告ら各人に各40万円の慰謝料を支払う旨の判決を下した。
 一方、解雇無効・地位確認の請求については、「公法上の任用行為であり、期間一年として任用さ
れた以上、再任用を請求する権利はない」と、あくまで任用行為の形式論に拘泥した内容にとどまっ
た。
 しかし判決理由において、原告らの雇用の実態を詳細に認定したうえ、中野区が特別職非常勤保育
士に常勤保育士と同じ職務を担わせたことに疑義を抱いて雇止めしたことについて「原告らに再任用
の期待を抱かせながら、一転して、非常勤保育士を廃止して再任用しなかったものであり、このよう
な事態を招いた原因は専ら被告にある」と断罪し、本件解雇が無法なやり方で行われたことを厳しく
批判したことの意味は重い。
 判決は、期待権の侵害を法的に認めるとともに、この解雇が実質的にも不当であることを明らかに
したといえる。これまで中野区当局が「非常勤保育士の解雇には何らの責任も無い」との頑迷な姿勢
をとってきたことに対して、明確に断罪が下ったものである。
 従って中野区は、直ちに原告の職場復帰と本件争議の全面解決のために努力することを、重ねて
我々は要求するものである。
 そして、原告側は地域確認を求めて直ちに控訴することを決めており、支援共闘会議と当該労組
は、引き続き闘いを力強く進めていく決意である。
 また、今回の判決は一部勝利判決に留まったものの、先の国立情報学研究所の非常勤解雇を権利の
濫用として認めず、原告の地位を認めた東京地裁判決に続き、今回判決も非正規公務員労働者に大き
な激励を与えるものになったと確信する。我々は今後も新たな裁判闘争において引き続き奮闘してい
く決意である。

2. 非常勤の存在意義、継続的雇用の必要性など、原告側主張を大きく認めた内容
(1) 判決理由では、非常勤職の存在意義と雇用継続の必要性について、次のように明確に認めた
内容となっている。
 「非常勤の保育士と言っても、その職務の必要性は一時的なものではなく、将来的にも職務が不要
になるとは考えられないこと。保育士という職務は、専門性を有する上、乳幼児に対する保育に従事
するものであって、職務の性質上、短期間の勤務ではなく、継続性が求められること、この状態での
再任用が11回から9回にも及んでいることを考慮すれば、原告らの期待は法的保護に値するという
のが相当である」
 このように、専門性と継続性が求められる保育士として、正規職員と同様に永年働らいてきたこと
を重視したのである。この点は、非常勤保育士の職を突如廃止して全員解雇した中野区の不当性を強
く批判した部分であり、いま全国で闘われている保育園廃止・民営化反対闘争の局面にも重要な影響
を及ぼす内容である。。

(2) また判決理由では、中野区は採用の際にも「定年はない」と言ってきたことや、本人の意思
確認もしないで、ほとんど自動的に毎年の更新手続きを行っていたこと、などの実態を詳細に取り上
げ、中野区が「このような事態を招いた原因はもっぱら被告にあると強く批判し、まさしく中野区の
行った解雇の違法性を明瞭に断罪したものとなっている。

(3) このように解雇をめぐる判決理由には、原告側の主張が大きくとりいれられた一方で、被告
中野区側には厳しい批判を下していることからも、判決は単に損害賠償を認めただけにとどまらず、
解雇の不当性にも実質的に踏み込んだ内容となっていることは明らかであり、今後の運動においても
重要な到達点として活かされなければならない点である。

3. 容認できない不当な判断について
(1) このように、使用者側には解雇の違法性が明らかに存在したことを実質的に認めながら、そ
れにもかかわらず判決は、「期間一年として任用された以上、再任用を請求する権利はなく、解雇権
濫用法理の適用はない」として、またしても「任用行為」という、これまでと同じ形式論を持ち出し
て、強引に蓋をしたのである。
 しかも、「保育士としての地位は、公法上の任用行為によって決定され、それ以外の事情によっ
て、その地位が決定されたり、変更されたりすることはない」などと述べて、全く現実離れした誤っ
た考え方までが紛れ込んだものになっている。相も変わらない「公法と私法の二元論」に縛られ、現
実の不法行為に真眼が向けられないという、これまでの司法の限界が本判決でも改めて露呈されたも
のとなっている。

(2) 重大で看過できない点は、「私法上の雇用契約の場合と比較して、公法上の任用関係の場合
は労働者が不利となることはやむを得ないというべきである」とまで決めつけていることである。こ
れは驚くべき狭窄した形式論であり、また危険な考えと言わねばならない。
 もし、公法による「絶対的」制約に一切が規定されるとするならば、有期雇用の自治体労働者に
は、賃金や労働条件の改善を求める交渉権、協定権、争議権が一切存在し得ないことにさえなる。し
かし実際には、公務jパートは労使協議でいくらでもそれらを決定してきたし、六ヶ月後、一年後の
再雇用(任用)さえも、当局と交渉を行ない、要綱や就業規則を越えた雇用(任用)条件が決定され
てきたのである。行政当局でさえ否定していない有期雇用労働者の団結権や協定権を、裁判所が誤認
して、これらを否定するというのは、断じて容認できないものである。

(3)不当労働行為の事実について
 今回の裁判は、組合つぶしを狙った不法な集団解雇であったことからも、行政の雇い止め裁判とし
ては例が少ない、不当労働行為性をめぐっても争われた雇い止め事件である。
 判決では不当労働行為の本質部分においては判断を避けたが、一部看過できない処が見られる。そ
れは「(私法上の)解雇であれば不当労働行為に該当して解雇無効とされるような事情があったとし
ても・・・・解雇に関する法理が類推される余地はない」と、これまた公務員法下の労働者であると
して、事実関係を全く見ようとしないで判断をしている。
 そもそも当該特別職非常勤は、労組法と労基法の全面適用下におかれた労働者であり、法律上も明
確に不当労働行為や不当な解雇から保護される立場である。そのことを敢えて考慮しようとはしな
い、これも極めて狭窄した形式論であり、到底認められない処である。

4. 裁判闘争と運動の強化に全力をあげて闘う
(1) 中野区保育争議原告団は、直ちに東京高裁へ控訴する決意を表明し、新たな法廷闘争へと歩
を進めた。我々支援共闘会議と公共一般労組は、裁判闘争の全面勝利と共に、中野区当局へ一日も早
い解決を迫る運動をいっそう強化することを決意したところである。

(2) 職場の闘いにおいては、あれほど数多くの不当解雇撤回を勝ち取ってきた公務パートである
が、法廷闘争の場に移れば、一転して敗訴結果の余地しか残されていない時代が永く続いた。しか
し、その大きな山が、いまや動こうとしている。
 国立情報学研究所の非常勤(国公法・一般職)訴訟では、再任用拒否(雇い止め)を権利濫用とし
て認めず、労働契約上の地位を確認する画期的判決を東京地裁が下した。たとえ任用関係にあるとい
えども「特別の事情が認められる場合」には「解雇権の濫用が類推適用される」ことを明確にしたこ
とは極めて重要である。 これに先だって、郵便局の臨時職員の任用行為に、解雇権濫用の類推適用
の余地があるとした岡山中央郵便局事件。また、結果的には敗訴したが、最近の長崎市の臨時職員の
任用行為について、特別の事情が存在したかどうかによって解雇権濫用の存否が検討されるものであ
ることを示した。
 いかなる任用行為も「官の無謬性」としてみなされてきた論理も、しだいにその揺らぎを見せ始め
てきたことを、こうした新しい変化が示しているといえる。
 任用行為にはいかなる違法性も排斥されるかのように断じられて、かつては絶対的にも見えた司法
の壁を、いずれ突き崩せるという確信が、いまや公務パートの裁判闘争において急速に広がりつつあ
る。
 これから我々は全国の非正規公務労働者の闘いと、強く広く連帯しながら、不当解雇を法廷闘争に
おいても全面的に打ち破っていく情勢を切り開くために奮闘していく決意であることを再度表明し、
引き続いてのご支援を心から訴えるものです。



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