
シッド・ハレーが顔に障害を負うザナ・マーティンに正体を知られてしまい、とりつくしまもなく拒絶される。わずかに(正直な)言い訳をするが、それ以上はせずにその場を去る。もっと強く激しく、あなたに対して取った行動は誠実なものだったと言えたはずだし、泣くことだってできたと思う。泣いてもけっして恥でもなんでもなく、誠実さを表現する方法だと思う。
だがシッド・ハレーはしない、できない。「私はその場を去った。」と、たったこれだけの文章に、シッド・ハレーのプライド、誠実さ、虚飾の拒否、諦観などがすべて表現されていると思うし、このことにかぎらずあらゆることが一貫した世界として描かれていると思うのだ。