前回の少しおさらい。
砥石の表面にある無数の穴から飛び出した粒子が刃先と衝突して切っ先が
丸くなり、いわゆるだれた状態になる。10μぐらいの削りの場合
このだれは問題にならないが、3μ以下のきれいな鉋屑を目指すと
このだれが致命的な問題になる。
力を抜く程砥ぎ面は美しくなるが、切っ先は鋭さを失っていく。
-町屋発ほんまもん 第3回新春初削り配布資料より一部抜粋-
そこで編み出されたのが、裏金を本刃にクランプして一緒に砥ぐ捨て金砥ぎ:
刃と同じ硬度に作ってもらったという特製裏金を本刃よりも0.3㎜飛び出させて
砥いでやると刃返り等のダメな要因が全て裏金で押さえられ、良い刃が
つくという方法。
実際実演された事を順を追って紹介すると、
1 裏金の刃先を0.3㎜程つぶす:番手不明の砥石に刃を立てた状態で4~5往復
2 裏金の裏押し:エビ印の焼結ダイヤモンド砥石♯8000使用
(山本氏曰く色々使った中でこの砥石がベストとの事)
3 本刃の裏押し:同じくエビの焼結ダイヤモンド砥石♯8000
4 本刃の裏押し:天然仕上げ砥石の上に♯10000の白色パウダー(アルミナか?)プラス
すべりを良くする為にグリセリンを2分の一希釈したものをかけた状態で研磨
5 自作のクランプで本刃と裏金を合わせる:締め付ける位置はしのぎ面の
すぐ上くらいなので締め付けクランプの下端が砥面に干渉しないように
刃と同じ角度=28度に削り落とされている。
締め付け強さは砥いでいてずれない程度。おそらく締め付け過ぎると
刃が変形するので、そうならない程度と思われる。
6 裏金側の砥ぎ:キングハイパー♯1000使用(斜め砥ぎ横砥ぎ)
7 本刃側の中砥ぎ:キング♯800か♯1000(不明)使用 (縦砥ぎ押し方向のみ)
※砥面が画像のようにかなり中高に仕上げてある。本人曰く、
両端との高さの差が2㎜。(実際はもっとあるように思われる)
この工程の意味が今ひとつわからなかったのだが、グラインダーでの中すき砥ぎ
の様に刃先に砥石が当たり易くする為の、準備工程なのか?
8 本刃の中仕上げ砥ぎ:キングG-1プラス♯10000パウダー、グリセリン液
(斜め砥ぎ、横砥ぎ)
9 本刃の仕上げ砥ぎ:4で使用したままの状態の天然砥石プラス♯10000パウダー、
グリセリン液(斜め砥ぎ、横砥ぎ)
以上で砥ぎの工程は終わり、時間にして5分間程。
この砥ぎで削った様子:削り屑は見ての通り薄くてもかすれていない状態
屑先を持ってもらわなくても丸まらずに排出されている
補足説明として:
○砥面の修正はキングの♯800~♯1000(不明)とキングハイパー♯1000使用。
○手押しか、自動鉋の刃を定規代わりに砥面の平面確認をされていたが、砥面が
真平らになっている必要はあまり無いと言っておられた。
○実際、砥石の長さに対して刃の巾は4分の1程度なので砥面が狂っていたとしても
4分の1しか狂わないとの事。
○キング砥石の使用が多いのは、ただ単に昔から慣れ親しんでいるだけであって
砥石の番手は関係ない。あくまでもパウダーを転がす為の定盤であり、
その為もあって、砥面が狂う前に素早く研ぎ終わらなければならない。
○ストローク時の力加減は強め。決して力を抜かない事。
同じ物を友人に頂いたのですが
製作者や鋼など詳しい事がわからないので
もしわかるようでしたら教えて頂けませんか?
説明5の上に映っている物でしたら、三木の千代鶴貞秀作「菊刀」です。
鋼はおそらく青紙でしょうが何号とかまでは、不明です。
削ろう会会報53号に入手した際のエピソードや長年使いこなせなかったが、ようやく切らせる様になって山本さんにとっての4番バッター的存在である等が綴られています。機会がありましたら、そちらをご覧下さい。
千代鶴貞秀さんは息子さんが2代目、2代目の弟子直秀さんが3代目を継承されています。
「菊刀」は記事に載った事で有名になり復刻されている可能性も考えられます。山本さんの物は40年前に初代に直接作って貰ったそうです。
いずれにしてもかなり高価な部類の鉋なので、大事になさって下さい。