芭屋框組(はなや かまちぐみ)

残しておきたい情報や、知っておきたい事

松本研修会2015 その2

2015-07-19 09:12:59 | 道具、砥ぎの話


水品さん講義つづき 田中昭吾さんの鉋について;

とある大工さんに誘われて杉の柱を削った際、仕上げる事が出来なかったのがきっかけで、田中さんに相談し始めたそうである。

そうして出来たのが「韋駄天(=白紙ハイカーボン)」炭素量を焼き入れ可能な1・42%にギリギリ近づけた1・4%に。

さらに刃物に害を及ぼす、リンや硫黄を日立金属が白紙に定めている0・02%を大きく下回る0・008%へ。

研ぎやすさ、切れ味、仕上がりの木肌艶どれも申し分ない物だったそうである。



●その他スウエーデン アッサブ鋼の「梁山泊」

●青紙スーパーの「梅鶯(ばいおう)」これは硬くて研ぎにくいと返品が多かったそうだが、焼き戻しを工夫して研ぎ易くしたら、人気商品に生まれ変わったとの事だ。

●「穴明き鉋」仕事場へ行った際に見かけた物をイベントの展示品で出品した所、思いのほか評判になり定番商品へ。

田中さん自身について:昭和5年生まれで「昭吾」 父五郎次の後を継いで昭和35年より独立、金属顕微鏡を取り入れた熱心な研究姿勢と大工手間2~3人工の手頃な価格で良く切れると、亡くなった現在も根強いファンがいる事は周知の事実。

今回初めて聞いた事として、金属組織セメンタイトについて一般的には、より細かくそして真球状が良いとされているが、田中さんの場合セメンタイトを大きく(1個10μ)さらには形もジャガイモの如くごつごつさせていたと言う事。

水品さんいわく、刃先からは5μ飛び出ている状態で仕込み勾配でさらに小さくなっているのではないかと。





図に書いてみたが、理屈がよくわかりまへん!こんな時は昔テレビでやっていたアレ。「なる物は成る!」切れれば良いんです。









講義後、実際に田中さんの鉋を体験させて貰えるコーナーが設けられた。

削り易い木では、面白くないので杉の白太しかも板目材が用意され、何人かの方が実物を体験された。

残念ながら私は削る事ができなかったが、仕上がった材を目の当たりにした。その他10枚ほど色々な銘の鉋を手に取って見せて頂いて、作りの違いを比べたり貴重な経験をさせて貰う。



三ツ星千代鶴とその頭の仕上げ





玉菊





五郎次



別の五郎次








当たり前だが、仕上げ方が違っても同じ人が作っているので全体の厚みとか、テーパーの付き方どれも似ているのが印象的だった。

さて、午後からの削り会で改めて思ったのだが、私の様に残念な削りをされている人は誰も居らず、周りのレベルが上がっているのを思い知らされる。

上手い人程、自分のテーブルを離れずにひたすら削っている「攻め」の姿勢を崩されない。私自身最近なにかと「守り」の姿勢が多いので気を引き締めさせられる。

自戒の念をこめて、充分な時間があっても良い物が出来る訳では無い。面倒を避けていては、「攻め」の姿勢はとれない。


松本研修会2015

2015-07-18 19:33:06 | 道具、砥ぎの話


今年も恒例の松本研修会。

新潟の道具屋さん助春商店 水品和春氏を講師に迎えお題は、「道具あれこれ与太話」

普段の饒舌ぶりとは裏腹に序盤30分ほどは、大丈夫かいな?と思った人が結構いたのではと心配してしまった。

少し再現してみると・・・

「和文通話表って知ってますか? 無線で通話する時に聞き取りにくい言葉を明確にする為に例えば「あ」だったら「朝日のあ」とか「い」だったら「伊藤のい」みたいな感じのやつ。」



「そこで水品の「み」は、「三笠のみ」になります。三笠と言ってもどら焼きじゃあなくて、戦艦です。」

「戦艦といえば、最大級の戦艦に大和がありました。全長263m 65000t 先程の三笠が全長130m 15000tなので、いかに大和が重かったかわかりますね。」云々

その後、砲台の大きさや装甲板の厚みの説明。この頃になるといつになったら道具の話になるのかムードが漂う。

そんな心配をよそに次の様な思わぬ展開が繰り広げられる。

「この戦艦を作っていたのが、イギリスの造船所ロックウエルとビッカーズです。何か聞いた事ありませんか?そう金属硬度計を作っている会社です。」

●江戸時代に和鋼=玉鋼を取り扱っていた「井坂屋(後の河合鋼鉄)」が明治になって、ちょんまげを散切り頭にする為のバリカンが、大量に必要になった事に対応する為に安価で良質で粘りがある洋鋼を輸入し始める。

●日本向けの輸出鋼に名前を付ける際にイギリス アンドリュー社が考えたのが、当時「アドミラル トーゴー(=聖将 東郷)」としてヨーロッパに名を馳せていた東郷平八郎にちなみ「東郷鋼」と名付けられた。to goの英語の意味もさい先が良いと考えられた。

●東郷鋼は当時00号、0号、1~6号の8種類があり炭素量と鋼自体の寸法で分類されていた。

●東郷0号は炭素量1・8%で明治期は1・42%が鋼付出来る限界だったので、鋼が付かなかった。

●東郷0号、犬首鋼はハイス鋼に近い。犬首鋼は日立SKS21炭素量1・2%に成分が近く耐熱性、耐摩耗性がある。

●ハイス鋼は、長切れするが仕上がりに艶が出ない。東郷鋼は鍛冶屋が上手く鍛えれば、素晴らしい刃物になる。

●河合鋼鉄に残っていた東郷犬首鋼を買い占めてきて作らせたのが、中野武則さんの鉋で現在も販売している。

話が後先になったが、東郷平八郎の乗った船が「三笠」だそうで、それから始めの話に繋がっていたと言う事。前フリ長くねぇ!?