芭屋框組(はなや かまちぐみ)

残しておきたい情報や、知っておきたい事

竹中大工道具館

2010-02-28 11:53:55 | 道具、砥ぎの話
話は前後するが、昨年の11月に神戸の竹中大工道具館に行ってきたので紹介したい。


収蔵品の砥ぎと調整、修理などを大阪の工藤さんと京都の山田さんがやられたと
ある方から教えていただき、道具そのものはもちろん、研いだものを是非とも
見てみたかったので行ってきた。

入口を入ってすぐに千代鶴是秀の鑿や鉋が展示されていたが、最後にじっくり見たかった
ので、順路に沿って3階の木挽き道具から見学する。

通常の使用では絶対にありえない、最高の砥ぎが斧の一つ一つに施されている。




西岡棟梁の本に載っていた、飛鳥時代の銀杏型鑿等、予想外に見所満載で時間が
あっという間に過ぎてしまう。

階を降り進めると、ようやく大工道具らしい物が多数展示されている。


仕口の見本などは展示用の為か、番付が書いてある上端にまで鉋がかかっていて、
ちょっと笑ってしまった。

いろいろな材種の丸太見本にも事前に教えてもらっていた通り全ての面が
仕上げられており、工藤さんの技術の高さが伺われる。


いよいよ1階の千代鶴の展示コーナーへ到着。千代鶴是秀写真集で見たことのある
江戸熊の鑿や神雲夢、寿永銘の小鉋などが展示されている。


どれも思ったよりこじんまりしていて、鑿の柄はとても細く華奢な感じた。
これが江戸風の粋さなのか?普段見ている道具とは違う風格を感じる。



展示の演出効果か、まるで宝飾品の展示ケースの様だ。

鑿はこうやって研ぐのかという非のうちどころのない、砥ぎが施されていて
何本かは、刃先が欠けてしまっていたが、貴重品を砥ぎ減らさない為かそのまま
になっている。

残念なことに鉋類の殆どは、台にすげられた状態で上からしか見れないか、
刃がはずしてあっても、刃裏の方しか見れないようになっていた。

鑿であれほどの砥ぎがなされていたのだから、見えないといってもおそらく
全ての鉋にすばらしい砥ぎがされていると思う。

参考写真:山田英次氏所蔵 千代鶴是秀作、藤四郎銘鉋(京都で実際削らせてもらった)



たっぷり千代鶴作品を見た後、地下のビデオライブラリーで長谷川幸三郎、
宮本雅夫、錦清水等の製作現場や木挽きの林以一、はつりの雨宮国広、
等の実演映像が見れた。

帰り際に受付で写真集を買って帰ろうと思ったが、無かったので代わりに
水彩画で収蔵品が解説されている本を買って帰り、
一緒に行った子供たちにはパズルのお土産を頂いた。






工藤氏の言葉

2010-02-28 09:45:37 | 心に残った話、出来事
工藤氏が言われた言葉がなかなか印象的だったので、少し紹介したい。


「薄く削って、どうだ! みたいなことは、やっても意味がない」

「今日ここでこれからやることを後で皆さんにも、やってもらいます。
見ているだけでは、何も覚わらんし、明日からの仕事に役立つ事を覚えて帰って下さい」

「いろんな事を言う人がおるが、基本っていうのは一つしかないんですよ」

「40万円の砥石が20万円の砥石の2倍いいかっていうと、そうじゃない
値段に惑わされずに、安い物でもいい物を見分けられる目を持って欲しい」

「ある程度硬さがあって、砥面が変形しづらく、鋼を良くおろし、目の細かい砥石は
なかなか無い」

「この砥石は、硬くて使い物にならんから捨ててあった物です。でもちゃんと
使いこなしてやれば、ちゃんと使えるし、自分にとってはなくてはならない物です」



「思うような結果が出ないと、すぐ道具のせいにしたがりますが、道具は悪くない
使っているあなたのせいなのです」

「刃先が今どうなっているか、台の状態はどうか等自分自身できちっと管理できていれば
どこをどうするかの工夫ができる」

「平らな物で砥面を直して、刃を平らに研いでもおそらく平らには削れない。基準は
あくまでも刃口なので刃口から平らに刃が出るように研ぐ」

「この節だらけの5寸柱の削りに全てがつまっている。これがきちっと仕上げられる
ようになって初めて、道具の管理、調整、砥ぎができたといえる。
これができたら、他のどんな物でも仕上げられる」

「若い人が削ろう会の砥ぎを仕事場でもやるが、長い時間かけて研いだものがすぐに
切れなくなって親方に怒こられる事になる」

「仕事というのは、ただ丁寧に時間をかけれぱいいのではなく、てきぱき
こなさなければならない。よくいつまでやってるんだと怒られることがあるが、
このいつまでっていうのがポイントなんです」

「道具は両手で持って下さい。指輪をはめている人ははずすか、指輪をしていない手で
触って下さい」

「汗をかいた手で、台の下端を触らないで下さい。水分で膨張して台が狂いますから」

「道具は美術品じゃないので、俺は全部これ(玄翁)で叩く。それ(木槌)はプレゼント
してくれた人が今日来ているので、持ってきただけ」



「砥ぎあげただけだと、刃先がギザギザになっているので、最後に角度を立ててやると
平らになって刃もちもよくなる。ちょっとでええねん。やり過ぎたらあかんな」

「切れやんできたら、叩いて刃を出してやる。また切れやんできたら、もうちょっと
刃をだしてやる」

「削ろう会みたいに研ぐ度に裏をいじっていたら、どんどんゆるくなる。裏切れしてきて
初めて刃を叩きなさい」

等々中には疑問を感じる部分もあると思うが、実際に目の前で実演されている事なので
信じるしかない。他にも印象的な言葉があったが、又別の機会に紹介したい。