武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

063. ステファンの仏蘭西料理店 -La Vache au Plafond-

2018-11-24 | 独言(ひとりごと)

 実は、昨年10月からこの2月まで、セトゥーバル市が主催する「外国人のためのポルトガル語教室」に参加していた。月曜と木曜の週2回、2時間ずつ。
 予習をかなりやってもついてゆくのがやっと、レベルの高い授業内容、復習までは手が回らずだが、密度濃いこの5ヶ月間を過していた。そしてこの程無事、マリア・ルイス先生とセトゥーバル市長の直筆サイン入り修了証書を手にした。

 当初の募集人員は15名で、僕たちはぎりぎり滑り込みで入学許可。僕が15番、MUZは16番の補欠入学。
 でも最初の1日だけ来て辞めた人が2人。(教科書だけを貰いに来たのかもしれない。)5~6回来て、仕事が忙しくなったのか、来なくなった人が2人。
 最後まで残ったのはフランス人とウクライナ人が2人ずつ、モルドバ人、ハンガリー人、ケニヤ人、ロシア人、タイ人それぞれ1人ずつ、そして僕たち日本人の2人。その11人が一緒にめでたく終了証書まで漕ぎつけた。

 その内の一人がステファン。僕とステファンはクラスで2人だけの男性生徒だった。

 ステファンはパリ生れのフランス人。
 若い頃から随分といろんな国で修行をしたという。
 アメリカでも仕事の経験があるので、フランス訛りもなく英語も達者。

 奥さんの郷里ポルトガルに自分の店を開いてようやく1年。なかなか経営的には厳しいものがある様だがこれからなのだろう。

 「一度食べに行くよ」と言うと、「今度ファド・ライブをやるから、その時にでもどぉ?」と言うのでそうすることにした。
 地図を描いてくれたが、場所はよく知っている、いつもコピーをしに行くボンフィム商業センターの横手。
 入ったことはなかったが、セトゥーバルで一番古い中華レストラン「バンブー」のあったところだ。そのバンブーが店じまいをしたので、その後を借り受けたらしい。


01.店内のインテリア。

 僕にはその店の壁を使って「個展をしないか。」と言う話なのだが…、まあ、するしないは別にしてたまにはフランス料理を食べに行くのも悪くはない。
 ファドも久しぶりだ。リスボンまで出かけてファドとなると大変だが、セトゥーバルなら帰りが楽だ。

 ただ困ったことに店の名前が「La Vache au Plafond」。
 「La Vache」はフランス語で牝牛、と言うことは牛肉専門店なのだろうか。僕たちはこのところ牛肉は食べないことにしている。

 ステファンは牛肉以外に「豚も羊も鴨も鶏も魚も野菜も何でもあるよ。」「勿論、バカリャウ(鱈)も」と強調した。
 以前に授業で各人が好きな食材を使って「料理のレシピ」を作ると言う時に、僕はバカリャウ料理のレシピを作ったのだが、それを憶えていたのだろうか。

 ファド・ライブが始まるまでに食事を済ませておこうと思って早めに出かけた。既に一組の家族連れが大テーブルに陣取っていて、僕たちが2番乗りだ。
 ライブは9時半から始まる。その日は予約で満席とのことだった。
 キッチンからステファンが僕たちの席にやってきて「バカリャウで良いだろう」と言って慌しく引っ込んでしまった。
 メニューも持ってこないし…。
 バカリャウと言うとポルトガル料理の代表だが、フランス料理でもバカリャウは使う。
 以前にポンタヴァンでも鱈料理なら食べた。
 まあ、嫌いな食材ではないので、「良し」とした。
 前菜にフランス料理らしくクレープが運ばれてきた。
 マッシュルーム・ソースが包んであってなかなか旨い、が少し焦げすぎだ。
 ステファンはキッチンで一人おおわらわなのだろう。
 ワインはソムリエかワイン業者の宣伝販売員かは知らないが、テーブルに来て、ポルトガル・アレンテージョの赤と白を試飲で一杯ずつ。僕にはそれだけでもう充分。

 同級生、タイ人のスプラニーさんがご主人とやってきたので、僕たちのテーブルに隣のテーブルをくっつけて同席をした。
 ご主人はポルトガル人であるが、スプラニーさんとの日常会話は英語とのこと。
 ステファンの奥さんもポルトガル人だがやはり日常会話はフランス語。
 ハンガリー人のベアトリスのご主人もポルトガル人だが普段は英語で喋っているらしい。
 でも僕たち日本人同士などと違って、ポルトガル人が連れ合いならポルトガル語の上達の速さは目に見えている。
 教室ではポルトガル語しか喋らないが、外では皆、僕たちに対しても思いっきり英語を喋る。

 そしてやがて運ばれてきた主皿は茹でたバカリャウ。
 それに茹でたジャガイモ、人参、ブロッコリなどが無造作に散らばらせて大皿に乗っている。
 バカリャウはちょっと塩を抜きすぎかなと思ったが、それ程悪くはない。只、温かさがない。少し冷め過ぎているのが惜しい。デザートにはジャム付きアイスクリーム。

 だが他の席を見てみると、全員が同じメニューなのだ。
 有無も言わせず同じクレープが、同じバカリャウが、同じアイスクリームがテーブルに運ばれていく。
 スプラニーさんは「きょうは昼も同じバカリャウを食べたところなのよ」と嘆いていた。

 前菜とデザートはともかく主菜は肉か魚かの2種類位からチョイスできたら良かったのに…。

 一人でいっときに大勢の調理は大変だから、きょうステファンはバカリャウ1本に纏めたのだ。まあ、ステファンらしいやりかただ。

02.ファド当夜の店内。

 一方、ファドはと言うと女性ファディスタとギタリストの男性が交代で唄った。セトゥーバルの出身だがいつもはリスボンの店で唄っているプロ歌手とのことだ。
 お客もファド・ファンばかりと見えて皆一緒に歌っている。
 僕たちは、翌朝早くからリスボンに行かなければならない用事があったので、ファド・ライブは2ステージほど観て早々に退散。
 あとで聞いた話では夜遅くになってから随分と盛り上がったらしい。僕たちは最近、夜がめっぽう苦手になっている。

 ファド・ライブの入場料が20ユーロで食事は別と思っていたら、なんと食事込みの値段。客の全員がバカリャウの一律とは言え安すぎる。これでは儲けがあるのだろうか?

 そんなファド・ライブからしばらく経ったある日、昼食に出かけた。
 今度はメニューをじっくりと見た。
 やはり牛肉料理がメインだが、一応、豚も羊も鴨も鶏も魚も野菜もある。しかし、何故かバカリャウは見あたらなかった。バカリャウはあの晩だけの特別料理だったのだろうか。安心して鴨と豚料理を頼んだ。

 メニューには前菜ではクレープがずらりと並んでいたので、その中から3種のフランスチーズ入りクレープ。
 クレープも良かったし、鴨も豚もなかなかのものだった。付け合せのジャガイモもラタトーユもまあまあ。
 デザートは砂糖煮の洋ナシの中にアイスクリーム、温めたチョコレートをかけ、炒ったアーモンドスライスを振りかけたもの。名前は忘れた。
 料理のコメントほど難しいものはないので、写真をどうぞ。

03.パンとそれに塗るパテ。

04.前菜のクレープ。

 

05.鴨料理。

 

06.豚肉料理。



07.ジャガイモとソース。

 

08.デザートのアイスクリーム。

 食事の後、ステファンはテーブルに来て夢を語った。
 「時々はライブをやろうと思っている。来月はベアトリス(ハープ)と夫、ジョージ(フルート)のデュオ」(ベアトリスもクラスメート。ハンガリー人で夫のジョージと同じリスボンのシンフォニー楽団員だ)「それにジャズも。勿論、ファドもね。」
 ステファンの両親の住むフランス・リモージュでは一定の期間、街じゅうのレストランが協力して展覧会をするのだそうだ。
 「そんなことも出来たらいいな」とも語っていた。

 料理の値段も安く、夜のライブでも、昼のランチにも、日本から戻ってきたら1ヶ月に1~2度は行っても良いかなと思うステファンの仏蘭西料理店である。

La Vache au Plafond Rua de Mormugão,22 2900-504 Setubal Tel.265-553-384
月曜~土曜営業 [10:00-23:00] 日曜定休 (2018年現在は閉店)

VIT

 

(この文は2008年3月号『ポルトガルの画帖』の中の『端布れキャンバスVITの独り言』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルの画帖』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

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