武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

058. ロータリー(環状交差路) -Rotunda-

2018-11-19 | 独言(ひとりごと)

 国道10号線からセトゥーバルの街に入る分岐点に数年前、新しくバイパスとロータリーができた。
 そのバイパスとロータリーができたお陰で、我が家からも複雑に入り組んだ市内を通らずに、街の内外に行くことができるようになり、ずいぶん便利になった。
 例えば、大型スーパー<JUMBO>に行く場合、6箇所もの信号を通らなくても済む様になったのだ。

 バイパスは緩やかなカーヴの片側2車線で、ジャカランダの並木道となり、中央分離帯には色とりどりの夾竹桃が植えられている。そしてそれに沿って高い金網が設けられ人の横断を禁じている。人が飛び出してくる心配もないし、信号もないのでまるでカーレース場の様にクルマを飛ばす。でも時々は、ジャカランダの陰になったカーヴのところでパトカーが張っているので要注意だ。

 ロータリーの緑地には3本ばかりのオリーヴの老木とラベンダーがきれいに植栽されている。

 ポルトガルの田舎の町や村の出入り口には必ずといっていいほどロータリーがある。必然的にそこからはスピードを緩める。

 ロータリーは合理的で慣れればすこぶる便利だ。
 知らない街に到着しても、ロータリーを回りながら自分の行き先の標識を見つける。見逃したり、うっかり行き過ぎるともう一周すれば良い。間違えた道に入ってしまっても、次のロータリーまで行き、引き返して来ればよいだけ。無理やり狭い道でUターンする必要はないし、横道に入ってコの字型に戻ってこなくても良い。

 ロータリー内に居るクルマが優先だから、入ってしまえばゆっくり走る。
 ロータリーに入るときだけ一旦停止、左から来る他のクルマに気をつければ事故にもならない。

 クルマの数が多くなりすぎたリスボンなど都会には、ロータリーと信号機が複合している箇所があるが、それはそれで慣れると便利だ。

 パリの凱旋門・エトワールも実はロータリーの代表みたいなものなのだが、夕方ラッシュ時の凄まじさには驚いたことがある。ロータリー内優先、などとは言っておられない。とにかく割り込んで割り込んで、厚かましく行かないとエトワールを抜けられない。

 日本の町並みはどちらかというと碁盤の目状で、ヨーロッパの様に放射状にはなっていないから、元々あまりロータリーは少なかったのかも知れない。でも日本にもかつては各地にロータリーがあった。

 僕の生まれ育った街の近く、美章園街道の突き当たり、杭全(くまた)のロータリーもそのひとつだ。
 6差路か7差路の複雑な交差点で、クルマが多くなり始めた高度成長期よりもずっと以前に、ロータリーは取り払われ、それ以上に複雑な信号機が取り付けられた。
 交差点になってからもしばらくはお年寄りの間などで「杭全のロータリー」と呼ばれていて、ロータリーが杭全の代名詞にもなって親しまれていた場所だ。
 僕たち子供は「おっちゃん、ロータリーはもうないで~」などと言っていたのを覚えている。

 最近ドイツでは、信号機を一切取り払ってしまった街がある。
 何でも信号機がないほうが事故が少なくなるというデータがあるらしい。ある学者がそう提唱して実験的に街の信号機を全て取り払った。

 ポルトガルではもちろんクルマが信号無視をすると莫大な罰金が科せられる。
 でも歩行者はあまり信号を守らない。
 歩行者信号が赤のときは青のクルマが優先には違いないが、クルマが来ないときは赤でも渡る。お巡りさんが前に居ても渡る。それどころかお巡りさんも信号無視して一緒に渡る。これを最初に見たときはあっけにとられたが、とにかくクルマが来なければ信号はないのも同然なのだ。

 逆に青だからといって信号だけを見て走る、などということもしない。確実にクルマが来ないことを確認しながらゆっくり渡る。センターラインでいったん立ち止まって、クルマをやり過ごしてから、残り半分を渡る。

 日本では、横断歩道でクルマが停車してくれていて、歩行者信号が青の場合でも、クルマに遠慮して素早く走って渡ろうとする。日本の小学生などがそうだ。渡ってしまってからクルマに向って帽子を取り、ぺこっと頭を下げる。これは見ていて感じが良い。
 「走らんでもゆっくり渡りや~」と声をかけたくなる。
 走るのは危ない。見ていて危なつかしいと思う。これがまた事故のもとなのだ。クルマの陰からクルマが来る。バイクが来る。自転車が来る。

 とにかく信号を絶対視しない方が賢明なのかも知れない。もちろんクルマではなく歩行者の場合だが。

 クルマは、前に青信号があれば黄色にならない内に早く渡ってしまおうとスピードを上げる。これが重大事故の元なのだ。
 ポルトガルではその信号機に監視カメラが取り付けられ、スピード違反や信号無視に容赦なく罰金を取るシステムが導入された。

 最近、日本では信号機の老朽化により、折れて倒壊する事故が相次いでいるという。当面の危険箇所を取り替えるのに何十億もの予算がかかるらしい。そして老朽危険箇所は年々加わる。いっそドイツの様になくしてしまうことは出来ないのだろうか?

 エボラは城壁に囲まれた世界遺産の街だ。
 城壁の周りを石畳の双方向の環状道路が取り囲んでいる。その環状道路に数え切れないくらいのロータリーが付いている。これが便利で、エボラを経由してどこに行くにも道を間違えたことはない。

 その昔、モロッコにクルマで入った。テトワンという街だったと思う。ロータリー内で少年たちが遊んでいた。その少年たちに道を尋ねた。手招きしてついて来いと言う。ロータリーを走ってクルマを先導しようというのだ。ほぼ一周回って、僕たちが入ってきた隣の道まできて「ここをまっすぐだ」と言うではないか。それなら初めから「その道だ」と指をさせば済むことなのだが…。

 苦笑いして1デラハム(当時約7円)のチップを弾まざるを得なかった。VIT

 

(この文は2007年10月号『ポルトガルの画帖』の中の『端布れキャンバスVITの独り言』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルの画帖』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

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