武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

121. 視線 Olhar raivoso

2014-11-30 | 独言(ひとりごと)

 スケッチのモティーフを求めて田舎の村々を歩き回る。クルマも少ないし、人通りも殆どない。僕にとってモティーフは至るところにある。それでも、モティーフがお城や教会なら何ら問題はないが、個人の住宅となると少しは躊躇する。

 立派な住宅は絵にならない。むしろ崩れかかった、廃墟寸前といった建物に絵心を掻き立てられる。そんなところには決まって老人などが住んでいたりする。大きな煙突から煙がたち昇り、煙と同時に煮込み料理の食欲をそそる良い匂いが漂ってきたりもする。そして中から話し声やテレビの音声が漏れてくる、といったところだ。

 

 

アルト・アレンテージョ地方、クラトでスケッチをしているところ。昼食後なので腹が出ているのが気になる。

 

 以前は八つ切りの大きなスケッチブックに描いていたが、最近はごく小さくサムホールサイズだ。そんなスケッチブックを広げて手早く、メモ程度に留めている。色も使わない。鉛筆だけだ。

 人通りが少ないと言っても、たまには人が通る。無関心の人も居れば、立ち止まって見ていく人もいる。殆どの人は何も言わないで立ち去ってくれるが、たまには何やかやと話しかけてくる人もいる。「ラランジャ(オレンジ)を持って行かんかね。」などと言ってくれる人もいる。今、畑で摘んできたばかりの帰りといった人だ。

 古い趣のある建物を描いていると案の定一言があったりする。いかにも不服そうだ。「何故この家を描いている。こっちのほうが良いじゃないか。」といったものだ。なるほどその人が示した建物はリメイクしたばかりで立派だ。リメイクする以前も立派だったに違いない。その村では昔からの有力者の家だったのだろう。アーチ型の大きな窓が付いていて天井も高い。住むには良いのかも知れないが僕の絵のモティーフにはならない。「これが終ったらそちらも描くつもりです。」などと言って交わすと、不服顔ながらも納得して行ってしまう。

 

 最近はスケッチ以外でもあちこちと歩き回る。野の花を求めて、キノコを求めての探索だ。

 田舎道の沿道を歩いたり、野原や森を探索する。そしてデジカメに収める。野の花とキノコのブログを作る楽しみでやっている。

 最初は軽い気持ちで始めたが、やればやるほど夢中になってしまっている。奥が深くて、嵌ると面白い。

 野の花などは既に320種類に達している。まだまだ見つかっていない花もあるだろうし、未だ同定できないで待機している花も数多くある。そしてありふれた花から希少な花に移ってきているからか、同定も難しいが、新たな花が見つかった時の喜びも大きい。

 なかには肉眼では見えない様な極小の花などもある。以前からのありふれた花に埋もれる様にして地味な花が地面近くに咲いていたりする。そういった花を野原や沿道を這うようにして観察する。誰もいない時はそれでも構わないが、時たまクルマが通ったりする。クルマからこちらを見ている視線を感じる。運転をしながら「あいつは何をしているのだ。」などと思われているに違いない。

 

 キノコ観察ならなお更だ。人の居ない森の奥深くなら気にはしないが、キノコというものはクルマが通るすぐ側の沿道に多く発生していたりする。キノコは狩猟の時期と重なるので、撃たれては痛い思いをするので、目立つように赤いウインドブレーカーを上に羽織るようにしている。

 そしてキノコはやはりナメクジの目線になって撮影したい。撮影するには、少しは環境の整備もする。邪魔な茨をハサミで切ったり、落ち葉をピンセットで除けたり、砂を刷毛で払い除けたりといったことだ。その為の七つ道具も持参している。日本製の蚊取り線香もぶら下げている。キノコを横から下から眺めて、這いつくばって作業していると、たまたまアウディか何かの高級車が走ったりする。

 赤いウインドブレーカーを着ているから人目を引く。そして冷ややかな視線を感じる。聞いてくれれば「キノコの写真を撮っています。」と胸を張って言えるものだが、そうはいかない。

 

 

キノコ(ミヤマイロガワリ)撮影の下準備、刷毛で砂を払い除け中

 

 「あの東洋人は赤い服を着て、腰にいっぱい何やらぶら下げて、顔を地面にこすり付け、鼻には汗をかいて、よだれまで垂らしている様だ。いったい何をしているのだろう。ポルトガルでも近頃は変質的な輩が出没する。物騒な世の中になったものだ。」などときっと思われているに違いない。いやはや。VIT

 

 

毒キノコながら「幸せのシンボル」(ベニテングタケ)の撮影中(写真撮影はいずれもMUZ) 

©2014  MUZVIT

 

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コメント
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