武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

171. 帰国断念 Abandonar o retorno 2020-03-01

2020-03-01 | 独言(ひとりごと)

 きょう3月1日、日曜日には既に宮崎の自宅に居る筈であった。

 当初の予定では2月29日(土)セトゥーバルの自宅で朝食を済ませた後、10時にタクシーを呼び、精一杯の荷物を持ちマンション階段を喘ぎながら下し、タクシーに積み込み、自宅前を出発、11時にリスボン空港に到着、搭乗手続きを済ませ、14:20発、フランクフルト経由、羽田経由で宮崎に3月1日、19:30着。宮崎空港からタクシーで10分。自宅に到着、風呂にも入り、ベッドに横になりながら久々の日本の、日本語のテレビでも観ていた頃なのかも知れない。

 それがそうではなくセトゥーバルに居る。

 

セトゥーバル郊外の山道に寂しく2人寄り添って咲く、これでも蘭、その名もゲンナリア蘭。『学名:Gennaria diphylla』(2020年2月27日撮影)

 帰国のための航空券をインターネットで買ったのは2019年9月20日であった。例年の事なのだが、2月~3月頃に帰国する航空券を早々と秋口に買う。展覧会の日程は決まっているから、自ずから帰国日程は決まる。早くに購入しても構わない訳で、早くに購入すると良い席が選べる。それは2人掛けの席を確保するためだ。2人掛けと3人掛けではかなりの違いを感じる。他人が横に座ると気を使うし、落ち着けない。2人だけだと気を遣うこともなく落ち着くことが出来る。2人掛けだとエコノミークラスで充分、ビジネスクラスは必要がない。と言うことで早々と予約し航空券を購入する。普通なら変更はしない。

 そしてそれに沿って帰国旅程表を作成する。勿論、自分の展覧会を中心にして空いた時間などに日本国内の旅行なども考える。帰国中にしなければならない用事なども書き込む。

 断念に至ったのは言うまでもない『新型コロナウイルス』(COVID-19)である。

 航空券をキャンセルしたのは帰国予定の10日前。2月18日(火)のことであった。

 それまではさんざんと考えていた。

 同時に一方で帰国の準備も怠りなくやっていた。

 帰国に当たっては先ず、1年間に描いた30点程の油彩の荷造り準備が必要なのだ。キャンバスが木枠に張られている。それを外して巻く。帰国の1か月前に保護剤の『ヴェルニ』と言う液体を表面に塗る。1週間程度乾かしてから外していくわけだが一気にやるわけではなく少しずつである。先ずキャンバスの裏面の釘を外し、周りも間引きして半分ずつ外していく。その半分の状態の時に帰国断念の決定をした。

 毎日のニュースを見て考えていた。未だパンデミックには至らなくても収束の見込みもなさそうに感じていた。ピークは4月頃とのニュースもあった。4月なら丁度僕の個展の最中だ。

 MUZは数年前にヘルペスという厄介な病気に罹り、それ以来急激に体力が低下している様に思う。昨年は帰国中、宮崎で2度の酷い転倒をし、顔に傷を作り歯が2本折れた。飛行機に乗るのも年々辛くなってきている。機内食が喉を通らない。

 健康な人なら何でもなくても飛行機の密室の中、少しでもウイルスがあれば感染しやすい体質になっているのではないだろうか、などとも考えたのである。

 幸い今年の個展は油彩ではなく、淡彩スケッチの個展である。その他にはグループ展が2つ。油彩はグループ展用だ。

 淡彩スケッチの個展は画廊主催であって、2017年にも1度催らせて貰っている。僕が居なくても何とか出来るのではないか。いや、僕が居てもあまり役には立たない。と思い至ったのである。画廊の方には多大なご迷惑をお掛けすることになり、申し訳ない気持ちで一杯だ。

 そしてインターネットでキャンセルの手続きをしてみた。当初は全く戻ってこないと思っていた航空券代の約半額は戻って来るそうである。

 マサゴ画廊の方には快く応じて頂いた。

 マサゴ画廊には淡彩スケッチ40点余りを書留で郵送した。A4の画用紙なので嵩張らないし、荷造りは簡単だ。1週間で届いたそうで一安心である。額縁は前回もマサゴ画廊を通して作って頂いたから慣れておられると思う。

 ギャラリーキットハウスのグループ展『大阪芸術大学美術科4期生同窓会展』には油彩を出品する予定であったが、それにも淡彩スケッチの出品に切り替え、僕のスケッチ2点とMUZの絵2点の合計4点を兄に郵送した。それも届いたそうである。実家に置いてある額縁に入れて長居のギャラリーキットハウスに搬入してくれることになっている。

3月1日ギャラリーキットハウスから中止のメールが届いた。

 帰らなくなったと言ってもセトゥーバルの生活は緊張の連続である。日本人の僕たちはどうしても中国人に見られる。ポルトガル人にしてみれば東洋人は皆一緒で区別はつかない。それでなくても縫製工場などが中国にとって代わられ閉鎖倒産、ポルトガル人の失業者が相次いでいる。他方で中国にはポルトガルワインがおお売れ。中国からの観光客がポルトガルに押し寄せ、ポルトガルはかつてない観光ブーム。ポルトガル人にとっては複雑な心境なのではないだろうか。

 そして今回の中国、武漢から発した新型コロナウイルス。

 暫くは毎週恒例の露店市にも行かないことにし、スーパーに行くにも空いている日、空いている時間帯を狙って買い物をしているし、レストランなども遠慮する始末。

 ポルトガルでマスクをしている人など見たことがないのに、薬局ではマスクは売り切れ。スーパーの消毒用アルコールの棚も空っぽ。

 一方、野の花観察はあまり人と出会うこともなく、のんびりとくつろげるので、この際と思っておにぎりの弁当を作っては出掛けたりしています。

 展覧会『武本比登志ポルトガル淡彩スケッチ展』には40点を展示して頂けることになっています。僕は画廊に居ませんが、是非、僕のスケッチに会いに行って下さい。

 勿論、展覧会の他にも日本ではすることが、帰国中にしなければならないことが山ほどあったので、それを考えると頭が重く痛い3月1日です。武本比登志

<展覧会日程>

『第7回大阪芸術大学美術科4期生同窓会展』中止

3月13日(金)~3月25日(水)10:00-19:00(最終日は午後5時まで/木曜定休)

ギャラリーキットハウス 〒558-0004 大阪市住吉区長居東 3-13-7 電話 06-6693-0656

『武本比登志ポルトガル淡彩スケッチ展』

3月30日(月)~4月4日(土)11:00-19:00(最終日は午後5時まで)

マサゴ画廊 〒530-0047 大阪市北区西天満 2-2-4 電話 06-6361-2255

『NAC展』

4月6日(月)~4月11日(土)11:00-19:00(最終日は午後5時まで)

マサゴ画廊 〒530-0047 大阪市北区西天満 2-2-4 電話 06-6361-2255

 

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