武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

164. 食品の着色料 Corante alimentar

2019-08-01 | 独言(ひとりごと)

 露店市で子供がお姉さんに付き添われてアイスクリームを買っている。広~い露店市の丁度真ん中あたりの通路で移動式のアイスクリーム屋が商売をしていた。売っているのはジプシーの小父さんで、買っている子供もその広~い露店市の何処かで店を開いているジプシー露天商の子供だ。アイスクリーム屋の小父さんはヘラスプーンでコーンカップにアイスクリームを擦り付けている。これでもかと言わんばかりの大おまけの量だ。お姉さんの分までたっぷりの量である。その量にも驚いたが、その色に先ず驚いた。アイスクリームは何とエメラルドブルーなのだ。それもどぎついばかりの毒々しいエメラルドブルーだ。

 先日リスボンの中華食品店で酢漬けの生姜を買った。寿司を食べる時に一緒に食べる、いわゆる『ガリ』と言うものだ。ピンク色のものと色付けされていないものの2種類が売られていたが僕はピンク色のものを選んだ。1キロ入りの業務用で暫くは楽しめる。

 最近日本では回転寿司の『スシロー』などに行っても『ガリ』は無着色のものが置いてある。どうやら無着色の方が好まれる様だ。

 スーパーで『たくあん』を買おうと思っても真っ黄色のものより、着色されていない『たくあん』がよく売られている。

 梅干しなどでも毒々しい真っ赤なものより幾分薄い色が多く、日本では着色されていないものの方が最近は好まれる様だ。

 画廊のザンベジ女子は日本好みで「アリガトゴザマシタ~」などと変な日本語を使い、日本式のお辞儀をする。日本食も好きで、リスボンの中華食品店にも良く行くのだろう。中華食品店には日本食も多く売られていて、そこで真空パックの『たくあん』を買って来た。真っ黄色の『たくあん』1本を若い乙女が豪快に丸かじりして「美味しい、美味しい」と言っていて少々面食らったことがある。

 毎年帰国すると宮崎の家の近くの業務スーパーに行き、買い物をする。今年は紅ショウガを買った。1キロ入りで宮崎に居る間に食べてしまえるかと思ったがせっせと食べた。生姜は身体を温め、食欲をそそる。真っ赤過ぎる色が気になるが、本来は梅干しを漬けたあとの紫蘇を使って生姜を漬けるので、食紅などは使われていない筈なのだが、安定的な紅を出すために食紅が使われているのだろう。大阪では『たこやき』にも小さく刻んだ紅ショウガが入っているし、幅広の紅ショウガを天ぷらにして食べるが、僕はあれも好物だ。

 宮崎に住んでいた時は毎年、梅干しを漬けた。自分で植えた梅の苗木が大きくなりたくさんの実を付けた。花の時期にはメジロが集団でやってきて楽しませてくれた。梅干しに使う紫蘇も育てたこともあるが、害虫に食われてレース状の紫蘇になってしまった。それ以来、紫蘇はトラックで売りに来る移動式八百屋のハナちゃんから買っていた。

 紫蘇を漬け、良く揉んで梅の実に漬け込むとまるで毒々しい真っ赤な梅干しが出来上がる。勿論、食紅などは一切使わない。梅干しは最初の年は毒々しい真っ赤だが2年目からは黒っぽく色も味も馴染んでくる。

 ピンク色の『ガリ』は、新生姜を繊維に沿って縦に出来るだけ薄切りにし、60~70度の熱めのお湯をかけて、すぐに冷水にくぐらせると淡いピンク色に染まる。生姜には元来赤い色素があるからで、食紅などは使わなくても『ガリ』はピンク色に仕上がる。そして梅干しを漬けた時に出る梅酢に漬ける。

 宮崎ではカレー専門店をやっていた。独自の考えでバラエティーに富んだカレーを作っていた。その当時は業務スーパーという店はなくて、都城には飲食業専門の卸業者『成松』という店があって、そこで香辛料などを買っていた。

 『成松』ではカレーに欠かせないターメリックなども大袋で売られ山積みされていた。都城周辺地域にはそれ程のカレー専門店があるとも思えず、成松の店主に「なぜこれ程多くのターメリックが品揃えされているのか?」と聞いたことがある。成松の店主は「ターメリックは漬物業者が買っていくのですよ。あなたはこのターメリックを何に使うのですか?」と逆に聞かれた。漬物業者が『たくあん』を漬ける時に黄色の着色料としてターメリックを使っていると言うのだ。

 ターメリックは身体に良い。抗菌作用など様々な効能があると言われている香辛料だ。紫蘇にもポリフェノールなどが多く含まれこれにも抗菌作用があり栄養豊富な食材だ。毒々しい真っ黄色の『たくあん』も、毒々しい真っ赤な梅干しも毛嫌いする必要はなくどちらも身体に良い食品ということになる。

 スウェーデンに居た時にはコックをしていた。スウェーデン人のコックは1人も居なくて6人ほどいたコックは皆が外国人ばかりであった。シェフはギリシャ人のコンスタンティン。その他にオーストリア人、ポーランド人、ユーゴスラビア人、それにポルトガル人のルイスと日本人の僕。ソースを作るのはもっぱらシェフのコンスタンティンだが、コンスタンティンが他の仕事で忙しい時は他の誰でもが作る。

 ソースはマッシュルームソース、ブラウンソース、魚のソースそれにヴェルネスソースの4種類。それにマヨネーズ。肉料理用のブラウンソースにマデイラワインを垂らすと『マデイラソース』となる。ブラウンソースは肉料理用で魚のソースは魚料理専用だが、マッシュルームソースとヴェルネスソースは肉料理、魚料理の両方に使う。

 魚のソースが切れそうになったのでポルトガル人コックのルイスが作ることになった。魚の骨などを茹で煮汁を使う。それだけでは味が出ないので業務用魚のコンソメを使う。バターと小麦粉でとろみをつけ、白ワインでコクを出し、最後にほんの少し食紅を垂らす。そうすればサーモンピンクの美味しそうな魚のソースが出来上がる。筈である。

 ポルトガル人コックのルイスは何でも気前よくドバっと入れる。マデイラソースなどにも決められた量の2倍も3倍もの量のマデイラワインを注ぎ込む。魚のソースに入れる食紅はほんの少し、大量の鍋にでもほんの一筋ほどを垂らすのが決まりだ。それをルイスは気前よくどっぷりと入れる。かき混ぜれば毒々しいショッピングピンクのソースが出来上がった。

 出来上がりをチェックするシェフのコンスタンティンは「こんなの食べ物の色じゃないよ」と言いながらでもお客に出すことになっていた。ポルトガル人コックのルイスは豪快に「がはは」とわらうばかりであった。

 料理の名前は忘れたが、以下の様な料理だ。先ずお皿の周りにマッシュポテトを絞り出し袋から波型にデコレーションする。その真ん中にマッシュルームソースを乗せる。その上に小さな魚のカレイのフィレを指で丸めてロール状に茹でたものを4尾置く。その上に魚のソースを掛ける。更にその上にヴェルネスソースを掛け天火で焼き目を着け出来上がり。といった料理だから毒々しい魚のソースも殆どは隠されてしまう。

 肉料理に使うブラウンソースにもカラメルをほんの少し垂らすと美味しそうな色と照りが加わる。カラメルも着色料だが砂糖から作られるのでソースにコクも出る。

 毒々しいエメラルドブルーのアイスクリームは露店市の真ん中で異彩をはなっていたが、手渡された姉弟は嬉しそうに小走りに帰って行った。そのアイスクリーム屋も満足そうであったが、それを仕込んだ職人も「がはは」と笑いながらアイスクリームをかき混ぜていたのに違いない。でもあの毒々しいエメラルドブルーは着色料ではなくてたっぷりのブルーベリーが混ぜ込まれたアイスクリームで、それは真っ黄色のタクアン、真っ赤な梅干し同様、自然の色だったのかも知れない。VIT

 

 

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コメント
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