武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

128. スーパーのお客争奪戦 安売り競争

2015-09-30 | 独言(ひとりごと)

 数年前までは「3つ買って支払いは2つ分」という広告が良く目に付いた。

 牛乳を3リッター買って、支払いは2リッター分だから少し徳をした気分になる。

 でも要らなくても3つも買わされるのだ。

 

「LEVE3PAGUE2」(ワインが3本で2本分の支払い)の広告

 「2つ買って支払いは1つ分」というのもあった。半額になる訳だから随分とお得な買物となる。

 それを知らなくてそういう商品を選んだならば1つだけなのに2つ分の価格を支払わされる羽目になる。1つだから半額ならば良いのだが、1つで1つ分の支払い、だから普通の筈だが損をした気分になる。

 歯ブラシが必要になり買った。その商品は「LEVE 2, PAGUE 1(2つ買って支払いは1つ分)」という商品だったのだが、それを知らなくてそのままレジに並んだ。レジ係がレジを打ちながら「これは2つでも同じ値段ですよ。どうしますか」という。急いで歯ブラシ売り場に引き返してもう一つを持ってくれば良いのだが、レジには後ろにたくさんの人が並んでいる。僅かなことで時間を取らせるわけにもいかない。安い値段だし、まあいいか。と思って「1つだけでいいです」と言ってしまったが、随分と損をした気分だ。そして歯を磨くたびにそれを思い出す。もうそのスーパーでは買物は控えようとも思ってしまった。

 そんなことを思った人も多かったのかも知れない。その制度は飽きられた様で、最近は「3つで2つ分」の広告はあまり見かけない。

 と思っていたが、きょうスーパーでよく見てみると未だやっていた。パスタを3袋で2袋分の支払い。家に帰ってから広告をよく見てみるとまだまだやっている。ワインが6本で5本分の支払い。ピッツアが2枚で1枚分の支払い。シャンプーが2本で1本分の支払い。猫用ペットフードが8缶で6缶分の支払い。「LEVE 8, PAGUE 6」となる。

 

「パステル・デ・ナタ」が8個で6個分の支払いの広告

 大阪の新聞ちらしでは「1円」などという広告がある。例えば1袋150円ほどもする乾燥ワカメがたったの1円になる。その日によって品物が違って、鶏卵1パックの時もあるしカレールーの時もある。ただし合計1000円以上の買物をしなければならない。そしてお一人様1個である。1000円以下ならば通常料金になる。2個目からも通常料金になる。新聞チラシにボールペンで丸く囲んで1円につられ大阪のおばちゃんたちは遠くまでママチャリを走らせる。

 

コンチネンテの広告ちらし。何れもA4サイズで36ページ。右は新学期文房具特集。左は普通の食料品。

 僕は子供の頃、母に連れられてよく買物に行った。北田辺の駅周辺に商店街と公設市場が2つ、それに光商店街というのもあった。駅に向って最初に光商店街があり、往きにはそこは素通りをする。駅の踏切を渡ればずっと商店街になっていて野菜や魚などを見ながらやがて公設市場に入る。ひと回りするころには買い物籠もかなり重くなっている。子供の力でも母にとっては有難かった筈だ。そして再び踏み切りを渡って帰りがけ光商店街の入り口にある豆腐屋で1丁の絹こしを買う。そこの威勢の良い老女主人は子供好きで子供が「おばちゃん、絹こし1丁ちょうだい」などと言うと、うす揚げ1枚のおまけが付いた。母もそれを知っていて、僕を買物に誘うわけである。

 北田辺周辺は今ではすっかり寂れてしまって当時の面影はない。踏み切りもなくなって電車は高架になった。そこに小さいコンビニが出来ていて、そこだけはお客の出入りが多い。光商店街はマンションに建て替えられたし、公設市場の一つはパチンコ屋、商店街も淋しい限りで、もう一つの公設市場はスーパーになっている。でも幾分公設市場の名残を残しているスーパーではある。

 

スーパー「ジュンボ」のパン祭の広告左と普通の食料品と衣服。何れもA4サイズ32ページ

 セトゥーバルは人工10万人の中都市、そして港町。郊外には工業団地を幾つも控える、工業の町、工場労働者の町だ。古代ローマ時代にはセトブリガという名前で、その頃からイワシの塩漬けや塩田で栄えた町で、そんな遺跡も残されている。その伝統は現在まで引き継がれ、少し以前まではオイルサージンの工場がたくさんあった。そんな労働力を当て込んで、今では自動車工場、パルプ工場、セメント工場など、それに従来からのオイルサージンやチーズ、ワインでも栄える活気のある町には違いない。そして大型貨物船が出入りする港町でもある。

 

スーパー「ジュンボ」のワイン祭の広告の見開きページ。A4サイズ32ページ全てワイン。

 活気はあるがたかだか10万人である。さほど大きくもない町に大小のスーパーマーケットがひしめきあっている。大型のその名もジュンボ、昨年には更に大型化ショッピングモール工事も終って、無料の専用バスを走らせ周辺地域からも集客しようとしている。それにフランス系のインター・マルシェ、老舗のピンゴ・ドーセが2軒、コンチネンテ、ドイツ系だと思うリドゥルが3軒、それに小型のミニ・プレソが数軒。そして数キロしか離れていない隣町パルメラにも3つ、4つのスーパー。その他に家電や日曜大工の量販店、中華雑貨、その名もメガチャイナが数え切れないほど。

 スーパーは全国チェーンや外国資本が殆どで、テレビでもコマーシャルを流すし、こぞって立派なチラシを作る。チラシと言うよりも、冊子、或いはカタログと言っても良いくらいで、カラー刷り、写真も豊富に使い、デザインも凝っていて何ページにもわたった立派なものだ。日本の様に新聞配達はないので、それをアルバイトを雇って各家の郵便受けに入れる。

 最近は印刷技術が向上して、カラー刷りはあたりまえになっている。しかも両面印刷だ。日本でも以前の新聞のちらしはモノクロ、片面印刷もかなりあった。その裏をメモ用紙として使ったりしていたものだ。小さく切ってクリップで挟み電話機の横などに置いていたりもした。

 あの野村監督が作戦を練るのにちらしの裏にいろいろ書いては頭を巡らす。という話を聞いたことがある。最近の様にパソコンのモニターに向って文字を書くのより、自分の手で、指先で鉛筆やペンを走らす方が、頭を働かせるのには良いような気もする。

 その片面の新聞チラシを集めて立派なメモ冊子を作ってプレゼントしてくれた親しい友人がいる。糸で丁寧に綴じて、本来は捨てるべきたかがチラシだが、既にそれ自体が作品の様相を呈している。A4サイズで、何ページくらいあるのだろうか?厚さは2cm程もある。表紙には僕の好きな画家の展覧会のチラシを使ったりして丁寧に作られているのだ。1部限定、同じものは2冊とない、自分だけのオリジナルである。友人自身もそれに何でもメモをしておくのだそうだが、僕は勿体なくて使えなくそのまま本棚に仕舞いこんでいる。文字や絵で埋まればそれ自体立派な作品になる。美術館か画廊に展示しても面白い作品となることだろう?と思う。

 

ドイツ系スーパー「リドゥル」の広告。下着バーゲン。A4サイズ16ページ、見開き部分。

 そんなちらしを駆使してセトゥーバルのスーパーが会員獲得合戦である。

 会員カードを作れば5パーセント、10パーセントの割引。

 会員登録すればポイントが溜まるというのもある。溜まったポイントで買い物ができる。そういったのは日本でも同じ。

 

スーパー「コンチネンテ」の広告チラシ。A3サイズで何れも24ページ。

 

 我家が行くスーパーで行われているのはもっと凄くて、会員登録すれば定期的にクーポンが郵送されてくる。会員登録は無料だ。

 何月何日から1週間の間、1回に20ユーロ以上の買物をすれば5ユーロの値引き、というクーポンだ。

 丁度20ユーロだけを買えば全商品25パーセントの割引となる。随分の割引率だ。でもそうは巧く買物は出来ないでいつも30ユーロ近くを買ってしまう。5ユーロはその場で差し引かれるのではなく次の買物から差し引かれる。そこがミソだ。

 それが毎週の様にある。クーポンの日にちを見ながら効率良く買物をしようと考えたりもする。毎週20ユーロ分くらいは普通必要で、別段特別な物を買ったり、高いものを買ったりはしなくても良いが別のスーパーには行かれなくなってしまう。

 クーポンの5ユーロ以外にも10パーセント、25パーセント、50パーセント引きという商品もあって、その値引き分も次の買物から一緒に引かれる。多い時などは30ユーロ程の買物をしたにも拘らず支払いはたったの10ユーロなどと言う時もある。随分と得をした気分になる。これでお店は儲かるのだろうか?と思ってしまう。クーポン券の郵送代も掛かるだろうし。

 でもすっかりそのスーパーに釘付けになってしまっている自分に気付く。まああまり無理をして買物をしているつもりもなくて、別のスーパーの方が良い品物があればその別のスーパーで買うようにしているから今のところガンジガラメになっていることもないし、問題はないと思う。

 スーパー同士の競争も大変だろうが、昔からの商店は寂れる一方だ。でも意外なことにセトゥーバルではメルカド(公設市場)だけはお客は減っていない。土曜日の午前中などは相変わらず混みあっている。やはり魚や野菜は新鮮だ。

 殆どのスーパーではレジ袋は有料になっている。その代り、エコバッグの製作にしのぎを削っている様にも思う。

 たいていは50センチモと格安でたっぷりと入り、丈夫でデザインもなかなか凝っている。今までのレジ袋より使い慣れればなかなか良い。

 

スーパー「リドゥル」の広告チラシ。A4サイズ16ページの表紙。左は秋特集、右は工具特集。下段はクーポンを貯めて特製ぬいぐるみをゲットしよう。

 先日、1年ぶりに画材を買いにカセンという町まで行った。セトゥーバルにも画材店は1軒あるが、小さくて品物が揃わないし、高いので、以前にもリスボンまで出かけて1年分の纏め買いをしていた。

 カセンまで行くようになったのは、3年前からである。ずっと以前に画廊のペドロのクルマで連れて行ってもらったことがあるが、自分で行くようになったのは3年前からである。ペドロのクルマには2度と乗りたくはないと思った。何時死んでもおかしくはない運転だ。カセンはセトゥーバルからリスボンを通り過ぎてシントラの近くまで走るから1時間以上は優にかかる。大型の画材専門店でリスボンの画材店より同じものでも少し安い。リスボンは駐車場にも困るが、カセンまで行けば駐車場の心配はない。工場団地の一角にあり、画材の量販店といったところで、自前の駐車場もあるのでゆっくりと買い物ができる。

 今回行けば、たまたまバーゲンセールをしていた。5ユーロ以上を買うと全商品25パーセント引きと入り口に書いてあった。僕の買物は、キャンバスの買い置きは未だあるので、今年は特別少なくて、それでも100ユーロは突破してしまう。アルバイトらしく画学生風の女店員に「25パーセントの割引ですか?」と尋ねると、「次回の買い物から引かれます。」と言う。「明日からでも大丈夫です。」でもきょうは駄目なわけである。上記のスーパー方式を取り入れたのだ。毎週の様に買物をする近くのスーパーでもあるまいし、画材店が割引分は次回の買物から差し引くという、何と言う制度を取り入れたのかとその頭脳を疑ってしまう。そして買った画材を入れる袋も有料になってしまった。それは別にいらないからいいが、結局税金を除いた分の25パーセント23ユーロが次回の買物から引かれる。でも期限があり、10月末日までとのことだ。

 ガソリン代や橋の通行料金などを考えてもやはりただ23ユーロをドブに捨てるには忍びない。10月などと言っていたら忘れてしまいそうなので、その3日後の土曜日に再び出かけた。帰りにはクェルースに寄って少しスケッチをするのも悪くない。土曜日なら高速道も空いているだろうと思ったが、それ程でもなかった。リスボンからカセンまでは無料の高速道が繋がっている。片側4~5車線はある高速だが、アレンテージョに比べると1車線幅は狭く、交通量はただ事ではなく多い。真ん中車線を道路標識などを見ながら注意深く走っていると左からも右からもびゅんびゅん追い抜いて行く。そして車線変更が多く、直前に割り込んでくるクルマなどヒヤッとすることも度々だ。同じポルトガルでもセトゥーバル周辺やアレンテージョとはまるで違う交通量だ。

 土曜の午前中なので画材店は空いていた。店主は覚えていて快く割引のレシートで買い物が出来た。23ユーロプラス5ユーロ程の追加料金でターレンスの油絵の具3本を買うことができた。比較的良く使う基本的な色、ヴィリヂアン、ヴァーミリオン、ローアンバーで余分にあっても何れは使う。

 でも3本の為のその1日の行動を考えていると絵の具をチマチマと使ってしまいそうだ。帰りはクェルースで昼食を摂り、数枚のスケッチもし、再び高速道に入ったが、リスボンに入るあたり、ベンフィカ・スタジアムの手前で案の定交通事故があり、長い渋滞に巻き込まれてしまった。事故現場ではあのメルセデスから販売されている、スマートが見る影もなくスクラップと化していた。

 そしてヴィリヂアンを使うたびにゴーガンに似たカセンの店主の顔が頭に浮びそうだ。VIT

 

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