武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

161. 下町の靴屋 Loja de conserto de calçados

2019-02-01 | 独言(ひとりごと)

 日本に履いて帰る革靴を修理に出した。

 日本では良く歩くので踵がすり減るのだ。歩くのに癖があるのだろう。いつも踵の外側からすり減る。ガニ股なのかも知れない。もっとカッコよくモデルの様に歩くのを心がけねば・・・。

 ポルトガルでいつも履いている靴は日本には履いては帰らない。

 ポルトガルでは野の花の観察に行くことも多いし、野山でも瓦礫の上でもびくともしない、軍靴の様な、猪狩りの猟師が履く様な、頑丈なひも付き半ブーツの革靴を履いている。

 日本用はいつも別、同じ半ブーツだが、一昨年だったかに買って、昨年の日本に履いて帰って3か月ほどの日本滞在期間中に殆ど毎日履いていた。

 いや、宮崎では自転車なのでスニーカーを履いている。ポルトガルからの往き帰りと大阪でのみか、大阪では革靴で良く歩く。

 実家から近鉄線『北田辺駅』まで歩いて『天王寺駅』で市営地下鉄に乗り換え『淀屋橋』で降り、『マサゴ画廊』のある西天満まで行けばそれ程は歩かない。片道150円+230円=380円。

 それを近鉄電車も地下鉄も使わないで、今川沿い漆堤公園をJR大和路線『東部市場前駅』まで歩き、『天王寺駅』か『新今宮駅』でJR環状線に乗り換え、『大阪駅』で下車、曽根崎警察の裏手のお初天神通りアーケード街を歩き、お初天神にお参りし、西天満の画廊まで歩くか、淀君の菩提寺、太融寺の縁を通り真っ直ぐ南下し西天満の画廊まで歩けば、『北田辺駅』から乗るよりはもう少し歩くことになる。そして交通費は随分と安上がりだ。片道220円。

 『東部市場前駅』まで歩くよりもいっその事、JR環状線の『寺田町駅』まで歩いて『大阪駅』まで乗れば乗車区間は短くなり、料金も更に少し安くなる。そして歩く距離はもう少し延びる。片道180円。

 一度などは『寺田町駅』まで歩くつもりが、駅に行く信号が赤だったために、いっその事『桃谷駅』まで歩いてしまえ。と思ってもう一駅歩いた。途中、曲がるところが判るかなと思って、商店の親父さんに尋ねた。「ここ真っ直ぐ行ってアーケードの入口が見えたら入って行きなはれ。おっちゃんの足やったら、そやな、10分かな。」と教えてくれた。若く見られたのか、年寄りに見られたのか?それは判らない。でも寺田町駅から乗っても桃谷駅から乗っても料金は同じであった。片道180円。

 天王寺まで歩くこともよくある。日本一高いと言われる『あべのハルカス』の近鉄百貨店画廊にいくこともあるし、更に足を延ばし、『茶臼山画廊』に行くこともある。そしてその裏手にある『一心寺』にお参りすることもある。

 『玉造駅』より更に先の上町1丁目にある額縁屋まで歩いて行ったこともある。かなりの距離で恐らく2時間以上はかかったと思う。額縁屋で1時間ほどの用事を済ませた後、帰りは、額縁屋の前を『杭全』行きの市バスが通っているので(杭全から実家はそれ程遠くはない)、市バスに乗ろうとバス停まで行って時刻表を見たが、バスは出たばかりなので、少し歩こうと思っている内に実家まで復路も歩いてしまっていた。無料。

 その前の年などは市バス1本で『淀屋橋駅』まで行くことが出来るので、急ぎ足30分の『玉虫』バス停まで歩き、小1時間を市バスに揺られ『淀屋橋』で降り西天満の『マサゴ画廊』まで通っていた。『大阪観光バスの旅』気分だ。片道210円。

 そのバスなら帰りは淀屋橋まで歩かなくても『大江橋』から乗ることが出来るのでバス時刻さえ調べておけば便利だ。往復420円。

 もっと安上がりに行くにはJR『寺田町駅』まで歩き、大阪駅まで乗らないで3つ手前駅の『京橋駅』で下車し、造幣局の前を通り、天満宮の前を通り、ついでにお参りでもし、更についでに『繁盛亭』寄席の看板でも眺め、南森町から西天満まで歩けば良いのだが、どれほど倹約になるのか一度歩いたことがあるが覚えていない。検索してみると=片道180円。

 とにかく大阪では『街角探検』の気持ちで歩くことを楽しんでいる。上方古典落語にはよく歩く話も出てくる。昔の人は歩いたのだ。勿論、江戸から上方まで皆が歩いた。

 僕は若い頃に50ccバイク、スーパーカブで大阪から東京まで走ったことがあるが、危険極まりない。大型トラックからの風で煽られ何度もこけそうになった。実際、箱根の上り坂で1度はこけた。江戸時代と現代とでは道が違う。

 でも今の市街地なら実家から西天満まででも歩道が整備されていて歩こうと思えば危険なく歩くこともできる。それは歩いたことはないが。

 ボロのママチャリ(自転車)ではたびたび走った事がある。大阪城公園を斜めに走り、片道40分の道のりだ。車道を走るがそれ程危険は感じない。歩けば4~5時間はかかるのだろうと思う。無料。

 そんなことをしているから靴が減る。

 日本用に買った革靴はひも付き半ブーツであるが、チャックが付いている。

 ポルトガルでは自宅ではスリッパで過ごしていて、出掛ける時に革靴に履き替える。一旦履くと帰って来るまで途中で脱ぐことはない。

 日本では途中で靴を脱ぐことが多い。

 長居にある大阪芸大の同級生がやっている画廊『ギャラリー・キットハウス』は、画廊には珍しくスリッパに履き替える。前庭があり、植栽を潜る様に飛び石を渡って画廊に入る。一旦、画廊に上がればスリッパで落ち着いてしまうので、なかなか腰を上げようとはしない。この画廊の良いところでそれが特徴なのだ。

 西天満の画廊『マサゴ画廊』の近くでランチを食べる。大阪でのささやかな楽しみの一つだ。ランチ専門の食堂というところではなく、夜には割烹になるところが、ビジネスマンの為にランチもやっている。テーブル席が満席になると、座敷に通される、当然、靴は脱ぐことになる。上り框などそういった店は大抵が狭い。そんな狭い場所でひも付き編み上げの半ブーツなど脱いだり履いたりは大変である。

 日本で絵描きの友人たちは大抵が革靴でもチャック付きを履いている人が数人は居た。

 あれは便利だと思った。

 ポルトガルでもチャック付きの革靴を探してみた。それが流行りなのか?あったのである。

 チャック付きの半ブーツを見つけて買おうとしたら、チャックは飾りのデザインだけで開け閉めは出来ない。結局は紐を結ぶ靴。そんなのがあること自体可笑しいが、あるのだ。その後、ちゃんとチャックの機能、開け閉めが出来る半ブーツの革靴を見つけて買うことが出来た。

 それを昨年は大阪で目一杯歩き減らした、という訳。

 それでこの程、下町の靴屋に踵の張替に出した。

 MUZの半ブーツも同じように踵が減っているらしく、2足を持って行った。何度も油彩にしている礼拝堂のすぐ傍の古くからある靴屋だ。

 入って行くとお客は居なくて、親父さんと女将さんが何やら深刻な面持ちでひそひそと話し込んでいた。何となくタイミングが悪い雰囲気である。

 「何の御用ですか?」と言うので、2足の靴をカウンターの上に並べた。

 今までも何度も修理に出しているが、それこそ5年に1度くらいのものだろう。馴染みというほどでもない。「お名前は?」と聞くので「タケモト」と言うと「判らないから書いてください」と言って、踵型の紙を出す。それを踵に貼り付けておくのだ。そして「1時間ほどで出来るから、それ以後に取りに来て下さい。」

 実は我が家の階下の部屋が1年ほど前から大々的にリフォーム工事で大工の空いた時間だけ少しずつやっているのか?1年も経つのに、時々は騒音がうるさくて堪らない。その日はそれから逃れたくて、修理の靴を携えて、家を出てきたのだ。だからそんなに1時間くらいで修理が終わってしまっては困るのである。工事人が帰る5時までは家に帰りたくはないのである。

 天気も良いので時間つぶしにビーチを歩くことにした。フィゲイラの広いビーチには20台ほどのクルマが停まっていた。釣りをする人、日光浴をする人、靴を脱いで波打ち際の散歩をする人。

 でもビーチは広いので人はまばら。数年前にリフォーム工事をした、レストラン・カフェは閉ざされていた。折角、海を眺めながらコーヒーでも飲んでゆっくりしようと思っていたのに。

 更に、海沿いの道を走り、ポティーニョのビーチへ。ここではカフェが開いていて、コーヒーとパスティス・フェイジョア(豆餡のお菓子)を食べた。

 広い砂浜には砂浜にしかない珍しい植物が自生していて、時々は訪れる場所だが、未だ珍しい花は咲いてはいなかったがいろいろと新葉が出ている。

 更に波打ち際をポティーニョのレストランが数件かたまってある場所まで歩いてメニューを見てみたが、あまり入る気がしなくてクルマまでUターンした。実はこのレストランは海に突き出した場所で、食事をしながら魚が泳ぐ姿なども見られる程なのに、以前に食べた時などは、明らかに冷凍の魚を出して来たのでそれからは行かなくなってしまったレストランなのだ。折角の場所なのに惜しい。

 クルマでセトゥーバルまで戻り『ミネイロ』で少し遅いめの昼食。ゆっくり食べ、デザートも食べ、デスカフェイナードも飲み、もう3時間も経っているので、そろそろ良いかなと思い、下町の靴屋へ。

 靴屋には先程とは打って変わって大勢の先客。いや、2人の先客。店が狭いので2人と我々2人の合計4人で満杯。

 先客の小父さんは修理に出していた靴を受け取り、新たに修理に出す靴を持って来ていた。そして足元を見ると又、同じようなタイプの靴を履いている。愛着があるのだろう。何度も何度も修理に出して繰り返し履いているのだ。

 思えば以前にセトゥーバルの下町には多くの靴(修理)屋があった。

 僕たちが最初に住み始めたジュンクエイロ通りにも靴屋があって何度かは修理に出した。親父さんが一人で通りから見える店先でコツコツと一日中靴修理をしている店だった。それがもう15年も前からは閉ざされたままになっている。

 ペドロの画廊の隣にも同じような靴屋があった。それもなくなってしまっている。靴屋だけではなく、下町の店は閉店してしまっているか、中華雑貨になってしまっているか、セトゥーバルの下町は寂しくなってしまっている。

 この礼拝堂横の靴屋も親父さんと女将さんがひそひそ話をしているのを見て、ひょっとして閉店の相談でもしているのだろうか?と心配したがそうではなさそうでほっとした。

 MUZの靴は出来上がっていたが、僕の靴は未だ今修理中であって「今、やっているからちょっと待ってください。」と言っている間にも次から次に常連客が訪れていた。そして靴屋の親父さんは急ぐ様子もなく、出来上がった靴のチャックにミシンオイルを垂らし、何度も上げ下げして、今度は靴にワックスを塗りピカピカに光らせてくれた。踵張替代金=10€(紳士靴)6€(婦人靴)合計=16€。

 後から入って来たお客も急ぐ様子もなく、僕たちの靴と親父さんの指先を眺めながら世間話を楽しんでいる。VIT

 

 2019年2月19日(火)にリスボン空港を発ち、約3か月間を日本で過ごし5月15日(水)にセトゥーバルに戻って来る予定です。その間のブログは更新しませんので次回は6月1日になるのかも知れません。大阪には3月1日(金)から3月20日(水)まで滞在し、それ以外は殆どを宮崎で過ごすことになります。大阪では下記日程でのグループ展だけですので気楽な帰国です。お近くの方は是非お立ち寄り下さい。また、宮崎で自転車に乗っている姿を見かけたらお声かけ下さい。自転車ですから急停車も可能です。武本比登志

 

2019年度出品展覧会

第8回 NAC

賛助出品:藤井満先生 

出品:吉田定一、呉景萬、田中昭雄、武本比登志

2019年 3月4日(月)~ 9日(土)

マサゴ画廊 11:00-19:00(最終日17:00まで)

〒530-0047 大阪市北区西天満 2-2-4

℡ 06-6361-2255 / 搬入3月2日(土)17:30より

搬出3月9日(土)17:00

 

第4回 大阪芸術大学美術科4期生同窓展

2019年 3月9日(土)~ 20日(水)

Gallery キットハウス 10:00-19:00(最終日17:00まで)

〒558-0004 大阪市住吉区長居東 3-13-7

℡ 06-6693-0656 /携帯090-3270-5326(岩尾和子)

搬入 3月8日(金)14:00 / 同窓会16:00

搬出 3月20日(水)17:00

武本比登志/武本睦子 出品参加予定

 

 

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コメント
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