武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

183. 蜂の一刺し Picada de abelha

2021-04-01 | 独言(ひとりごと)

小さいながらも鮮やかな黄色が可愛い『黄花蜜蜂蘭 Ophrys lutea』2021年3月25日セトゥーバル郊外で撮影。

 ベランダの洗濯物を見ながらコーヒーを飲んでいる。1頭の蜜蜂が飛んできて、ベランダの手すりに止まって洗濯物を窺っている。洗濯物を花と間違える筈はない。巣別れの場所を探しているのかもしれない。やがて諦めて飛んで行った。

 この場所にはよく蜜蜂がやって来る。

 ニラに花が咲くとその蜜までも吸いに来る。

 アラビダ山には季節を問わず無数のローズマリーが咲いているが、たまには違う味を楽しみたいのだろうか?

 先日は蜂に刺された。

 夕食前に少しの時間が出来たので、本を読み始めた。昼間の陽射しは強かったのだが、陽が傾きだしたので少し寒さを感じた。

 上に重ね着するのではなく、下に重ね着をすることにし、全ての服を脱ぎ、ブリーフの上にアンダータイツを着た。そして又、全ての服を着た。

 棘でも刺さっているのか、チクチクとする。

 このアンダータイツは昨日洗濯をしたばかりで、タンスから出したものだ。

 先日は、野の花観察にパルメラのトレッキングコースを歩き、藪にも入った。その時の棘が洗濯をしても落ちないでそのまま残っているのであろうかと思った。

 服を全て脱いでみた。

 ごろっと黒いものが出てきた。一瞬ダニかと思い、大きく奇声を発してしまった。

 黒いものはレースのカーテンを這い上がり始めた。

 何と蜜蜂だ。

 そのまま窓を開けて逃がしてやった。

 洗濯物を干している時に内側に潜り込んだのだろう。蜜蜂はタンスの中で24時間も過ごしていたのだ。洗濯物を取り込む際には花粉や埃などを落とす様に、ぱたぱた叩いてから取り込むのだが蜜蜂も落とされまいと必死でしがみついていたのだろう。

 蜜蜂が飛んでしまったあとチクチクしたあたりを調べると小さく4か所も刺されていた。

 キンカンを塗って、ムヒを塗った。痛みも痒みも殆どなく、腫れることもなかった。

 『蜂の一刺し』という言葉がある。<命がけの発言>という意味だろうか。蜜蜂は命がけで刺す。刺せば自ら死んでしまうそうである。4箇所も刺したのだから死んで当然な筈だが飛んで行ってしまった。窮屈なアンダータイツの裏側で思いっきりは刺せなかったのだろうか。

 ダニやスズメバチでなくて良かった。

 僕は以前、宮崎に住んでいた時、スズメバチに刺されたことがある。蒸し暑い時期でもあった。熱中症気味もあったのかも知れないが、朦朧としながらも、クルマを走らせ15分離れた医院に行き診てもらったことがある。

 庭で草払いをしている時に突然首の後ろ側を刺されたのだ。その時は棒か何かで叩かれたほどの衝撃が走った。

 スズメバチは別棟の水道管の穴の中に巣を作っていた。

 スズメバチは蜜蜂とは違って刺しても死なないでその後も生きながらえるそうである。

 先日、『Mr.ホームズ名探偵最後の事件』(2015年。イギリス、アメリカ共同製作。104分。監督:ビル・コンドン。)という映画を観た。

 1947年、現役を引退し93歳になったシャーロック・ホームズ(イアン・マッケラン)は蜜蜂を育てる楽しみを得てイングランド南部サセックスという田舎で、家政婦のマンロー夫人(ローラ・リニー)とその息子ロジャー(マイロ・パーカー英語版))と暮らしていた。ロジャーも一緒になって蜜蜂の世話をしていたが、ホームズはロジャーの名前をたびたび忘れ痴呆が出始めているのが気に掛かっていた。

 広島の原爆跡に芽を出していた山椒の苗木をイギリス迄大切に持ち帰って来た。物忘れには『山椒』が良いと言われ、煎じ始めたところ気分が悪くなって倒れてしまった。ロジャーは一人で蜜蜂の世話をしていたが、ホームズが庭に出てみるとロジャーは顔が腫れあがる程、蜂に刺され気を失って倒れていた。救急車で病院へ運び何とか命は取り留めた。マンロー夫人は蜜蜂の巣箱にガソリンを掛け燃やしてしまおうとしたが、ホームズは蜜蜂ではなくスズメバチなのではないかと推理し、付近を捜したところやはりスズメバチの巣が見つかり、マンロー夫人と二人で燃やした。

 『シャーロック・ホームズ』自体が架空の人物で以上は物語なのだが…。

 宮崎に住む友人は、その又友人が趣味で飼育している蜜蜂が巣別れの兆候を示したとのことで、それを譲り受けて蜜蜂飼育を始めたと言ってきた。趣味としても楽しそうだ。

 ポルトガルの露店市には蜜蜂飼育の道具を専門に出している店もある。ポルトガルにも蜜蜂飼育を趣味としている人が多いのだろう。家の門のところに『自家製蜂蜜あります』などという張り紙も見かける。

 その蜜蜂を狙ってスズメバチが襲う。

 ポルトガルでも最近はスズメバチの被害がニュースなどでも取り上げられる。スズメバチはポルトガル語では Vespa asiatica ヴェスパ・アジアチカ(アジア蜂)または Vespa-gigante-asiatica ヴェスパ・ギガンテ・アジアチカ(アジア巨大蜂)などという。

 「アジアからはアジアチカといい武漢ウイルスといい、厄介な物ばかりが入ってくる。」などと思っているポルトガル人は居ないだろうけれど、アジア人の一員としての日本人にはアジアチカは有り難くない名前である。ちなみに蜜蜂はポルトガル語で Abelhas で全く違う名前である。

蜂に擬態した『鏡蜂蘭 Ophrys speculum』

 近年、日本でもスズメバチに襲われる事件は増えている。スズメバチが持つ毒液の毒性は強く、呼吸不全や心肺停止の原因にもなり、死に至ることもある。

 アジア以外にも毒虫はいろいろと居る。

 ギリシャの岩山で宝石の原石を探していた。裏返した石にサソリが引っ付いていたことがある。

 メキシコのピラミッドを見学して宿に帰って来た。バンガロー形式で茅葺屋根の宿であった。部屋に入って電灯を点けたところ、ベッドの上をタランチュラが這っていた。ピラミッドで買って来たポスターで叩き潰したものの、その夜には怖い夢を見てうなされた。

 目に見える毒虫も恐ろしいが、目に見えないウイルスも恐ろしい。

 何とか感染しないで1年が過ぎた。

 予想より遥かに早くワクチンも開発されたが、問題も多い様だ。アストラゼネカなどのワクチン接種によって複数の人が亡くなっている。我々にはいつワクチンの一刺しがあるのか、今のところ全く情報はない。出来ることなら100%の安全性が担保されてから、或いは一刺しをしなくても社会全体で終息ができればなどと思う。

 今、沿道ではコロナの花『シュンギク』の原種が満開の時を迎えている。

 シュンギク原種の学名はクリサンテムン・コロナリウム Chrysanthemum coronarium という。コロナなどと可愛い名前の筈が悪いイメージが滲み込んでしまった。

コロナの花シュンギク原種に止った蜜蜂

VIT

 

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コメント
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