武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

134. 山椒の木と擦り胡麻の話

2016-02-29 | 独言(ひとりごと)

 ポルトガルに来る前に宮崎の山あいに住んでいましたが、その周辺の山には山椒の木がたくさん自生していました。知人からシイタケ菌の仕込まれたほだ木を2本頂いてその置き場所を探していたところ、その半日陰になった場所に山椒の木が自然に生えていて、実まで付けているのを見つけたこともありました。

 山椒の木は大阪の実家では欠かしたことがない鉢植えでした。父はいろんな植木を狭いベランダや物干しなどに所狭しと並べていましたが、山椒の木の鉢植えは玄関のすぐ脇にいつも置かれていて、夕食の香味に時々使っていましたが、使うときはいつも両手に挟んでパシッと音が鳴るように叩いて香りを強くして柔らかくしていたのを思い出されます。

 宮崎ではその様に庭に自然に自生していましたが何故かわざわざ使うことはしませんでした。今から考えると勿体ないことでした。ポルトガルには山椒はありませんので小さな卓上瓶で粉になった物を日本から持参して使っていますが、色と香りはすぐに抜けてしまいます。

 宮崎では大きな擦り鉢と山椒の木で出来た擦り粉木(すりこぎ)はよく使っていました。

 ポルトガル移住にあたって、そこを引き払って、宮崎市内に倉庫兼帰国時のための小さな家を購入し、いろんな荷物を押し込みましたが、擦り鉢は大きすぎるので少し小さいのに買い替えました。でも山椒の木の擦り粉木はそのまま荷物の中に入れて持って行きましたので、一時帰国の折には使っています。ポルトガルでも日本人の方から帰国される折に少し小ぶりの物を頂いたので時々は使っています。擦り粉木はやはり山椒の木です。

 昔、ニューヨークに居た時にはマクロバイオティック・レストランでコックをしていました。マクロバイオティックですから自然食の胡麻はよく使います。胡麻のドレッシングは好評でした。胡麻を使ったデザートなども作りました。胡麻は必ず擦り鉢と擦り粉木を使います。でも調理場の専門用語では「胡麻を擦る」とは言いません。「胡麻を切る」と言う言葉を先輩の本職の板前さんから教わりました。「胡麻を擦る」のは上役などに対しておべっかを使うことで、「胡麻を切る」の方がより香り立つ様な感じがします。だからと言っていちいち包丁で切るわけではありません。

 最近は卓上の擦り胡麻器などが売られています。100円ショップなどにもあると思いますが、手軽に擦り胡麻が使えます。でもやはり擦り鉢と山椒の木の擦り粉木でごろごろと擦った方が香り立ちが違いますし、有り難味がある様な気がします。

 大阪西天満には擦り胡麻専門の老舗があります。キャッチフレーズに『黄金の国の黄金の胡麻、黄金香りごま』と『ジパング』などとも袋には書かれてあって、南蛮屏風の絵からの昔のポルトガル人数人が描かれています。袋の裏面を見ると『大阪天満の地に和田萬次郎が造りつづけた秘伝<黄金香りごま>香り高い貴重な金胡麻使用、焙煎手法に秘伝あり。小野小町は金ごまの香りを愛し、季節の旬の野菜のあえものに…。楊貴妃は金ごまのうま味を讃え、贅沢三昧の皿、皿、皿にふりかけて…。クレオパトラは“開けごま”の不思議なパワーに魅かれ、朝晩、健康のスパイスとして……』などと書かれています。ここまで書くと何だか眉唾ものに思へますが、確かに美味しくいつまでも香りが落ちない様な気がしますが、やはり秘伝なのでしょう。でも何故、南蛮屏風の絵が描かれているのかが判りません。

 ポルトガルでも胡麻は使われています。お菓子やパンなどに使われているのを見ることがありますが、胡麻そのものは、何故かスーパーなどではまったく見かけません。一般家庭では使わないのでしょう。専門の菓子業者かパン製造などのところでしか流通していない様なので、我家ではリスボンにある中華食品かインド食品で購入しています。大抵が業務用の大袋ですので、日本に比べると格段に安価です。

 昔、母が縁側で「これ、ちょっと押えとき!」と言って僕に擦り鉢を押える役目を言いつけました。母が山椒の木の擦り粉木を回して胡麻を擦ったのです。ほうれん草のおひたしの時などいつも大きな擦り鉢を持ち出し、縁側で擦っていたのは懐かしい思い出です。ある程度擦りあがったらそれに塩を加え胡麻塩にしたり、醤油を垂らし胡麻醤油にしたりしていました。僕は子供の頃からほうれん草が好きで、赤い根っこのところなども好んで食べていました。胡麻醤油はいつも余分に作っていましたが、御飯に乗せて食べるのも大好物でした。僕が少し大きくなった頃には率先して胡麻擦りを買って出ていました。

 宮崎の倉庫兼帰国時のための小さな家には猫の額ほどの庭があります。隣との間に丁度猫が通れるくらいの隙間があって、我が庭は野良猫のみならず、他家の飼い猫の格好の糞場所になります。犬は来ないし、誰からも邪魔されずに落ち着いて用が足せるのでしょう。留守の時は構わないのですが、帰国の折にはやはり雑草取りなどの土いじりを楽しみます。うっかり猫の糞を踏んづけてしまうことも何度かありました。ある日、二階から下を眺めていると近くに住む、未だ小学校の低学年の少年たち5~6人がその狭い通路を走りこんで来ました。僕が上から眺めているのに気がついた少年の内で一番小さい一人が僕に対して「猫退治にやってきました。」とはきはきと大きな声で言いました。今時の小学校低学年の子供はこんな言葉遣いをするのかと、僕は笑ってしまいましたが、ご近所でも猫の糞公害で困っているのでしょう。僕は子供たちに「猫をいじめると化けて出てくるよ~」とつい口から出掛かりましたが、咄嗟に押えました。そんなことを言うと、かえって子供達から馬鹿にされただろうと思います。「あのおじさん、お化けを信じちょるんじゃろか~」などと思われかねない雰囲気があったからです。猫が居ると鼠が居なくなるので良いのですが、猫の糞には確かに困ったものです。

 それで猫除けとして、香りの強い植物を植えると猫は嫌がって近寄らなくなるとのことを聞いたので、数種類のミントを植えました。最初の年はうまく育ちましたが、そのまま種が落ちて毎年繁茂するものと思っていましたが、次の年は皆無でした。土が会わないのかも知れません。そこで昨年の帰国時に植木市で刺のある山椒の苗木を買って猫の通路を塞ぐように植えました。最近は棘のない山椒の木もあるとかで、その方が人気が高いそうですが、あえて刺の鋭いのを探したのです。刺のある方がやはり香りも高いとのことです。山椒の木は移植を嫌う植物なので山で採取してきた山椒の木はなかなか根付かないのだと思います。植木市で買った山椒の木は、順調に根付き、昨年、ポルトガルに戻る頃には勢いよく沢山の新葉をだして調子が良かったので、アゲハチョウの幼虫に食われていなければ良いのですが、さて今年は繁茂してくれているでしょうか?半月後の帰国が楽しみです。VIT

 

サンショウ(山椒、学名:Zanthoxylum piperitum)は、ミカン科サンショウ属の落葉低木。 別名はハジカミ。英名はJapanese Pepper、Japanese Prickly Ash。日本の北海道から屋久島までと、朝鮮半島の南部に分布する。若葉は食材として木の芽の名称がある。雄株と雌株があり、サンショウの実が成るのは雌株のみである。

 

ゴマ(胡麻、学名:Sesamum indicum)は、ゴマ科ゴマ属の一年草。英名:Sesame、葡名:Gergelim、Sésamo、アフリカ大陸に野生種のゴマ科植物が多く自生しているが、考古学の発掘調査から、紀元前3500年頃のインドが栽培ゴマの発祥地である。主に種子が食材、食用油など油製品の材料とされ、古代から今日まで世界中で利用する植物である。(Wikipedia)より

 

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