武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

111. パエリア鍋

2013-07-22 | 独言(ひとりごと)

 パリに永らく住んでおられて、その頃は僕たちもよくお世話になった、先輩のあまのしげさんがフェイスブックの中で、パエリアの写真を載せておられる。本格的で旨そうだ。

 何でも鍋は日本の輸入雑貨店で購入されたようだが、直径1メートルもあるそうだ。「なんばの道具屋筋では最大40センチしかなく…」と書いておられるから余程大きくて本格的なのを探しておられたのだろう。

 我が家では40センチもあれば充分だと思うが、1メートルがよく日本の輸入雑貨店が取り扱っていたものだと感心する。業務用だろう? いや、業務用と言うよりも、本場バレンシアあたりの家庭ではどこでも普通に常備している大きさなのかも知れない。かつての日本の家庭には臼と杵があった様に…。家族や知人が集まれば、庭でわいわい騒ぎながら、大勢でパエリアを楽しむ。だから1メートルが家庭用で、40センチの2~3人用はむしろレストラン用と言う事になるのかも知れない。

 

 僕たちはスペインでもパエリアは食べるが、フランスの朝市でもよく買う。天気の良い日など公園のベンチに座って食べるのは気持ちが良く美味しい。ムール貝の貝殻がスプーンになる。

 以前、オンフルールの朝市で食べたのが美味しかったのだが、次の日、そのおばさんがカーンの朝市に移動していて、オンフルールでは直径1メートル程の鍋が2つだったのが、カーンでは4つを仕込んでいて、おおわらわの様子だった。僕たちの顔を見つけてにゃっと笑っていたから、前日のオンフルールで買ったのを覚えていたようだ。

 又、アルルだったかの朝市でもパエリアを買って、帰りのTGVで広げたのだが、周りの乗客が唾ごっくん。余程匂いぷんぷん撒き散らしていたのだろう。

 

 ポルトガルの露店市にはパエリアはない。パエリアを食べさせるレストランもないと思う。以前、鰯の炭火焼のレストランで、子供連れの北欧からの観光客が「スパゲッティはないの?」と店の人に尋ねていた。店の人は「スパゲッティはイタリアだ~」と馬鹿にした様に言っていたのが印象的だったが、ポルトガルのレストランでは郷土料理優先、外国の料理はあまりやらない様だ。ポルトガルにはアロス・デ・マリスコス(シーフード雑炊)、アロス・デ・タンボリル(あんこう雑炊)、アロス・デ・ポルボ(タコ雑炊)、アロス・デ・パト(鴨雑炊)などがありパエリアは必要ないと思っているのかも知れない。そのくせ、ピッツアの専門店は至る所にあるのだが…。

 とにかくパエリアの店はない。どこかにあるのかも知れないが、少なくとも、セトゥーバルにはない。パエリアを食べたくなれば2時間、高速道を走らせて国境を越えなければならない。スパゲッティを食べたくなれば飛行機でナポリあたりまで行くことになる。

 

 或いは自宅でするかだ。スーパーの棚にはいろんな種類、いろんなメーカーのスパゲッティが並んでいる。各家庭では盛んにやっている様だが、我が家でもしょっちゅう食卓に上る。パエリアもそうなのだろう。

 我が家でもパエリアは時々するが、今のところパエリア鍋がないのでフライパンでしている。取っ手が少々邪魔だが、鉄製のフライパンなので、旨くできる。フライパンよりもほんの少しでも深い鍋などですると、どうしても水分が蒸発しにくく、べたっとしたパエリアになってしまうことが多い。だからパエリア鍋はその深さというか、浅さが重要になる。

 

 パエリア鍋があっただけではパエリアは出来ない。材料の骨付き鶏、魚介類、ムール貝は欠かせない。米。米は丸いのより長いのが望ましい。それにサフラン。サフランは高級なのでインドサフランでも代用は効く。そして火。1メートルの鍋にあった火元が必要だ。あまのしげさん宅は野外で炭火でやっておられるそうだ。パエリアの後にはその残り火を使ってバームクーヘンを作るのだそうだが、何でもやってしまうご夫妻だ。

 

 我が家でもおおよそ何でも手作りをするが、バームクーヘンまでは考えが及ばなかった。はてどうやって作るのであろうか?スポンジ生地はまあ良いとして、その方法である。想像を巡らせてみた。例えば壁にペンキを塗るときに使うローラーをスポンジ生地にどっぷりと浸けて、1メートルのパエリア鍋の上を転がすのであろうか?それをクッキーを作る時に使う生地を伸す棒を転がし巻きつけて行く、それを次々に繰り返して、雪だるま式に分厚く巻いて行く。違うかな?それ以上は想像が及ばない。

 

 昨年はスペイン領マヨルカに行ったのでレストランでもパエリアは食べたがバリエーションも多く、店によって味は様々である。飽きさせまいと思ってか、試行錯誤した革新的なパエリアなどもあるが、最近はかえってフランスの朝市のパエリアの方が旨く感じることの方が多い。パエリアはパエリアらしくサフラン色で、骨付き鶏と魚介類の様々ミックスの本格基本スタイルが美味しいのだと思う。そして大鍋が旨くできる秘訣なのかもしれない。

 

 パエリアは1972年にバレンシアの、海の見えるレストランで食べたパエリアが初体験でそれを越えるパエリアには残念ながら未だお目にかかれないでいる。その時の冷えたビノ・ロゼの味は忘れられない。

 

 食べ物に関しての初体験などは忘れられるものではないが、あまのしげご夫妻関連の初体験が幾つかある。もう40年も昔になるのであろう、モンパルナス近くのあまのしげさんのお宅で、山盛りのムウル貝の白ワイン蒸しをご馳走になった。その後、数え切れないくらいムウル貝を食べたが、あまのしげさん宅のムウル貝の味は忘れられない。又、カルチェ・ラタンのクスクスの店に連れて行ってもらったのも初体験であった。その後、モロッコなどでも何度かクスクスは食べたけれど、カルチェ・ラタンの初体験の味は忘れられるものではない。その店の場所、インテリアなど40年経った今でも鮮明に覚えている。

 

 パエリア用の鍋は機会があれば買いたいと思っているので、昨年はマヨルカのメルカドでも見たけれど、最近のものはアルミ製で、テフロン加工した様なものが主流らしく、昔ながらの鉄製はなかった。アルミではどうも、と思って買わなかった。

 

 今では日本の方がいろいろと何でも手に入るのかも知れない。1メートルのパエリア鍋には恐れ入ったが、タジン鍋などもよく出回っている。その内、ポルトガルのカタプラーナ鍋なども出回り始めるのかも知れない。でも各国料理ごとに専用鍋を揃えていたら、余程広い台所でもその収納場所はおぼつかない。

 土鍋はポルトガルにもあり、それでも寄せ鍋などに使うことはできる。それを日本からわざわざ担いで来られた方が居られる。それも一度に友人の分まで2つだ。その方も「重くて参った!」と言っておられたが、その方が日本に帰られるというので、もう15年も前になるが頂戴した。その後、それは重宝しておでんなどにも頻繁に使っている。

 

 昨日モイタの蚤の市で昔ながらの鉄製で手頃な大きさのパエリア鍋を見つけたけれど、あまりにも錆びすぎていたので買うのは断念した。むしろ骨董価値があるのかも知れないが…。

 

 そして今日、ピニャル・ノヴォの露店市の5ユーロ均一店にパエリア鍋が重ねてあった。柱時計から絨毯、ステンレス鍋、ぬいぐるみ、玩具など5ユーロ均一の為に作られた様な粗悪品が殆どと言った品揃えで、いつもなら横目で見ても決して立ち止まる事はしない店である。ところが今日に限って立ち止まって手に取ってしまった。案外重くてアルミではない。鉄の様だ。底が割合分厚い。テフロン加工ではないがホーロー引きである。これは本格的ではないから駄目だ。と思って元に戻そうとすると、店員がぴたりと横に張り付いて、ビニール袋を広げて、「はい、この袋に入れて~」などと微笑みながら言うからついつい袋に入れてしまった。そして5ユーロ札を1枚払ってしまった。

 後で考えると悪魔の誘導としか考えられないが、まあ、買ってしまったのだから仕方がない。直径35センチのホーロー引きパエリア鍋。本格的ではないが、一応、本場メイド・イン・スペインである。さっそくムール貝などを買って来て、せいぜい自宅でのパエリアを楽しもうかなと思う。VIT

5ユーロのホーローパエリア鍋で作った我が家のパエリア

 

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コメント (1)
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