読書など徒然に

歴史、宗教、言語などの随筆を読み、そのなかで発見した事を書き留めておく自分流の読書メモ。

イチローがヤンキースにもたらす「ブランド力」

2012-07-26 08:55:35 | 新聞
wsj日本版から

野球の観点から、イチロー選手は怪我をしたブレット・ガードナー選手の代わりだとヤンキースは言っている。ガードナー選手も俊足の外野手で、守備のしっかりしたスラップヒッターだからだ。


イチロー選手にはチケットの売り上げ増にも期待がかかる
 しかしヤンキースが獲得したのは、もう一人のガードナーにとどまらない。彼はイチローだ。ある国で最も有名な選手の1人であり、また別の国では全国的に知られたセレブの1人。そして、ファーストネームだけで呼ばれる野球界の憧れの的だ。

 つまり、イチローは野球技能以上のものを持っている。国際的な現象の象徴であり、ヤンキースにとっても米大リーグ(MLB)にとっても、膨大なマネーを意味する。

 ヤンキースは2003~09年にプレーした松井秀喜選手との経験があるため、イチローと一緒にもたらされるこれらの恩恵については十分に承知したうえで取引した。ヤンキースの幹部は、チームはこれらの恩恵を期待していると言う。

 「チケット販売が急伸するだろうし、イチローのユニフォームといったグッズの販売も伸びるだろう。あらゆる部門が潤うと思う」と同じ幹部は述べた。

 そうではあるが、ヤンキースはイチローがプレーの面で以前の力をある程度取り戻すとみているという。

 「(イチローの獲得は)恩恵になるだろうが、これはあくまでも野球の上での判断だ。(付随的な)恩恵については、考慮していない」と、ヤンキース幹部は言う。松井のヤンキース時代に続いて、ヤンキースのブランド力は今、最も大きくなっている。しかし収益のすべてがヤンキースのものになるわけではない。

 関連グッズとテレビ放映権で得られた国内外の収益はMLB所属の30チームで分ける。イチローのヤンキースへのトレードは野球界にとっては否定のしようもなく良いことだが、ニューヨークにとっては多くの人が考えるほど「タナボタ」というわけではないのだ。

 ただヤンキースは直接、地元のグッズ販売と野球場内のテレビ広告から利益を得ることはできる。ヤンキースが松井を迎え入れた際、松井の父親が働くコマツはライトフィールドに大きな広告を出した。 

 しかしヤンキースは広告スペースをすでに完売しているだろう。おそらく、広告料は伸び悩み、広告主の数も減っているかもしれないが、完売しただろう。

 またヤンキースは野球上での判断だとする持論を、松井を手放す決断をした際に示した。2009年のワールドシリーズで最優秀選手(MVP)となったプレーを披露したあと、松井がフリーエージェントとなったときのことだ。日本の報道機関などは、ヤンキースが松井を手放せば1500万ドル(約12億円)の収益を失うと報じた。ヤンキースはこの数字は大げさだとして、結局、松井を手放した。



 だがたとえ、広告やテレビ放映権を巡るマネーが世界レベルで動くとしても、地元に特化された恩恵は必ずあると、米スポーツコープのプレジデント、マーク・ガニス氏は指摘する。同社はヤンキースをはじめ、フランチャイズ展開する事業者が、アジアでのブランド力を高めるための事業を行っている。

 「ヤンキースは少しだけチケットの在庫を持っている。決して多くはないが」とガニス氏は言う。「日本企業のなかにはイチローがニューヨークでプレーしていることを接待などに利用するところもあるのではないかと期待している」

 スミス・カレッジの経済学教授でスポーツビジネスの専門家であるアンドリュー・ジンバリスト氏は、イチローはちょうど良い時期にニューヨークに来たと指摘する。ヤンキースタジアムの観客数が今シーズンの現時点までで平均4万2718人と減少傾向にあるのだ。昨年の同時期は平均4万4216人だった。イチローの移籍で観客動員数の伸びが期待される。ただ、その期間と影響の度合いはイチローの活躍ぶりにかかっているが。

 「(イチローは)ブランド力を上げたと思う」とジンバリスト氏は話す。「問題はその効果がいつまで続かだ」

 電通は世界最大規模の広告代理店の1つで、多くの日本企業による広告スペースの購入や、全米の野球チームのスポンサーシップを手がけている。電通の広報担当、河南周作氏はヤンキースタジアムに日本人ファンが押しかけると見込んでおり、具体的な企業名には言及しなかったが、スタジアム内の広告スペースの需要も伸びると期待していると言う。

 ただ、シーズン途中のイチローの移籍は問題をいくらか複雑にしている。今シーズンのほとんどの広告スペースはすでに販売済みだからだ。しかし広告料をさらに獲得する方法はまだある、とガニス氏は言う。

 「ヤンキースはデジタル広告板を持っているうえ、公共サービス用の標識を商業用スペースに変更することも可能だ。プレーオフの時期にはMLBから、いくらか追加的に広告スペースをもらうこともできるかもしれない」とガニス氏は指摘する。

 コマツが出したようなサイズの広告を出すのは難しいが、あるヤンキースの幹部はそれを実現する企業が出てくるかもしれないという可能性を排除しないでおくように、と言った。

 「ひょっとしたら――必ず実現するとは思わないが、可能性はある。日本で強力な(イチローの)ブランド力と、われわれのブランド力を合わせれば、どこにおいても強力なブランド力になる。それは実現する可能性がある」と同幹部は述べた。

記者: Daniel Barbarisi


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