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「沖縄市場<マチグヮー>文化誌」(小松かおり、ボーダーインク、2007年)を読了した。副題が「シシマチの技法と新商品から見る沖縄の現在」である。
第一牧志公設市場の成り立ちから始まり、大学院学生であった著者が店員助手までやったシシマチ(精肉市場)の仕入れから販売までの詳細は専門的である。売り場の商品の経年的変貌。商品が変われば沖縄の生産現場も変わったのではないかと市場の向こう側まで調査考察されている。その情熱には感心する。現在、著者は、理学博士で、静岡大学人文学部の准教授である。
市場の向こう側の生産現場ということで島豚アグー、モズクと海ぶどう、島バナナに焦点が当てられる。
島豚アグーの復活:
1982年ごろ、名護博物館の島袋正敏氏(著書に「沖縄の豚と山羊」[ひるぎ社おきなわ文庫、1989年]がある)が島豚の全島調査を行い、島豚の血が濃いと思われる18頭の豚を集めた。この島豚、産子数の低さ、肥育の遅さ、産肉性の低さなどから経済性の観点から畜産の対象として保護することが難しかった。そこで名護の農林高校の教諭が沖縄ブランド豚創出の教材につかうため、6頭を引き取った。戦前の在来品種を復活すべく、近親交配を続け、黒色を選別基準として戻し交配を始めた。困難を乗り越え、10年かけて戦前の形質と資質に近いアグーがつくられた。このアグーが元になり、現在のアグー系のブランド豚が生産されているのである。
アグーの特徴で長所というと、「体質強健で病気に強く、粗食に耐え、保育能力が優れていること」と「肉質は良好であること」である。この肉質のよさというのは脂のおいしさのことらしい。生産効率は悪いが美味しいので値段は普通の豚の2.5倍程度という。
モズクと海ぶどう:
小生がモズクを知ったのは、30年以上前の西表島であった。遠浅になった珊瑚礁の浅い砂地を歩いていたときに島の人が海藻のようなものをとっていたので、何かと聞いたら「モズク」だと言われた。まだ、養殖もされていないころで自生のモズクだった。食べたのは、ずっと後のことで養殖モズクだったと思う。今ではスーパーの定番商品になって年中売られている。
海ぶどうは15年以上前に宮古島に行ったとき、居酒屋で食べたのが初めてだった。あのコリコリした食感が気に入った。宮古島だけの特産かと思っていた。当時、沖縄では八重山から本島まで少しずつ分布していたが、宮古島の与那覇湾周辺だけは大量に自生していたという。潮流の速さ、塩分濃度、栄養分の濃度がちょうど海ぶどうの生育に適していたようだ。
その後、モズクも海ぶどうも本島の恩納村で本格的に養殖が始まり、各地に広がり、流通量が飛躍的に増加した。特に海ぶどうは陸上の水槽で養殖されるので那覇市内でも生産されている。著書では、養殖の試行から成功までのエピソードが書かれており、とても興味深い。
島バナナもいろいろ工夫されて栽培されたが、沖縄が台風の通り道になることが多いので安定供給は困難ということだ。
実に面白かった。手元に一冊置いておきたいほどだ。